Yahoo!ニュース

真夏のクリスマスケーキ発表会、そして新たな楽しみ方

東龍グルメジャーナリスト

クリスマスケーキ発表会

昨年「真夏のクリスマスケーキ発表会」でもご紹介したように、ホテルのクリスマスケーキ発表会は近年はかなり早い時期に開催されるようになっています。

今年はどうかというと、今のところ以下の通りです。

  • 8/25昼 リーガロイヤルホテル東京 <9/9>
  • 8/25夜 ハイアット リージェンシー 東京 <8/27>
  • (9/1 京王プラザホテル)
  • 9/2 マンダリン オリエンタル ホテル 東京 <9/25>
  • 9/3 パレスホテル東京 <9/10>

<>内は昨年の開催月日

京王プラザホテルは大々的な発表会を行ったわけではないので、()で括らせてもらいました。

全体の分析に移る前にいくつかのホテルを詳しくみてみましょう。

リーガロイヤルホテル東京

リーガロイヤルホテル東京「サンタクロース・ノエル」
リーガロイヤルホテル東京「サンタクロース・ノエル」

今年最もクリスマスケーキ発表会が早かったホテルはリーガロイヤルホテル東京でした。昨年に比べると、2週間以上も早まっています。クリスマスのテーマには「Gift~幸せの香りを添えて~」を掲げて、カップルや家族と一緒に様々なシーンで楽しめることをモチーフにしています。

クリスマスケーキは4種類あり、昨年に比べるとがらりと変わりました。クリスマスツリーをイメージした「Christmas Gift」の他に、5人のサンタクロースが雪に埋もれたトナカイを囲んでスクラムを組んだ「サンタクロース・ノエル」など、見た目が印象的なものが多いです。

ペストリーショップである「メリッサ」のクリスマスケーキだけではなく、「日本料理 なにわ」「中国料理 皇家龍鳳」「ダイニング フェリオ」「ガーデンラウンジ」「セラーバー」のクリスマスプランも同時に発表しています。これだけ準備して、昨年の発表会よりも早い時期に開催できたのは、簡単なことではないでしょう。

ハイアット リージェンシー 東京

ハイアット リージェンシー 東京「ブッシュロン」
ハイアット リージェンシー 東京「ブッシュロン」

昨年は最もクリスマスケーキ発表会が早かったハイアット リージェンシー 東京ですが、今年は昨年よりも2日早く開催しています。8月の終わりにクリスマスケーキ発表会を行うために、6月くらいから企画を練り始めましたが、ペストリー・ベーカー料理長 佐藤浩一氏は「昨年よりもさらによいものを作りたい。クリスマスが終わったら次のクリスマスを考え始めている」と述べるほど、力を入れているのです。

今年からチョコレートは、佐藤氏が「重たくない。軽さがあって、口当たりも素晴らしい」と評価するドモーリ社の製品を使っています。18センチの高さがある切り株をイメージした「ブッシュロン」には「薪の再生力にあやかり、魔除けの意味がある」の想いが込められており、ドモーリ社のアリバを使い、4層を2段重ねています。昨年初登場し好評の冷凍ケーキ「ジャルダン・ド・フレーズ」はリース型でクリスマスをイメージさせるものです。ペストリー シェフ 仲村和浩氏が自信を持つ「ブール ド ノエル」はツリーのオーナメントを模したお菓子であり、ドモーリ社のスル デル ラゴ、ビアンコ、アリバといった3種類のチョコレートを使用しています。3つの玉が並んだケーキは人目を引くことでしょう。

またクリスマスツリー発祥の地であるアルザスのスイーツも多数用意されており、「シュトレン」の他に、アルザス地方の「クグロフ」「パン・ド・エピス」「パン・ド・ノエル」といった焼き菓子も用意しています。開催時期が早まった上にこういった焼菓子を昨年よりも充実させているだけに、今年はより準備が大変だったことでしょう。

マンダリン オリエンタル 東京

マンダリン オリエンタル 東京「ボノム ド ネージュ」
マンダリン オリエンタル 東京「ボノム ド ネージュ」

マンダリン オリエンタル 東京は、数多くの一流ホテルがある東京の中で最も多くミシュランガイドの星を獲得しており、美食ホテルの筆頭となっています。このマンダリン オリエンタル 東京は昨年より3週間以上も早くクリスマスケーキ発表会を行いました。

2015年4月にエグゼクティブペストリーシェフに就任したリオネル・ボドロス氏による初めてのクリスマスということもあり、昨年以上に盛り上げたいという意図もあると思いますが、内容はしっかりと充実させています。

