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就職氷河期世代対策は、なぜ当事者に届かないのか?予算を投じて目標未達成の事業の検証を

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
当日の様子です。

5月22日(水)8時、国民民主党の就職氷河期世代PTで講演した。座長は就職氷河期当事者としてのコメントが国会でも話題となった伊藤孝恵さんだ。そもそも就職氷河期とは何かという定義をした上で、これまで政府が進めてきた就職氷河期対策の難点を完膚なきまでに批判し、現実的な策から極論・暴論まで解決策を提案してきた。

国民民主党のHPでも紹介された。

【就職氷河期PT】常見陽平准教授からヒアリング

https://new-kokumin.jp/news/policy/20240522_1

その場だけの内緒の話、暴露話は墓場まで持っていくとして、ポイントを共有しよう。第二次安倍政権の後期において、就職氷河期世代対策が打ち出され、政策が立案され、実行されたこと自体、私は評価している。ただし、遅すぎた。さらには、政策が実態とズレている。結果として、当事者に届かない政策となっている。下請けの人材ビジネス業者は、適切な水準の報酬を得ることはできる(ただ、公共事業なので、利益率が高いわけではない)。結果、誰も得しない政策になってしまう。

私はここ数年、複数の自治体の就職氷河期世代対策事業に関わってきた。具体的には、この世代を積極採用するよう企業に啓発し、その採用ノウハウを伝授するためのセミナー講師、さらには事業の評議員などを担当してきた。

具体的な数字はぼかして説明するが、人手・人材不足もあって、企業向けセミナーの動員は好調だ。ただ、当事者向けのセミナー、マッチングイベント、カウンセリング、選考などの参加者数が芳しくない。結果として、当事者と積極採用企業が恩恵を受けない政策になっている。これが現状の問題だ。「人材ビジネス企業しか勝たん」というわけだ。いや、その人材ビジネス企業も疲弊してしまう。

なんせ、当事者に施策が認知されていない。ただ、ハローワークのポスターやチラシ、地方紙の広告、ウェブ広告などあらゆる手段を使ってもなかなか届かない。広告で告知するコンテンツとの兼ね合いもあるのだが、毎年、手段ごとのレスポンス数はかわり、どれが有効な告知手段かも特定することができない。

さまざまなギャップ、ミスマッチも問題だ。セミナーの内容が求職者の求めるものや、期待するレベル感とズレている可能性もある。就職氷河期世代を積極採用する企業のその姿勢は評価するが、必ずしも求職者にとって魅力的な企業とは限らない。一方、就職氷河期世代の当事者の就職・転職に関する知識も必ずしもアップデートされていない。たとえば、当事者たちの声をみると、資格を取らなくては正社員として働けないと思っている人もいた。

企業の就職氷河期世代採用は、応募者が少ないのだが、自治体の「氷河期枠」は数百倍の倍率になるほどの応募がある。この倍率は、人気企業を超えるレベルである。就職氷河期世代採用の趣旨からズレるレベルの競争ではないか。私の友人も応募したのだが、僅差で不合格だった。南山大学卒、メガバンクに20年近く勤務、妊活のために離職するが、再び働こうと思い応募したという。私たちが思い描く就職氷河期像、および就職氷河期世代対策と、諸々合致しているだろうか。

何度もいうが、就職氷河期世代対策に国が乗り出したこと自体は評価する。この世代が苦労したのは自己責任ではなく、会社責任、社会責任だ。一方、ズレた政策もまた、就職氷河期世代を冒涜する。「予算を投入したのに、応募がないのは自己責任だ」という論点のすり替えにすらつながる。

その場でも提案したのだが、まずは就職氷河期世代の、中でも仕事に就いていない者、非正規で働く者の実態把握が必要である。就職氷河期世代に関しても、楽観視する動きがある。というのも、失業率などから考えて、実際には現在、仕事に就いているのではないか、(やや誤解を呼ぶかと思うが)結婚していて収入を補うために非正規雇用で働いているのではないかなどの見方だ。実態を明らかにするためにも、調査に予算を投じるべきではないか。

メディアも「かわいそうな図」ばかりを追う。答ありきの報道になっていないか。

この記事でも警鐘を乱打したが、本当に就職氷河期のリアルを追っているのかということを我々は問わなくてはならない。

読売新聞捏造報道問題と「自分のイメージと違った」ら誘導尋問する全国紙記者たち 私の被害報告(常見陽平)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/39975e68d19d4523d225751eb41050308922928e

やや極論、暴論だが、自治体だけでなく経団連企業に「就職氷河期世代採用枠」を設ける、就職氷河期世代人材バンクを設立するなど、納得感のあるマッチングを実現するための取り組みも必要だ。

もちろん、ある特定の世代に対する政策・施策に是非も問われるだろう。世代にとらわれず、課題別に対応した方が予算が有効に使えるという声もあることだろう。

この世代がますます自己責任論に振り回されないためにも、現実を確認すること、現状の政策を検証することが必要だ。「やってる感」だけでは誰も救われないのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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