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日本の学校でIT化が進まないのはなぜ? 保護者への連絡はいつまで「お手紙」なのか

大塚玲子ライター
紙でなく、メールでお知らせがもらえたら…と望む保護者も多いのですが(ペイレスイメージズ/アフロ)

 毎年、東京ビッグサイトで「教育 ITソリューション EXPO」という専門展が行われています(主催:リード エグジビション ジャパン株式会社)。今年も5月16~18日の3日間、第9回目が行われ、計約700社(同時開催含む)が出展しました。

 筆者が足を運んだのは、今年が3回目(2015・2017・2018年)。毎回全部は見きれないので、興味が向いたところ、つまりPTAや保護者にかかわるものを中心に見ています。

 今回は、筆者が訪れた過去3回の展示のなかで印象に残ったサービス(個人的な関心に因ります)や、共通して感じた課題などをお伝えしたいと思います。

*ジャンル1「保護者と学校等のメール連絡サービス」

 この種のサービスは、全国で、さまざまな会社が手掛けています。

「オクレンジャー連絡網」(株式会社パスカル/長野県佐久市)。日常連絡、緊急連絡、災害発生時の安否確認などを行えるもので、メールまたは専用アプリで受信できます。

「e-pa(イーパ)」(株式会社アミュレット/千葉県市川市)。こちらもパソコンや携帯電話で、保護者に情報を漏れなく伝えるサービスです。

 「学校連絡網」(株式会社リードコナン/岩手県盛岡市)というサービスも、以前見かけました(2015年に出展)。

「FairCast(フェアキャスト)」(株式会社NTTデータ/東京都江東区)。メールのほか、電話やFAX、LINEでも一斉配信できるそう。

「and.T学校Webライター」(株式会社JMC/東京都目黒区)。こちらはメール連絡ではありませんが、学校ホームページでの情報発信をサポートするサービスです。

*ジャンル2「子どもの安全確保に関するサービス(防犯カメラ)」

「録画一体型防犯カメラ 安視ん君(あんしんくん)」(株式会社プロテック/広島県福山市)。街頭防犯の製品です。最近は設置すると補助金が出る自治体も増えているため、全国的に導入が進んでいるのだそう。

「ウォークレコーダー こどモニ」(株式会社プロジェクト・メイ/東京都港区)。昨年(2017年)の展示で見たものです。電柱に取り付けるのではなく、子どものランドセルの肩のところにスマートフォンのような機器を取り付け、子どもの周囲の様子を記録しつつ、位置情報も確認できます。

*ジャンル3「いじめや子どもの心のケアに関するサービス」

 以下はどちらも2017年の展示で見たものです。「こういったものもあるんだな」と興味深かったので、紹介しておきます。

「いじめ感知システム BiiTL(ビートル)」(株式会社ルミテック/千葉県柏市)。子どもたちが安心していじめアンケートに答えられるよう、回答がロックされるなど、工夫をこらした仕組みです。(2018年5月現在はリニューアル中だそう)

「スマート感情ケア・ソリューション FEELBOT」。子どもたちがそれぞれ自分の気持ちを表現する操作(心の表情・色・幸せ点数を選ぶ)や、友達に「ハート」を送る操作をすることで、心の変化や交友関係を把握しやすくするものです。

 面白いサービスはほかにもたくさんありましたが、たまたま筆者の手元にチラシが残っていたものを中心に、ざっとのところを紹介させてもらいました。

*「お金の出どころ」問題

 こういったさまざまな便利なITサービスが、何年も前から市場には出回っているわけですが、しかし学校現場では、とくに保護者への連絡にかかわる部分では、ちっともIT化が進んでいるように感じません。

 子どものランドセルから出てくる蛇腹状の、且つ大量のお手紙に悩まされる小学生の保護者、手にしたときは提出期限を過ぎている手紙を発見する中学生の保護者らはしばしば、紙ではなく、メールで学校から連絡がもらえることを待ち望んでいます。

 なのになぜ、IT化が進まないのか? 大きな理由のひとつは、端的に、お金の問題ではないかと感じます。お話を聞くと、現状こういったITサービスを導入しやすい学校は、私立か、自治体(教育委員会)がまとめて契約したところ、という印象です。

 日本の公立の学校は、使えるお金が非常に少なく、用途もごく限られています。個々の先生や学校の判断で導入することもできないため、せっかくいいITサービスがあっても、教育委員会がまとめて契約してくれないと、使うことはほぼ不可能なのです。

 なかには“学校の第二の財布”と形容される「PTA予算」からこういった費用を出しているケースもあるのですが、筆者としては、これには反対せざるを得ません。

 学校運営に必要な費用をそうやってPTA予算から出してしまうと、「入らない人(非会員)はズルい」という話になりやすく、PTAにおける加入の任意性が損なわれますし、さらに「保護者(PTA)からもらえるんだね」と思われるため公的な予算がますます付かなくなってしまうからです。

 魅力的なサービスが広がってほしい気持ちはやまやまです。しかし、どうかそこで、PTA予算を使わないでいただきたい。

 とにかく学校現場の公的な予算が少なすぎるのです。まずはそこを増やす必要がありますし、現場(学校や個々の教師)の裁量も、もっと広げていいのではないでしょうか。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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