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「119番がつながらない」 ゆっくり医療が逼迫する第8波 知っておきたい電話相談サービス

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

現在、私たちは新型コロナ第8波の中にいます。東京都では119番がつながらない事例があり、東京消防庁が注意をうながしています。第8波の概況と医療現場の現状についてお伝えしたいと思います。

東京都は119番がつながりにくく

救急車の要請があったときの「東京ルール」、すなわち「救急隊による5つの医療機関への受入要請または選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案」の件数がじわじわと増えています(図1)。

図1. 東京ルールの適用件数(参考資料1をもとに筆者作成)
図1. 東京ルールの適用件数(参考資料1をもとに筆者作成)

第6波・7波の逼迫水準に近づきつつあり、東京消防庁は「119番通報が多数入電しているため、繋がりにくい状況です」とSNSで注意を呼び掛けています。

救急車を呼ぶか迷ったときには、上記「救急受診ガイド」のほか、かかりつけ医に相談するか、自治体の所定の相談窓口、「救急安心センター(#7119)」や「子ども医療電話相談(#8000)」(厚生労働省サイトはこちら)などの活用を検討してください(図2)。

図2. 「救急安心センター」と「子ども医療電話相談」(筆者作成)
図2. 「救急安心センター」と「子ども医療電話相談」(筆者作成)

新型コロナを「5類」にすればこうした救急医療の逼迫も解決するという意見が聞かれますが、それは正しくありません。

個室対応など隔離対応が可能なベッドがなければ、新型コロナが疑わしい搬送事案を積極的に引き受けてくれる医療機関はそこまで多くないだろうと思います。大部屋に入院して他の入院患者さんに感染を広げるわけにはいきません。これは過去のインフルエンザシーズンでもしばしばみられてきた構図です。

全国的には「じわじわ増加する波」

第6波や7波と異なり、全国平均的には医療逼迫の速度は比較的ゆるやかではあります(図3)。

図3. 全国の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)
図3. 全国の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)

しかしながら、かなり地域差があります。急速に第8波が逼迫した北海道は現時点でピークアウトに転じています。反面、第7波のときに逼迫した沖縄や、近畿・九州・四国地方では比較的おだやかな波となっています。

1日あたりの死亡者数はゆるやかに増加しており、すでに第6波のピークの水準にあります(図4)。高齢の患者さんは、主に軽症中等症病床で亡くなられています。重症にならずに死亡する理由は、高齢であるため人工呼吸器などの集中治療や延命処置を希望されないためです。

図4. 全国の新型コロナ死亡者数(筆者作成)
図4. 全国の新型コロナ死亡者数(筆者作成)

全国的に現在がピークだと現場としてはありがたいのですが、将来の予測は難しいと思います。

多くが高齢者施設からの入院

当院は、軽症中等症の新型コロナを担当している医療機関ですが、第8波でコロナ病棟に入院した患者さんのうち、実に90%以上が高齢者施設からの入院です。その多くが、寝たきりの認知症患者さんです。

パンデミック初期の頃、すなわち「2類相当」として対応していた頃は、若くて元気な患者さんも陽性即入院勧告となっていましたが、現在は重症化リスクが高い人や酸素飽和度が低い人に入院適応はしぼられています。

第8波は、一人ひとりのケアに、かなり看護師の人手をとられてしまう状況です。肺炎があっても歩いてトイレに行ったり自分で食事がとれたりする若年患者さんと違い、寝たきりの患者さんでは、排泄や食事のケアにとても時間がかかってしまいます。

まとめ

急峻に立ち上がった新型コロナの波は、すみやかにピークアウトすることが多いですが、変異ウイルスの性質によっては、波が長く続くことを第6波で経験しました。

そのため、今回ゆるやかな流行曲線を描いている第8波のピークも、後ずれする可能性があります。

インフルエンザとの同時流行を懸念していますが、現時点ではインフルエンザの定点報告はまだ増加に転じていません(2)。

65歳以上の高齢者や小学生以下の子どもなど重症化リスクがある人が優先的に受診できるよう、配慮いただけると幸いです。

(参考)

(1) 救急医療の東京ルールの適用件数(URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/

(2) インフルエンザに関する報道発表資料 2022/2023シーズン(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou_00010.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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