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台風10号による大雨に警戒 越境台風11号とフィリピン東で12号発生の可能性があり9月も台風ラッシュ

饒村曜気象予報士
越境台風11号になりそうな太平洋東部のトロピカルストーム(8月31日12時0分)

台風10号が迷走

 非常に強い台風10号が、8月29日8時頃、鹿児島県薩摩川内市付近に上陸し、九州・四国を通過し、現在は和歌山県潮岬の南海上にあります。

 台風10号は、台風を動かす上空の風が弱いために動きは遅く、迷走していますが、9月1日は三重県を北上しそうです(図1)。台風情報は最新のものをお使いください

図1 台風10号の進路予報と気象衛星から見た背の高い雲(8月31日21時)
図1 台風10号の進路予報と気象衛星から見た背の高い雲(8月31日21時)

 台風10号が薩摩川内市付近に上陸した頃は、中心気圧が935ヘクトパスカル、最大風速50メートル(最大瞬間風速70メートル)で、九州南部では、暴風・波浪・高潮の各特別警報が発表となりました。

 しかし、台風10号は上陸後に暴風域がなくなり、8月31日21時の段階では、中心気圧996ヘクトパスカル、最大風速18メートル(最大瞬間風速25メートル)まで衰えています。

 台風の定義が、「北西太平洋で最大風速が17.2メートル以上」ですので、この風速基準をわずかに上回る、ギリギリの台風で、台風10号の中心付近には背の高い雲はありません。

 そして、まもなく、台風10号は、最大風速が17.2メートル未満に衰え、熱帯低気圧に変わる見込みです。

【追記(9月1日13時30分)】

 台風10号は9月1日12時に東海沖で熱帯低気圧に衰えましたが、雨に警戒すべき状態は続いています。

 ただ、衰えるといっても風の話であり、雨は全く別の話です。

 台風10号の動きが遅いため、台風周辺の雨雲により強い雨が長時間続き、九州や四国では線状降水帯が発生するなどして大雨になっています。加えて、台風周辺の暖かくて湿った空気が北上したため、近畿から東北まで局地的な大雨になっています。

 8月27日0時から31日24時までの96時間降水量は、宮崎県・えびの高原で863.0ミリ、静岡県・天城山で776.0ミリなど、西日本から東日本の太平洋側では400ミリ以上の大雨が降りました(図2)。

図2 96時間降水量(9月28日0時から31日24時までの96時間)
図2 96時間降水量(9月28日0時から31日24時までの96時間)

 台風10号の中心付近には、背の高い雲はなくなりましたが、台風の東側には、背の高い積乱雲の塊があって北上しており、神奈川県から静岡県では、さらに150ミリ以上の雨が降る見込みです(図3)。

図3 48時間予想降水量(8月1日0時から2日24時)
図3 48時間予想降水量(8月1日0時から2日24時)

 また、気象庁では、9月1日午前中にかけて、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京地方、神奈川県、山梨県、長野県、伊豆諸島では、線状降水帯が発生して大雨災害発生の危険度が急激に高まる可能性があると、警戒を呼び掛けています。

 西日本から東日本では、すでに降った大雨によって地盤が緩んでいる所がありますので、引き続き、土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に厳重に警戒してください。

令和6年(2024年)の台風

 令和6年は、台風の発生が遅く、第1号がフィリピン近海で発生したのは、5月26日でした。

 台風の統計が作られた昭和26年(1951年)以降、台風1号が一番遅く発生したのは、平成10年(1998年)の7月9日で、令和6年(2024年)は、史上7番目の遅さということになります。

 強いエルニーニョ現象が終息した年は、台風1号の発生が遅いという傾向がありますが、今年、令和6年(2024年)も非常に強いエルニーニョ現象が終息した年です

 そして、5月31日には、南シナ海で台風2号が発生したのですが、その後は、約2か月にわたって台風の発生がありませんでした。

 台風3号が発生したのは7月20日で、フィリピンの東海上でした。翌21日には南シナ海で台風4号が発生しましたが、平年であれば7月までに8個位発生しますので、平年の約半分という、かなり少ない発生数の年の前半であったということができます(表)。

表 台風の発生数・接近数・上陸数(2024年と平年値)
表 台風の発生数・接近数・上陸数(2024年と平年値)

