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セプテンバー・コールアップでデビューするや、メジャーリーグの歴史を塗り替えた選手

宇根夏樹ベースボール・ライター

9月に入り、ロースター枠が1チーム25人から40人に増えたことに伴い、選手が続々とマイナーリーグからメジャーリーグへ昇格している。これが、セプテンバー・コールアップだ。

そこには、和田毅(シカゴ・カブス)や川崎宗則(トロント・ブルージェイズ)――文字化けするのでこちらの「崎」で代用――もいることからもわかるように、上がってくるのは新人ばかりではないが、9月にメジャーデビューする選手は多い。

なかでも、カイル・シーガー(シアトル・マリナーズ)の弟であるコリー・シーガー(ロサンゼルス・ドジャース)は、トップ・プロスペクトとして最も注目を集めている。コリーは9月3日のデビュー戦で二塁打を含む2安打を記録すると、翌日も二塁打を含む2安打を放った。

だが、コリーとはまったく違う意味で、注目された新人もいる。9月4日にデビューした、トニー・ジィック(マリナーズ)がそうだ。

ジィックは25歳の右投手。2011年にドラフト4巡目・全体129位指名を受けてシカゴ・カブスに入団し、今年4月にトレードでマリナーズへ移った。今シーズンはAAとAAAで計40試合に登板し、48.1回を投げて防御率2.98、1勝2敗9セーブ、奪三振率10.24、与四球率1.68を記録した。

25歳でのデビューは遅くもないが早くもなく、パット・ベンディット(オークランド・アスレティックス)のような両投げでもない。ドラフトの指名順位もそれほど高くなく、今シーズンの成績は悪くないものの、コリーのようなトップ・プロスペクトとも違う。有名なメジャーリーガーと血縁関係にあるわけでもない。

理由は彼のラストネームにある。綴りは「Zych」。古今のメジャーリーガー全員をアルファベット順に並べると、1910年代にプレーしたダッチ・ズウィリング(Zwilling)を凌ぎ、ジィックが最も後ろにくる。このことはいくつかのメディアが取り上げており、スポーティング・ニューズのトム・ガットは、記事のタイトルをメジャーリーグ初登板と最後尾に位置するラストネームに引っ掛けて「ビギニング&エンド(始まりと終わり):トニー・ジィックはMLBデビューとともに歴史を作った」としている。

ちなみに、アルファベット順で最初にくるのは、8月下旬までアトランタ・ブレーブスで投げていたデビッド・アーズマ(Aardsma)だ。2004年にメジャーデビューした時、アーズマがトップの座から引きずりおろした(?)のは、あのハンク・アーロン(Aaron)だった。

3番手として4回裏からマウンドに上がったジィックは、三振、四球(盗塁死)、三振と上々のスタートを切り、5回裏も無失点に抑えたものの、6回裏に無死二、三塁としたところで降板。代わった投手が直後に三塁打を打たれ、ジィックには2失点が記録された。100点満点のデビュー登板とはならなかったが、まだこれからだ。アーズマは最初の数年間、パッとしなかったものの、2009~10年にマリナーズで計69セーブを挙げた。

現在はFAのアーズマが再びメジャーリーグで投げることがあるかどうかはわからないが、ジィックと同じ試合で登板してほしいものだ。それが、アーズマからジィックへの継投であれば、これこそ「A to Z」、文句のつけようがない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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