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NTTドコモ社長交代 日経スクープの「元リクルート」という雑な表記について そして元リク仕草問題

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
docomoで検索したらこれが出てきました。ドコモタワーですね。(写真:イメージマート)

 4月26日5時00分、日経電子版はNTTドコモは前田義晃副社長(54)が社長に昇格する人事を固めた、と報じた。初の転職組でリクルート出身という触れ込みだ。

NTTドコモ社長に初の転職組 リクルート出身の前田氏

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC046830U4A400C2000000/

 前田さんは、同じ事業部で働いていた先輩だ。同じ北海道出身である(なお、彼の札幌北→北大の同期に格闘家の中井祐樹さんがいる)。同じ課になったことはないが、同じ部だった。今どきの若者言葉でいう「よっ友」のような関係だった。親しいわけではないが、北海道つながりでたまに立ち話をする関係だった。

 そんな彼が2000年頃、ドコモに転じると聞いて驚いた。いや、本当に驚いたのはそれ以降だった。メディアを通じ、ドコモ関連の記事や、日経の人事欄で彼の活躍や昇進・昇格を知った(たまに、サービスのトラブルなど不祥事で謝罪会見した様子も見てしまったが)。執行役員や副社長に就任したことも嬉しかったが、思ったよりも早く社長になった。居ても立っても居られなくなり、今朝、日経の記事をSNS投稿した。

 一方、この日経の見出しには違和感を抱いてしまった。さらには、リクルートクラスタのざわつき方にもだ。「リクルート出身」という日経の表記には、嬉しさ半分、疑問半分である。彼がリクルート出身であることは間違いない。先輩がNTTドコモの社長になって嬉しい。ただ、20代を過ごしただけであって、彼の主な実績はNTTドコモ時代が中心のはずだ。それを「リクルート出身」と書くというのは、彼に失礼ではないか(誤読する人はいないと思うが、リクルート出身を名乗るなと言っているわけではない)。リクルートや関係者、得していないかと思った次第だ。

 また、彼がNTTドコモに転じた2000年前後のリクルート、中でも彼や私がいた通信系の部署についても触れておきたい。当時、私たちの部署はネットベンチャーなどの「草刈り場」だった。上司、先輩、同僚が次々にネット企業に転身していった。若手の転職を慰留する立場の事業部長、部長クラスまで転じていった。当時のリクルートは多額の借金があったし、ネットやモバイル推進を始め新領域、新規事業の模索をしていたものの、アクセルを踏んでいたわけではなかった。閉塞感があった。つい、最近まで一緒に働いていた人が、起業したり、スカウトされポジションを用意されたり、株式公開でお金持ちになる人もいて、隣の芝生は青く見えた。いや、リクルートはその約数年後には借金を完済し、さらにはインディード買収、上場など、当時からすると信じられないことが起こるのだが。

 前田先輩は信頼できる営業であり、デキる社員だった。ただ、別に社内表彰の常連でも、早くマネジャーになったわけでもなかった。すべては彼がドコモに転じてから、積み重ねてきたことだ。

 それを雑に「リクルート出身」と書く、リクルートブランドにあやかる日経の記述はいかがなものか。また、当時の閉塞感、空気感も忘れ、なぜ前田先輩を始めとする人たちは当時、リクルートを去っていったのかということを顧みない関係者も、おめでたい人たちである。彼のドコモでの努力をリスペクトしないといけないし、あの頃、在籍していた人は、どうすればあの閉塞感を打破できたのかということを考えなくてはならないのだ。そして、出身者が社長になるたびに、有名になるたびに、営業に行こうとするリクルート仕草が苦手だ。

 NTTドコモから正式な発表はまだだが、前田社長の誕生を祝いつつ、なぜかずっと語られる「元リク」という肩書きについて警鐘を乱打した次第だ。彼のような、リクルートを退職してから「自ら機会をつくりだし」続けた方が、雑に扱われるのは実に残念である。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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