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恐竜絶滅に新説〜とどめを刺したのは「火山噴火」か

石田雅彦科学ジャーナリスト
白亜期末のアルバートサウルス(いわき市石炭・化石館):撮影:筆者

 約6600万年前、白亜期末の恐竜絶滅の原因については、隕石の衝突説で説明がついている。だが、それだけでは説明しきれない部分があった。

隕石衝突だけでは説明しきれない

 メキシコのユカタン半島に落ちた隕石が、恐竜を絶滅させたのではないかという論文(※1)が1991年に出た。直径約180kmのチクシュルーブ・クレーター(Chicxulub Crater)がその証拠だ。やがて、白亜期末の堆積物や化石などを検証した結果、この隕石が恐竜を絶滅させたという説がほぼ確定する(※2)。

 だが、隕石の衝突だけでは地球規模の壊滅的な環境破壊にはつながらないという意見も根強い。その背景にあるのは、約6700年前に現在のインドのデカン高原がある場所で活発化していた火山活動の存在だ。

 長期的で大規模な火山活動が大きな環境変化を引き起こしたという説を唱える研究者も多い。だが、デカン高原の火山活動は恐竜が絶滅した約6600万年前の白亜期末とは時期が約100万年ずれている。

 先日、米国の科学振興協会(AAAS)が発行している科学雑誌『Science Advances』に新たな論文(※3)が出た。米国のミネソタ大学などの研究者によるもので、隕石の衝突は否定せず、衝突時の衝撃によって地球規模のマグマ活動が海底で引き起こされ、その結果、酸性雨や気温の上昇などの気候変動が起きて恐竜絶滅につながったのだという。

 今回の論文の特徴は、隕石衝突時の地球のフリー・エア異常(the free-air gravity anomaly)という重力異常を海底地形の急速な変化に重ね合わせてみたことだ。

 すると、10万〜100万立方キロメートルの範囲で、過剰な量のマグマが噴出したことがわかったという。10万立方キロメートルは世界の年間降水量とほぼ同じ、100万立方キロメートルはオホーツク海や日本海よりやや少ない量となる。つまり、火山活動時期のずれを重力異常の証拠で修正したというわけだ。

火山活動がとどめを刺したのか

 プレートテクトニクス論によれば、約6600万年前にインド亜大陸はまだインド洋上にあり、ユーラシア大陸にぶつかってはいない。隕石が落ちたチクシュルーブとは地球のちょうど真反対側(antipode)は現在のインド洋と太平洋の間あたりになる。これを現在の海底地形から逆算してみたところ、隕石の衝撃波が大きな影響を与えたことが示唆されたという。

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上は現在の地形から類推された海底隆起の幅。着色が上昇、黒が下降(単位はミリメートル/年)。下の地図は白亜期末の様子。インド亜大陸はまだインド洋上にあり、ユーラシア大陸へ向かって移動中だ。着色部分が重力異常が起きた場所で、チクシュルーブ(Chicxulub)隕石の衝突場所(impact site)の反対側(Chicxulub antipode)に衝撃が伝わったと考えられる。Via:Joseph S. Byrnes, et al., "Anomalous K-Pg-aged seafloor attributed to impact-induced mid-ocean ridge magmatism." Science Advances, 2018

 この仮説を立証するためにまだ材料は少ない。隕石衝突の衝撃でインド洋上にあったデカン高原の火山活動がより活発化したことは、類推されるマグマの総量がちょうどデカン高原を形成している玄武岩の体積に匹敵することでわかるのではないかと研究者はいう。これらの火山活動によって海が酸性化し、白亜期末の恐竜を含む多様な生物が絶滅したこともこれで説明ができるようだ。

 恐竜の絶滅について隕石衝突説だけでは説得力がないという研究者は多く、この議論に決着がつかない原因にもなっている。この研究者も隕石衝突が火山活動を活発化させ、それがとどめを刺したのではないかという。

 以前に紹介した「隕石衝突で煤が舞い上がり大気中で爆発した」説は、その「もう一押し」を炭化水素の高い場所に隕石が落ちたからではないか、というふうに説明した。ただ、今回の論文にこの説は引用されておらず、恐竜絶滅論争では自説に都合の悪い意見は無視する傾向も見え隠れする。

 いずれにせよ、白亜期末にいったい何が起きたのか、その原因究明はまだ続きそうだ。

※1:Alan R. Hildebrand Glen T. Penfield David A. Kring Mark Pilkington Antonio Camargo Z. Stein B. Jacobsen William V. Boynton, "Chicxulub Crater: A possible Cretaceous/Tertiary boundary impact crater on the Yucatan Peninsula, Mexico." Geology, Vol.19(9), 867-871, 1991

※2: Peter Schulte, et al., "The Chicxulub Asteroid Impact and Mass Extinction at the Cretaceous-Paleogene Boundary." Science, Vol.327, Issue5970, 1214-1218, 2010

※3:Joseph S. Byrnes, et al., "Anomalous K-Pg-aged seafloor attributed to impact-induced mid-ocean ridge magmatism." Science Advances, Vol.4, No.2, eaao2994, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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