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借金億超え!? 粗品の「マネーエンタメ」が圧倒的に支持される理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(提供:アフロ)

数年前、ギャンブルに夢中になって多額の借金を抱えている「クズ芸人」と呼ばれる人たちが注目されたことがあった。彼らは自らクズ芸人を名乗り、堂々とギャンブルの魅力を語ったり、人にお金を借りるコツなどについて解説したりしていた。

そんな中でも、霜降り明星の粗品はわが道を行く異色の存在だ。ギャンブルに惜しげもなく大金を注ぎ込み、膨大な額の借金を重ねるさまを、自身のYouTubeチャンネルで面白おかしくネタにしている。

今年の初めに、そんな粗品の「善行」が話題になったことがあった。YouTube動画の中で、彼は新年早々、約2400万円の馬券を的中させたことを報告。さらに、その払戻金全額を石川県に寄付したことを発表した。

粗品は馬券が当たったことを知らせる動画の撮影中、その場で石川県の公式ホームページを開き、能登半島地震災害の義援金の振込口座を調べて、迷わず入金を行った。ただのギャンブル中毒者だと思われていた芸人が、突然、巨額の募金を行ったことで、驚きや称賛の声が相次いでいる。

その後に公開された動画では、寄付の際に競馬に注ぎ込んだ元本と払戻金にかかる税金を考慮に入れていなかった上に、払戻金の一部を別のレースですってしまったため、約1000万円の借金が増えることになったと報告していた。

もともと約1億円弱の借金を抱えていたという粗品は、その負債額をさらに約1000万円増やしたことになる。「桃鉄」感覚で大金を増やしたり減らしたりする粗品の「マネーエンターテイメント」は、寄付の後にも続いていた。

たしかに粗品はギャンブル好きではあるし、借金を重ねてもいるのだが、ほかのクズ芸人と呼ばれるような人たちとひとくくりにされることは少ない。テレビでこの話題を積極的にネタにすることも比較的少なく、自身のYouTubeチャンネルでの発信がメインになっている。

そもそも、粗品は本当にギャンブルが好きなのかどうかもよくわからないところがある。もちろん、あれだけ大金を費やして夢中になっているように見えるのだから、嫌いではないのだろう。

だが、ほかのクズ芸人のように、競馬やパチンコなどの特定のギャンブルに関する細かい知識やこだわりを披露したり、愛情や愛着を語ったりすることは実はあまりない。むしろ、何の執着もなくお金を捨てるようにギャンブルをすること自体にとらわれていて、賭け事の中身にはそこまで関心がないように見える。

また、粗品はゲーム配信でスーパーチャット(投げ銭コメント)をしてくれる人に対しても、もらえる金額の大小に応じて「太客」「細客」などと呼んで、明確に区別する対応をしている。

この行動だけを見るといかにも金の亡者のような感じがするが、実際には「金の亡者キャラ」を演じることを通して、見る人を楽しませることに徹していて、お金そのものにはさほど興味がないように感じられる。

クズ芸人キャラが花開く前の粗品は、あまりにもまぶしすぎる経歴を持つお笑い界のスーパーエリートだった。アマチュア時代にピン芸人として関西若手芸人の登竜門と言われる『オールザッツ漫才』(毎日放送)の「フットカットバトル」で優勝。斬新な視点のフリップ芸で爆笑をさらい、圧倒的なセンスを見せつけていた。

せいやとコンビを結成して、2018年には20代の若さで『M-1グランプリ』を制して史上最年少王者となった。直後に粗品はピン芸で『R-1ぐらんぷり』も制して、(当時)史上初の「M-1」「R-1」二冠王者となった。

ここまでの実績は文句なしの超優等生なのだが、その後、彼はその枠からはみ出すようにクズ芸人化を進めていった。無粋な見方かもしれないが、その動きはある程度は意識的なものではないか。

エリート芸人の粗品に唯一不足していたのは、昔ながらの芸人らしい「悪の香り」だった。彼はそれを自ら補うために、多額の借金を重ねて「マネーエンターテイメント」に身を投じているのではないか。

粗品の借金ネタは、今後もいくらでも大金を稼ぎ続けられる才能の持ち主であると誰もが認めている彼だからこそ許されるような、究極の「体を張った笑い」である。

人間が何かに大金を費やすことを見せるだけなら、YouTubeでもバラエティ番組でもいくらでも前例はある。しかし、粗品は常人離れしたセンスと覚悟によって、それを前代未聞の刺激的なエンタメショーにしてしまった。

芸人にも品行方正が求められる時代に、粗品は今の倫理観や価値観の中で新しい形の型破りな芸人像を体現している。異端のギャンブル芸人が賭けているのは人生という名のチップなのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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