限定50個の福岡県産あまおうをふんだんに使った2層のケーキ「プレミアム ストロベリー ショートケーキ」、ダークチョコレートで模られ、マンダリン オリエンタル 東京のロゴである扇が刻印されたマフラーを着用したスノーマン「ボノム ド ネージュ」、クリスマスっぽくない配色が印象的な紫色が鮮やかなブルーベリーチーズムース「ヴァイオレット」、さらにはシュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ペール ノエルといった焼菓子に加えて、クッキー5種類を詰め合わせた「レ・ビスキュイ・ド・ノエル」を販売するなど、ラインアップが豊富です。

4月くらいから始動していたので、あまおうの旬が終わる前の5月には「プレミアム ストロベリー ショートケーキ」の写真撮影も終えていました。リオネル氏だけではなく、シェフベーカー大橋哲雄氏やジュニアスーシェフもクリスマスケーキ発表会に参加しており、とても重要なイベントであることが伝わってきます。

早いクリスマスケーキ発表会の理由

マンダリン オリエンタル 東京「ヴァイオレット」
マンダリン オリエンタル 東京「ヴァイオレット」

まだ夏の残暑が感じられる日が続く中で、これだけの一流ホテルが凌ぎを削ってクリスマスケーキ発表会に注力しているのは興味深いことです。

では、なぜこんなにも早い時期にこれだけ力を注ぐようになったのでしょうか。

私はその理由を以下2つの変化によるものと考えています。

  • 他ホテルの状況が分かるようになったから
  • より多くの露出を狙えるようになったから

どちらともWebと大きな関わりがありますが、詳しく説明しましょう。

SNSによる情報

1点目についてです。FacebookやTwitterなどで、ホテル関係者はメディア関係者とつながっていることが少なくありません。メディア関係者は何かの発表会に出席すればそれをSNSで発信することが多いので、ホテル関係者が他のホテルの発表会がいつどのように行われたのかを知ることは比較的容易です。

もちろん、広報の集まりなどで互いに情報を交わし合うことはよくあります。しかし、こういった横のつながりから得られた情報と、メディア関係者が発信した情報とでは、実際に受けるインパクトが違うでしょう。ましてや、1年の中で最も大きなイベントであるクリスマスなのです。他のホテルが準備を整えて大々的に発表会を行い、それをメディア関係者が発信しているのを我関せずと傍観していることは心理的に難しいでしょう。

この結果、他に先んじて発表会を開催し、メディアへアプローチしようとするのです。開催時期の早期化が引き起こされることは容易に想像できます。

露出の増大

2点目については、より早く発表会を行った方が露出が多くなるからです。テレビや雑誌といったメディアであれば放送や出版のタイミングがあるので、早く発表会を行ったからといって、明らかに露出が増えることは稀でしょう。月刊誌に間に合うよう、発行日の2か月程度前には発表会を行えばよいです。

しかし、今の時代では夥しい数のWebサイトがあります。オリジナルコンテンツを持っているサイトから、それを配信するだけのサイトまであり、こういったグルメ情報は毎日膨大な量が消費されていきます。Webにはいくらでも露出の機会が広がっているのです。さらには、テレビや雑誌は最も早く発信されるWebの記事を参考にすることが多いので、Webへ露出することによってテレビや雑誌へもアプローチできます。

このように早い時期に発信すればするほど、多くの露出が見込めるので、発表会も早く開催されるのです。

新たなクリスマスの楽しみ方

ハイアット リージェンシー 東京「ブール ド ノエル」
ハイアット リージェンシー 東京「ブール ド ノエル」

以上のように、クリスマスケーキ発表会が早くなってきているのは、SNSを介して横の情報が伝わり易くなったので競争が引き起こされるようになったこと、そして、Webのコンテンツはたくさんあるので、発表会を行ってから時間に余裕があればあるほどよく、かつ、それによって二次的な広がりもあることが理由なのです。

メディア関係者以外の方でも、メディア関係者をフォローしていればクリスマスケーキ発表会の様子は分かります。それだけに、私がお勧めしたい新たなクリスマスケーキの楽しみ方は、汗も引かぬ残暑著しい頃からクリスマスケーキ発表会をウォッチし、まだ感じられぬ冬の厳寒とクリスマスケーキへの甘い想いを温めながら、希望するクリスマスケーキの予約開始日を待ち焦がれ、予約した後も他のクリスマスケーキ発表会を眺めながら思いを巡らせてみるというものです。

色々なクリスマスケーキが揃えられたとしても、結局は一番売れてしまうのはショートケーキであり、その主役であるイチゴの旬が春から冬へと前倒しにされたことを鑑みると、クリスマスケーキ発表会が前倒しになったことも、イチゴと同じく期待度の表れということで全然不思議ではないように思えてしまいます。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事