台湾が猛烈に研究する「ロシア侵攻に対するウクライナの抵抗」策
ロシアの侵攻によるウクライナでの被害が深刻化するなか、今回の事態を中国と台湾の状況に重ね合わせて語られる例が増えている。ウクライナの現状を、台湾側はどう見つめているのだろうか。
◇台湾を併合する計画?
「中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は少なくとも、この秋に、台湾を占領することを検討していた。中国共産党のエリートの間には権力闘争があり、それを勝ち抜いて3期目続投を実現するため、自らの“小さな勝利”を必要としているためだ」
「だが、ウクライナでの戦闘勃発によって、その絶好の機会が失われた。そして米国には、習主席を脅し、習主席の政治的ライバルと好条件で交渉するチャンスがもたらされた」
こんな真偽不明の情報が最近、インターネット上に掲載された。
ロシアの諜報機関・連邦保安局(FSB)の内部告発者が発信源とされる。在仏ロシア人の人権派弁護士でロシアの腐敗を告発するサイト「グラグ・ネット(GULAGU.NET)」を運営するウラジーミル・オセチキン(Vladimir Osechkin)氏が公開し、米週刊誌「ニューズウイーク」が詳細を伝えている。台湾側は「文書に関するメディアの報道を承知しているが、確認できなかった」と慎重な構えを示している。
とはいえ、中国の台湾に対する圧力が緩んでいるわけではない。
台湾の主要紙・聯合報によると、台湾の国防部(国防省)が今月21日に立法院(国会)に提出した年次報告で、中国が台湾を標的とした実践的な訓練の規模・回数・強度を徐々に高めていることが明らかになっている。
昨年は中国機が900回以上、台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入、最近では民間航空機を使って「外島」(金門と馬祖など中国に近い島)などで「グレーゾーン」(軍事行動とは判断が難しい)作戦に打って出て、台湾軍の対応能力を試し、台湾の防空に対する圧力を高めているという。
中国は国防予算に高額を投じ、軍の近代化を加速している。近年、空母やミサイルなどの新兵器を絶えず導入し、中国版全地球測位システム(GPS)「北斗」を活用して、東・南シナ海でのパトロールや西太平洋での長距離訓練を実施しているという。
◇非対称能力
中国側に台湾はどう対抗すべきか。この点について、香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は今月20日、「ウクライナは台湾に“より大きな軍隊”と戦う方法を教えている」という内容の記事を掲載した。
ロシア軍が2月24日にウクライナに侵攻した際、ロシア軍が数日でウクライナ軍を打ち負かすという観測があった。ところがウクライナ側は国民を動員し、軍隊に参加させて全面的に抵抗し、戦闘は長引いている。「ウクライナが“非対称戦”、つまり移動可能で操作しやすい兵器の使用によって、ロシアの侵略をいかに防いでいるか。これについて台湾側は研究している」。台湾の邱国正(Chiu Kuo-cheng)国防部長(国防相)はこう語っている。
非対称戦とは「費用対効果が高く、機動性があり、弾力性があり、分散した攻撃システム」(ルイス米国務次官補)と定義される。台湾はここ数年、米国側の要請で「非対称戦」能力の強化に力を注いでいるという。ルイス氏によると、ウクライナで効果的に使用されているのは、通常兵器よりもむしろ、短距離防空システム、機雷、沿岸防衛、巡航ミサイルなどの兵器だそうだ。
台湾・国民党系シンクタンク「国家政策基金会」の揭仲(Chieh Chung)研究員は「ロシアは陸路でウクライナに兵力を送ることができる。それとは異なり、大陸と台湾は海峡で隔てられている。したがって台湾の非対称戦の使用は、海と空に焦点が当てられるだろう」とみている。
ロシアの激しい砲撃の中、ウクライナの首都キエフに留まるゼレンスキー大統領は、定期的にSNSで動画を発信し、世界の大半をウクライナ側に引き寄せている。台湾の研究者の中には「今回はソーシャルメディアとオンラインコミュニケーションが戦争の一部になっている」と指摘する声もある。