 しかし、8月になると台風の発生は増え、平年並みの6個発生しましたが、7月までの少ない発生数を補うことはできず、平年より4個位少ない発生数となっています。

 ただ、9月に入って早々に台風が続けて発生しそうです。

 一つは、越境台風で、台風になれば台風11号です。

越境台風

 気象庁は、東経180度以西の北西太平洋で、最大風速が17.2メートル以上の熱帯低気圧を台風と呼んでいます。

 このため、中部太平洋や北東太平洋にあるトロピカルストーム(最大風速が17.2メートル以上、32.7メートル未満)、または、ハリケーン(最大風速が32.7メートル以上)が西進を続け、東経180度を越えて北西太平洋に入ってきた場合は、その時点で台風発生としています。

 この越境台風は、5年に1個くらいはあり、昨年、令和5年(2023年)の台風8号も越境台風でした。

 現在、トロピカルストーム「ホネ(HONE)」が中部太平洋にあり、ミッドウエイの南を北西に進んでいます。

 タイトル画像は、トロピカルストーム「ホネ(HONE)」ですが、気象衛星「ひまわり」から斜めに見ているため、少し歪んで見えます。このトロピカルストーム「ホネ(HONE)」が、西進を続け、東経180線を越えて北西太平洋に入ってきそうです(図4)。

図4 専門家向けの地上天気図(上:8月31日9時)と予想天気図(中:9月1日9時の予想、下:9月2日9時の予想)
図4 専門家向けの地上天気図(上:8月31日9時)と予想天気図(中:9月1日9時の予想、下:9月2日9時の予想)

 つまり、越境台風である台風11号になりそうです。

【 追記(9月3日15時)】

トロピカルサイクロン「ホネ」は、東経180度線を越えて北西太平洋に入る直前に、熱帯低気圧に衰えました。このため、越境台風にはなりませんでした。

 この越境台風は、台風の緯度が高いことから日本に接近前に北上して転向し、日本へは直接の影響はないと考えられますが、問題はフイリピンの東の熱帯低気圧です。

 台風に発達するかどうかは、現時点では不明ですが、発達して台風12号となった場合は、9月に日本を襲う台風のコースですので、注意が必要な熱帯低気圧です。

【追記(9月1日10時40分)】

 気象庁は、9月1日10時30分にフィリピンの東の熱帯低気圧は、今後24時間以内に台風に発達する見込みと発表しました。このため、越境台風より先に台風となり、こちらのほうが台風11号となる可能性がでてきました。

 このほか、地上天気図では表現されていませんが、赤道域には、いくつも発達した積乱雲の塊があり、この中から、熱帯低気圧に組織化されるものがでてくるかもしれません。

防災の日・少しでも災害への備えを

 9月1日は防災の日です。

 毎年この日は、地震などの自然災害に対する防災訓練が大規模に行われています。

 防災の日が9月1日と決められたのは、大正12年(1923年)のこの日に関東大震災が発生したことにちなむものですが、「防災の日」が具体化したのは伊勢湾台風によってです

 「防災の日」が作られたのは、昭和35年6月17日の閣議了解事項としてですが、この直接のきっかけとなったのは、前年9月の伊勢湾台風です。

 死者・行方不明者5000名以上という大災害となった伊勢湾台風の教訓は、以後のいろいろな防災対策に生かされてきましたが、その1つがこの「防災の日」の設置です。

引用:昭和35年6月17日 閣議了解事項
防災の日の創設について
政府、地方公共団体等関係諸機関をはじめ、広く国民が、台風、高潮、津波、地震等の災害についての認識を深め、これに対処する心構えを準備するため「防災の日」を創設する。「防災の日」は9月1日とし、この日を中心として、防災思想の普及、功労者の表彰、防災訓練等これにふさわしい行事を実情に即して実施する。上記の行事は、地方公共団体の緊密な協力を得て行うものとする。

 災害は忘れた頃にやってきます。9月1日の防災の日には、地震災害だけでなく、いろいろな自然災害を考え、それに対して少しでも備えましょう。

 完璧に備えるには、必要なお金も、備えたものを置いておく場所も、かなりのものが必要ですし、イザというときに、すぐに使えるようにするためのメンテナンスの手間もばかになりません。このため、完璧な防災だけを目指すと、費用や手間からあきらめて何もしないという最悪の結果になる可能性があります。

 少しの備えでも実施することは、完璧な防災にならなくても、何もしないよりは災害がはるかに軽減されます。

 少しでも長く生きることができれば救助隊が間に合いますし、死亡するところが重傷に、重傷のところが軽傷になれば、その後は全く違ったことが起きます。

タイトル画像、図1、図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

表の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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