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読売新聞捏造報道問題と「自分のイメージと違った」ら誘導尋問する全国紙記者たち 私の被害報告

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
読売新聞も小林製薬もよい写真がなかったんですよ。私の写真だとあれなので。(写真:アフロ)

読売新聞の小林製薬の紅麹サプリを巡る談話捏造問題は、あってはならない問題だ。「真実を追求する公正な報道、勇気と責任ある言論により、読者の信頼にこたえる」という同社の方針に反する行為だ。ただ、謝罪をし、しかるべき処分を行った読売新聞の対応はまっとうではある。

ただ、残念ながら記者やディレクターが「自分のイメージと違った」とは言わないまでも、「自分のイメージと合う」コメントを期待することは日常茶飯事、平常運転であり、日本のメディアでよく行われていることだ。この点について警鐘を乱打しておきたい。広報担当者としてメディア対応をしていた約20年前も、論者として取材対応、メディア出演をする今も、変わらない光景である。ずっと目の前で起こっていることだ。これは媒体や担当者の経歴、性別など関係なく起こることだ。

取材する側が期待しているコメントが出てくるまでに誘導尋問される、9割の取材が無視され、1割のコメントが切り取られるということはよくある。記者が「つまり、◯◯ということですね?」「◯◯と書いても構わないですね」と結論をまとめようとすることもある。読売新聞の事案のように、「自分のイメージと違った」から「捏造」し、それが載ってしまうのは言語道断だが、「自分のイメージと合うような」コメントが取れるような取材をし、それを書いてしまう記者、メディアも問題だ。

なお、最近の記者はだいぶ人当たりがマイルドになったが(あるいは私が年齢を重ね、対応を選んでいるのかもしれないが)、昔は罵倒することでコメントを引き出す記者もいた。「そんなわけ、ねえだろ!本当のことを、言えよ!」と当時、平河町にあった出版社で看板ビジネス雑誌の副編集長に恫喝されたことがあった。「おらおら、書いちゃうぞ」「これで話しやすくなっただろ、あー」など、言葉責めを繰り返す経済紙記者もいた。

やや別の論点ではあるが、そもそも、その記者なりディレクターが伝えよう(いや、描こう)としているニュースの論拠が脆弱であることもよくある話だ。数字に弱い記者が多すぎないか。

私の関連する雇用・労働分野では、例えば、次のような記述に気をつけなくてはいけない。いや、データやファクトをぱっとみるとそう思うだろう。ただ、分析を伴わない素人の視点が全国紙に載ってしまっている。

・「女性が活躍している企業は、リーマン・ショック後も株価の下落率が低かった」→株価は様々な要因で決まるものであり、これはさすがに雑だろう。グローバル展開している企業の場合、日本の人材マネジメントの取り組みが劇的に業績に反映されるわけでもない。多様な人材が活躍しているから業績が良いのか、業績が良いから多様な人材を雇用する余裕があるのかという点もよくある批判だ。しかも、これは、約10年前に経産省のダイバーシティー推進関連のレポートに載っていた記述なのだ。

・「働き方改革が進み、労働時間が減っても、A社の業績はむしろ上がった」→業績は自社の努力「だけ」では上がらない。市場全体が伸びている場合もあり、競合他社と比べたら負けているかもしれない。

・「企業は脱新卒一括採用に向かっている。3メガバンクでは新卒採用と中途採用の比率が同程度になり、企業によっては新卒の数を抜いた」→いやいや、根強く、過去最高くらいのレベルで過熱しているのが新卒採用であって。メガバンクに関しては2010年代半ばから採用を絞った時期もあった。DX、AIなど新卒で補いきれない部分を採っているという側面もあり。これで脱新卒一括採用を論じ、断じるのは雑。

このようにそもそも、事実の捉え方が雑で、論拠が薄弱なのが問題だ。とはいえ、伝えたい(いや、描きたい)世界があり。これに、自分の意図に合うような「専門家」のコメントをくっつけて説得力をもたせようとするのが、日本のメディアである。

最近、私の眼の前で何度も起こったことでいうと、「4月に入社後すぐに、退職代行などを利用して、あっさりと辞める新入社員像」に関する取材ラッシュだ。4月に何度も取材を受けた。

「最近の若者は早期離職も転職もあたり前」という絵を描きたかったのだろう。ただ、これまた注意して論じなくてはならない問題だった。

この問題に関する論拠は「入社数日、1週間、1ヶ月などで辞めたという新入社員(と思われるアカウント)のSNS投稿があった」「退職代行会社の4月時点での新入社員からの依頼が昨年よりも大きく増えている」というものだ。実際に入社後1日なり、1ヶ月以内の離職率、離職人数に関する信頼できるデータは見たことがないし(あったら教えてほしい)、これらの報道でも記述はない。

「早期離職」という意味では、3年以内離職率(入社後1年、2年、3年以内の離職率)は官庁のデータとして公表されている。ただ、この約35年間、若干の増減はあるものの、大卒者が3年で3割前後離職する傾向は変わらない。また、これは「ブラック企業に騙された」「若者の自己実現志向」「若者が打たれ弱い」などと「推測」することは勝手だが、そうとは断じられない。最高の労働環境が用意されていても、求人数が増え、転職先の環境がより良ければ動く。そもそも、若者はなぜ早期退職をするかというと、早期退職できるからだという見方もある。

というわけで、読売新聞の事案にショックを受けつつも、「イメージに合ったコメント」を引き出そうとする記者やディレクターはどこにでもいるのである。

「◯◯さん、ひょっとして◯◯という絵をつくろうとしていませんか?」

「◯◯さん、まさかこれだけの論拠、コメントで、◯◯だと断じようとしていませんよね」

「◯◯さん、それはさすがに雑だと思いますよ」

と牽制するのが私の処世術である。さらに、明らかに切り取りだった場合や偏っている場合は、記者や編集者にちゃんと伝える、SNS上で釈明する、など。

「読売、けしからん」で終わらせてはいけない。すべての報道は偏っている可能性があるのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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