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SMAP存続の押し付けは、偽善である

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
SMAP解散しちゃいましたね(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

SMAPは散った。これでよかったのだと思う。

彼らは、たとえ突出していなくても輝くことができること、そして「降りていく」勇気を教えてくれた。

めったに見ないスマスマを最後の方だけ見た。なんせ、最後だ。いや、録画して見るほど熱くはない。でも、これは見ないといけないなという気になった、不思議と。「国民的グループ」というのはそういうことだろう。

熱いファンでもないのに、デビュー時から現在に至る構成員たちの写真の数々に泣けてくる。デビューして間もない頃の香取慎吾などは完全に「子供」だ。初期は木村拓哉も含めてカッコいいかというと、そうでもない。なんせ、少年なのだから。でも、ダイヤモンドの原石感がある。コテコテの新人アイドル風の様子から明らかに雰囲気が変わるのは90年代だ。ジャニーズらしからぬ、ドレスダウンした格好、そしてバラエティ番組でトークや料理をする様子は明らかに今までのジャニーズ像とは違うと再確認した。

冠番組が始まってわずか1ヶ月後の森且行の脱退、稲垣メンバーがいない4人での活動時代なども映像として紹介される。初の国立競技場公演の様子にはすっかり大物感を感じる。数々の軌跡、奇跡が紹介されつつ、時はきた。最後の共演。

「世界にひとつだけの花」。何度も聴いた、いや自然に聴こえてきたこの曲のイントロがいつになく寂しく聴こえる。そう、「国民的」なるものはファンとして主体的に「聴く」のではなく、別に好きでもなくても「聴こえてくる」のである。

いつになく中居「くん」の歌い出しがひどい。明らかに音を外しているかのように聴こえる。いや、外している。でも、歌が下手だとよくイジられる彼だけど、他のメンバーのパートになっても、やはり上手いわけではない。歌が下手な上司や取引先のカラオケに付き合ってしまった時のような気分だ。隣で見ていた妻が言う。「SMAPに歌が上手い人なんていないのよ」。うん、NYのショービジネス界なら新人でもこの歌はあり得ない。

でも、この調子外れの国民的ヒット曲、代表曲はいつになく感動的だった。もともと上手いわけではないが、彼らなりに感極まっているのだろう。そして、「世界にひとつだけの花」という言葉の説得力、破壊力は過去最高だった。

私は1997年に会社員になった。よく語られることであるけれど、山一證券、北海道拓殖銀行が経営破たんした年だ。北海道民的なので、拓銀のショックの方が大きかったのだけど。当時の私はリクルートの新入社員で売れない営業マンだった。毎月100時間以上残業し、朝から早朝まで働いていた。年が明け、新人期間もあと少しとなった。

上司と、その元部下で他の課で売れに売れていた先輩に忙しい中居酒屋に呼び出され、乾杯が終わった直後に「お前、もうすぐ新人が入ってくるぞ。お前に教えられることはあるのか」と言われた。黙ってカウンターで泣いた。その頃、リリースされたのが「夜空ノムコウ」だった。イントロの「あれから僕たちは何かを信じてこれたかな」という言葉を聴いた瞬間、やっぱり黙って泣いた。それでも、最後の「夜空のむこうには もう明日が待ってる」という言葉に励まされ、私は「あのころの未来」である今日という日を生きている。

そんな思い出に満ちた「夜空ノムコウ」に比べて、「世界にひとつだけの花」には当初から偽善臭を感じていた。それは、SMAPのような成功者だから言えることでしょ、と。「NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one」と言いつつ、NO.1だからOnly oneになれるんでしょっていうことに私はとっくに気づいていた。いや、誰でもOnly oneだけど、そんなOnly oneには会社も社会も興味はないのだ。

しかし、この日の「世界にひとつだけの花」には妙な説得力があった。普通の少年たちが天下をとっていった様子や、感極まって音程を外しているのではなく、普段から決して上手いわけじゃなかったよな、そんな彼らが国民的グループになったのだよな、と。そして、もう見れないのか、とも。

演奏が終わった後、スタジオで拍手が起こり。中居だけが、ステージの奥の方に行き泣く。泣いているメンバーもいれば、気丈に振る舞う者もいる。抱擁はない。法要みたいだ。5色の花とスマスマのロゴが切ない。謝罪会見以上に「お通夜感」があった。ロックミュージシャンの葬儀で、代表曲を演奏する瞬間のようだ。

でも、何かこう解き放たれたかのように見えたのだ。これで自由になったのだ。5人の才能はそれぞれのステージで広がっていくのだと。

存続を望む署名運動なども盛り上がりを見せた。約37万もの署名が集まったという。ヒットチャートにも「世界にひとつだけの花」は入った。今年だけで40万枚近く売れている。応援購入というムーブメントもあった。

ただ、気持ちは分かるが、存続を望む声には偽善臭も感じていた。このようなボロボロな、SMAPらしくない状態でグループが続いていいのだろうか。そんなことをTwitterで書くと「グループをボロボロしたのは誰だ?」的な反論があった。これまた気持ちは分かるし、芸能通でも業界ゴロでもないので、内部事情は詳しくは分からない。ただ、こんな状態で続くのは彼らがあまりにかわいそうだ。

別によくあるジャニーズ事務所やSMAPブラック企業説を唱えるのではない。ここで確認しておきたいのは「ブラック企業」と呼ばれるような労働環境でなくても、人は心が折れたりするのである。方針をめぐる対立や、人間関係のトラブルもある。労働が過酷でないとしても、働いていて疲弊する職場というものはあるのである。

「SMAPをなんとかして続けて欲しい」という声は、「ストレスの多い職場で、壊れるまで働いてください」と言っているようにも聞こえる。「未来の可能性を捨てて、人生をこれに費やしてください」とも。

そんなものはエゴだ。SMAP存続を願った人は、心が壊れつつも「いいから職場に行け」と同居している独身の子供を説教し、追い込む昭和的価値観の親のように見えてしまう。心の折れた若者を「お前は弱い」と説教する上司にも見えてしまう。心は強い、弱い関係なく折れるのだ。

最高のエンディングではないだろう。SMAPらしい終わり方かどうかも分からない。ただ、その痛々しさも含めて記録にも記憶にも残る終わり方だった。無垢な少年たちが同じ夢の元に集まり、輝き傷つき、散っていった瞬間を見せつけられた。国民的なるものの終わりも。

これで彼らはやっと「降りられる」のだ。この「降りていける」人生こそ、日本社会の希望であり多様性であり、可能性ではあるまいか。それを身をもって示してくれたのだ。

おめでとう。

※常見陽平公式サイト陽平ドットコム〜試みの水平線〜より転載

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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