お盆に知っておきたい「お墓」の相続ルール~特殊な財産、離婚で厄介にも!
お盆休みにお墓参りに行く方も大勢いらっしゃると思います。そこで今回は、民法でお墓の引継ぎがどのように定められているのかご紹介します。
実は、民法はお墓を家や預貯金などとは一線を画した引き継ぎ方を定めています。
●相続財産の承継の原則
お墓の引き継ぎ方をご紹介する前に、まずは相続財産の承継の原則を知っておきましょう。
民法は、亡くなった人(被相続人)の財産について、原則として相続人が承継するものと定めています(民法896条)。
896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
つまり、相続人は、「被相続人の一身に属したもの」以外は、被相続人の財産を引き継ぐことになります。
●「被相続人の一身に属したもの」とは
「被相続人の一身に属したもの」とは、個人の人格・才能や地位と密接不可分の関係にあるために、他人による権利行使・義務の履行を認めるのが不適当な権利義務をいいます。たとえば次のようなものがあります。
・雇用契約による労働債務
亡くなった人の雇用契約を引き継ぐことはふつうできません。
・芸術作品を作る債務
芸術家が製作途中で死亡してしまったから、発注主が「続きは相続人が作れ」と言っても無茶な話です。
・社会保障上の権利(生活保護受給権、恩給受給権、公営住宅の使用権など)
生活保護受給権が相続されてしまったら国は間違いなく滅びます。
●お墓は相続財産ではない
実は、民法は祭祀のための財産、たとえば、系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇仏具、神棚、十字架など)、墳墓(敷地としての墓地を含む)は相続財産としていません。
そして、相続財産とは「別ルート」で引き継がせるように定めています(民法897条)。
897条(祭祀に関する権利の承継)
1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
つまり、第一に、慣習に従って「祖先の祭祀を主宰すべき者」(祭祀主宰者)が承継します。ただし、被相続人の指定がある場合には指定された者が承継します。指定は生前に口頭または文書でできます。また、遺言でもできます。
そして、被相続人の指定がなく、慣習が明らかでない場合は、権利を承継すべき者を家庭裁判所が定めることになります。
●なぜお墓は「相続されない財産」なのか~潜む「家」制度の発想
このように、897条1項は「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者」が承継するとしています。この「慣習」は様々です。
実は、その根底には「『「家』の跡を継ぐ者が祭祀を承継する』という考え方が潜んでいます。
その証として、民法は「『氏』(以下「姓」とします)を同じくしない者は祭祀を承継できない」というルールを規定しています。民法769条1項を見てみましょう。
769条(離婚による復氏の際の権利の承継)
1.婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第897条1項(祭祀に関する権利の承継)の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。
2.(省略)
たとえば、山田太郎が佐藤花子と結婚して佐藤太郎を称したとします(民法750条)。
750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
そして、花子の父の死亡後、佐藤家の祭祀を承継したとします。
ところが、太郎は花子と離婚して山田姓に復した(戻した)とします(民法767条1項)。
767条(離婚による復氏等)
1.婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2.(省略)
そうなると、太郎はもはや佐藤の人間ではないので、佐藤の祭祀を行うのはおかしい。これが769条1項の趣旨です。
「姓の異なる者に祖先の祭祀を承継させることを避ける」という点で、「家」制度的な発想にとらわれたものであるとして769条には批判があります。
769条は昭和22年の民法改正の際に新設されたもので、姓の異なった者を祭祀主宰者とし、祭祀財産を承継させ、祭祀を営ませることは国民感情にそぐわないとの理由で設けられたといわれています。
●お墓が相続財産ではない理由
以上ご覧いただいたとおり、お墓が相続財産ではない理由は、お墓をなどの祭祀財産は、「家」や「姓」と密接に結びついた慣習に基づく承継がなされる財産だからです。
このように、お墓は「特殊」な遺産といえます。もし、いつかは起こるお墓の引継ぎがあいまいなようであれば、お盆休みを機会に親子や兄弟姉妹の間で話題にしてみてはいかがでしょうか。