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火炎瓶による市民の抵抗は合法? 徹底抗戦を掲げるウクライナと戦時国際法について

JSF軍事/生き物ライター
火炎瓶を作成するウクライナ市民(写真:ロイター/アフロ)

 2022年2月24にロシアがウクライナに侵攻し全面戦争が始まった際に、ウクライナのゼレンシキー大統領は総動員を発令しました。これにより18歳から60歳の男性市民のウクライナからの出国を禁止し、90日以内に動員を実施します。

 徴兵制の軍隊は有事の際に大まかですが、以下のような段階を踏みます。

現役兵力 → 予備役招集 → 総動員

 予備役とは一般の職に従事する者が年間のうち短期間だけ定期的に軍事訓練を行い、有事の際には招集されて戦力化される兵士です。短期間でも普段から定期的に訓練を積んでいるので、早期に戦力化できます。

 総動員は徴兵可能年齢(今回のウクライナだと18歳から60歳)の男性を全て兵士として戦力化します。「国民皆兵」という考え方です。実際には怪我や病気などで戦えない人も居るので全員が兵士になれるわけではないですし、費用や機材などの不足で全てが動員されるわけではありません。技術者などそのまま働いてくれた方が国家に貢献できる場合も、動員の対象外になる場合があります。

 ウクライナで18歳から60歳の男性市民の出国が禁止されると知って「なんて酷いんだ」という反応もありますが、これは国民皆兵を原則とする兵役制度を持つ徴兵制を採用した国では当たり前のことで、ウクライナだけが特別なのではありません。例えば徴兵制のあるスイスや韓国でも有事になれば総動員が発令され、ウクライナと同じような対応になります。

火炎瓶による市民の抵抗は合法?

 ウクライナのゼレンシキー大統領は総動員を発令し国民に徹底抗戦を呼び掛けました。そしてウクライナのテレビや国防省は火炎瓶の作り方を紹介し、敵を無力化して欲しいと市民に訴えています。

 しかし正規軍ではない市民が戦闘に参加して、国際法で問題はないのでしょうか? これが戦時国際法で合法となる根拠は、「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第三条約)」の第四条〔捕虜〕A(6)が該当します。

第四条〔捕虜〕

A この条約において捕虜とは、次の部類の一に属する者で敵の権力内に陥ったものをいう。

~中略~

(6) 占領されていない領域の住民で、敵の接近に当り、正規の軍隊を編成する時日がなく、侵入する軍隊に抵抗するために自発的に武器を執るもの。但し、それらの者が公然と武器を携行し、且つ、戦争の法規及び慣例を尊重する場合に限る。

出典:ジュネーヴ諸条約 (第三条約):日本防衛省

 つまり事態の急変で総動員による正規の軍隊の編成が間に合わず、軍隊として戦闘参加できない場合においては、住民が自発的に武装し戦闘を行った場合でも、捕虜としての資格を与えられるとあります。

 通常この資格は4条件(上官の責任者の存在、判り易い特殊徽章の装着、武器を公然と携帯、戦争の法規と慣例を遵守)が必要なのですが、敵の接近が急激すぎた今回のような場合は2条件(武器を公然と携帯、戦争の法規と慣例を遵守)まで緩和されます。

 火炎瓶は対人戦闘で使うのではなく、車両を攻撃して炎上させる使い方です。ロシア軍の装甲車を相手に火炎瓶で戦闘を仕掛けるのは無謀な行為で、敵1両を焼くのに大勢の味方の犠牲が出る可能性が高く、この戦闘方法を批判したくなるのは十分によく分かります。

 ですが戦時国際法として見ると違法行為とは言えません。捕虜資格が与えられるならば合法と言える根拠となります。

 また特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の附属議定書III(焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書)で人口密集地での焼夷兵器の使用を制限していますが、実は全面禁止というわけではありません。火炎瓶を用いた戦闘は制限の対象外となる場合がほとんどになるでしょう。

第二条 文民及び民用物の保護

1 いかなる状況の下においても、文民たる住民全体、個々の文民又は民用物を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。

2 いかなる状況の下においても、人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。

3 人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する方法以外の方法により焼夷兵器による攻撃の対象とすることも、禁止する。ただし、軍事目標が人口周密の地域から明確に分離され、焼夷効果を軍事目標に限定し並びに巻添えによる文民の死亡、文民の傷害及び民用物の損傷を防止し、また、少なくともこれらを最小限にとどめるため実行可能なすべての予防措置をとる場合を除く。

4 森林その他の植物群落を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは、禁止する。ただし、植物群落を、戦闘員若しくは他の軍事目標を覆い、隠蔽し若しくは偽装するために利用している場合又は植物群落自体が軍事目標となっている場合を除く。

出典:焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III):政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

 1の「文民と民用物を攻撃対象とするのは禁止」は、実のところ焼夷兵器に限らず全ての兵器で禁止です。

 2の行為「空中から人口周密地域にある軍事目標に焼夷兵器で攻撃」は全面禁止です。例え軍事目標だけを狙っても周囲に巻き添えを出して火事になってしまうからです。航空機からの爆撃だけでなく榴弾砲による遠距離砲撃も空中からの投射と見做され得ます。

 3では、地上から直射できる距離なら条件付きで人口周密地域の付近でも焼夷兵器を使用することが可能となります。火炎瓶は延焼効果がそれほどないので、車両を狙って攻撃した場合は被害はその車両だけで止まりやすい兵器です。文民への巻き添え被害が出ないように配慮されていたと判断されれば、市街戦での火炎瓶による戦闘は認められ得ます。

 4は森林など植生を無制限に焼き払うことは禁止ですが、軍事目標が植生で意図的に隠蔽されている場合は焼き払ってよいとあります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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