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台風10号から変わった熱帯低気圧(温帯低気圧)が持ち込んだ暖湿気で大雨と危険な暑さ

饒村曜気象予報士
タイトル画像 台風10号から変わった熱帯低気圧(9月1日12時)

台風10号が熱低化

 非常に強い台風10号が、8月29日8時頃、鹿児島県薩摩川内市付近に上陸し、九州・四国をゆっくりと、迷走しながら縦断しました。

 これは、台風を動かす上空の風が弱かったためですが、9月1日12時に東海沖で熱帯低気圧になりました(タイトル画像)。

 この熱帯低気圧は、今後、北上して東海から北陸地方へ進み、北日本にある前線と一緒になって温帯低気圧に変わる見込みです(図1)。

図1 地上天気図(上:9月1日12時)と予想天気図(下:9月2日9時の予想)
図1 地上天気図(上:9月1日12時)と予想天気図(下:9月2日9時の予想)

 台風の定義が、「北西太平洋で最大風速が17.2メートル以上」ですが、この風速基準を下回ったため熱帯低気圧に衰えたのです。

 ただ、衰えるといっても風の話であり、雨は全く別の話です。

 台風10号の動きが遅いため、台風周辺の雨雲により強い雨が長時間続き、九州や四国では線状降水帯が発生するなどして大雨になっています。

 加えて、台風周辺の暖かくて湿った空気が北上したため、西日本から東日本の太平洋側では400ミリ以上も降っています。

 そして、熱帯低気圧が進む東海から北陸、前線がある北日本では、さらに100ミリ以上の大雨が降る可能性があります。

 これまでに降った記録的な大雨により土砂災害の危険度が高まっていますので、広い範囲では、土砂災害に厳重に警戒し、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に警戒が必要です。

 また、台風10号から変わった熱帯低気圧(から変わった温帯低気圧)が通過したあとも、太平洋高気圧の縁を回るように暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が非常に不安定となる見込みです(図2)。

図2 発雷確率(9月2日夕方の予想)
図2 発雷確率(9月2日夕方の予想)

 積乱雲が発達しやすくなっていますので、近畿から東日本では、落雷や竜巻などの突風、急な激しい雨に注意・警戒が必要です。

熱中症になりやすい湿った高温

 暖かく湿った空気が流れ込むと、落雷や激しい雨の心配がありますが、熱中症も発生しやすくなります。

 気象庁と環境省が共同で、全国59地域(都府県毎、北海道と鹿児島県・沖縄県は細分)を対象に、前日夕方と当日朝の1日2回、「熱中症警戒アラート」を発表しています。

 観測史上一番暑かったのは、昨年、令和5年(2023年)で、年間の熱中症警戒アラートの発表件数は、のべ1232地域でした。

 しかし、今年の熱中症警戒アラートは、9月1日までで、のべ1486地域と、早くも記録的な暑さだった昨年を2割以上も上回っています(図3)。

図3 熱中症警戒アラートの発表回数(令和4年・令和5年と令和6年の比較)
図3 熱中症警戒アラートの発表回数(令和4年・令和5年と令和6年の比較)

 これだけ、今年は熱中症になりやすい湿った暑さの日が多かったといえるでしょう。

 台風10号が熱帯低気圧に変わったといっても、日本列島に暖かくて湿った空気を持ち込んでいることには変わりがありません。

 このため、9月2日も熱中症になりやすい湿った暑さとなり、全国の7地域に熱中症警戒アラートが発表されています(図4)。

図4 9月2日の熱中症警戒アラートの発表状況(前日17時発表)
図4 9月2日の熱中症警戒アラートの発表状況(前日17時発表)

 今年に入って和歌山は51回目、三重は45回目の発表ですが、岩手県は今年2回目、宮城県は今年初の発表です。

 熱中症警戒アラートが発表となっている地域は勿論、発表がない地域でも、暑さ指数が31以上の「危険」となる地域が西日本から東北まで広がっていますが、暑さ指数31以上のところは、高齢者においては安静状態でも発生する危険性が高い地域です。

 外出はなるべく避け、涼しい室内に所に移動してください。

台風11号の発生

 令和6年(2024年)は、台風の発生が遅く、第1号がフィリピン近海で発生したのは、5月26日でした。

 台風の統計が作られている昭和26年(1951年)以降、台風1号が一番遅く発生したのは、平成10年(1998年)の7月9日で、令和6年(2024年)は、史上7番目の遅さということになります。

 強いエルニーニョ現象が終息した年は、台風1号の発生が遅いという傾向がありますが、今年、令和6年(2024年)も非常に強いエルニーニョ現象が終息した年です。

 そして、5月31日には、南シナ海で台風2号が発生したのですが、その後は、約2か月にわたって台風の発生がありませんでした。

 台風3号が発生したのは7月20日で、フィリピンの東海上でした。翌21日には南シナ海で台風4号が発生しましたが、平年であれば7月までに8個位発生しますので、平年の約半分という、かなり少ない発生数の年であったということができます(表)。

表 台風の発生数・接近数・上陸数(2024年と平年値)
表 台風の発生数・接近数・上陸数(2024年と平年値)

 しかし、8月はになって平年並みの6個発生しましたが、7月までの少ない発生数を補うことはできず、平年より4個位少ない発生数となっています。

 ただ、9月に入って早々、複数の台風が発生しそうです。

 まず、9月1日21時に台風11号がフィリピンの東で発生しました(図5)。

図5 台風11号の進路予報と海面水温(9月2日0時)
図5 台風11号の進路予報と海面水温(9月2日0時)

 台風11号は北西進を続け、バシー海峡を通って南シナ海に入る見込みです。

 今の所日本への影響はない見込みですが、転向して沖縄県先島諸島に接近する可能性もあり、その動きに注意が必要です。

 また、北太平洋中部にトロピカルストーム「ホネ(HONE)」があり、ミッドウエイの南を西よりに進んでいます。

 気象庁は、東経180度以西の北西太平洋で、最大風速が17.2メートル以上の熱帯低気圧を台風と呼んでおり、北太平洋中部や東部にあるトロピカルストーム(最大風速が17,2メートル以上、32.7メートル未満)、または、ハリケーン(最大風速が32.7メートル以上)が西進を続け、東経180度を越えて北西太平洋に入ってきた場合は、その時点で台風発生としています。

 この越境台風は、5年に1個くらいはあり、昨年、令和5年(2023年)の台風8号も越境台風でした。

 トロピカルストーム「ホネ(HONE)」が、西進を続け、東経180線をこえて北西太平洋に入ってくる見込みですので、まもなく台風12号が発生しそうです。

 このほか、熱帯の海上には発達した積乱雲の塊がいくつかあり、この中から熱帯低気圧に組織化されるものがでてくる可能性があります。

 9月は台風の発生数が多いだけでなく、大災害をもたらす台風が特に多い月です。台風情報には、日ごろから注意してください。

タイトル画像、図2、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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