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秋の新ドラマにも続々登場! なぜ「芸人俳優」が増えているのか?

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(提供:イメージマート)

10月8日スタートのドラマ『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』(日本テレビ)に片桐仁が出演する。研修医が主人公の医療ドラマで、片桐は研修医を育てる立場の腎臓内科医・大賀寛太役を演じる。また、10月20日スタートのドラマ『Sister』(読売テレビ・日本テレビ系)ではアキラ100%が、10月スタートの連続ドラマ『差出人は、誰ですか?』(TBS)では、島田珠代や納言の薄幸が出演する。

このように、近年、芸人が俳優業に進出する事例が相次いでいる。今ではテレビドラマに芸人がキャスティングされるのは当たり前のことになり、見る側がそれに違和感を覚えることもなくなった。なぜ芸人が続々とドラマに出るようになったのだろうか。

もともとは芸人が芝居をしたり、ドラマや映画に出たりするのはそれほど珍しいことではなかった。喜劇的な物語の中で役柄を演じる人は「喜劇役者」「喜劇俳優」などと呼ばれることが多かった。

たけし・さんまが芸人俳優の先駆者

最近の「お笑い芸人」は、漫才、コント、ピン芸などのうちいずれかの芸を専門にしていて、テレビでもタレントとして活動していることが多い。そういう新しいタイプの芸人が本格的に俳優業に進出し始めたのは、恐らくビートたけしや明石家さんまの頃だろう。

たけしは1983年に大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』に出演して話題になった。さんまは1986年放送の『男女7人夏物語』で主演を務めた。バラエティの最前線で人気を博していた芸人が、コメディタッチではないドラマに出演するのは異例のことであり、『男女7人夏物語』は続編が作られるほどの大ヒットを記録した。

その後、バラエティ畑の若手芸人が本格的に俳優業になだれ込むきっかけの1つとなったのは、当時アリtoキリギリスというコンビを組んでいた石井正則が、脚本家の三谷幸喜に抜擢されて、人気ドラマの『古畑任三郎』に出演したことではないかと思う。石井はその後コンビを解散し、現在では俳優業を中心に活動している。この時期から少しずつドラマで芸人を起用する動きが活発になっていった。

ドラマに芸人を起用するメリット

なぜ芸人が俳優としてそれほど重宝されるのか。起用する側の心理を紐解いてみると、そもそも芸人は演技が上手いから、ということが真っ先に挙げられる。

芸人は普段からコントで役柄を演じている。コントでは、普通の芝居よりも短い尺で状況や心理を伝えなくてはいけないし、もちろん笑いも起こさなくてはいけない。コントとは演劇の時間をギュッと凝縮したようなものだ。そこには特別な表現力が求められる。だからこそ、コントができる芸人は演技も上手い人が多い。

また、芸人の多くは自分たちでネタを考えている。これは芝居の世界で言えば、演じ手と脚本と演出を兼ねているようなものだ。芸人は脚本を書いたり演出をしたりする側の心理も知り尽くしている。だから、俳優として自分がそこに合わせることにも抵抗がない。

芸人は演じられる役柄の幅が広いというのもメリットだ。今どきの人気のある若手俳優は美男美女ばかりで、脇を固めるコメディリリーフ的な存在や個性の強い役柄を演じられる人材が慢性的に不足している。また、芸人であれば年齢や性別の幅も広く、さまざまな役柄に合った人材が豊富に揃っている。

芸人の俳優とひとくちに言っても、本職さながらの演技を見せる「本格派」もいれば、芸人としての個性がそのまま魅力になっている人もいる。

さらに、芸人を起用することで、普段ドラマを見ていないバラエティ番組の視聴者にも関心を持ってもらうことができる。今の時代、ドラマとバラエティの間の壁はなくなりつつあり、番宣のためにドラマ俳優がバラエティ番組に出るのも一般的になった。

そういう場にバラエティ慣れしている芸人俳優がいると安心感があるし、その人を通してドラマやほかの俳優のことを魅力的に伝えられる。それがドラマ視聴者の裾野を広げることにもつながる。

俳優業で芸人の「格」が上がる

一方、俳優業をやることは芸人側にもメリットがある。まず、俳優をやることでタレントとしての格が上がるという側面がある。芸人の社会的な地位は昔よりはるかに向上したとはいえ、やはり芸人というだけで不当に低く見られてしまうこともある。芸人が俳優をやることで、タレントとしての格が上がったと思う人はいまだに存在するのだ。

また、ドラマに出ることで、普段バラエティ番組を見ない層にも自分のことを知ってもらうことができる。特に、NHKの朝の連続テレビ小説や大河ドラマなどは、それだけを熱心に追いかける中高年層に支えられているため、そこにリーチできるのが大きい。

まとめると、芸人のドラマ出演が増えているのは、ドラマのスタッフにも芸人にも視聴者にもそれぞれメリットがあるからだ。これからもこの流れは続くだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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