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インテル、イカルディの公開戦力外通告は「自傷行為」? 「150億円がゴミ箱へ」との声も

中村大晃カルチョ・ライター
5月26日、エンポリ戦でのイカルディ。これがインテルでのラストゲームに?(写真:ロイター/アフロ)

ゴタゴタを抱えたまま、インテルは新シーズンに向けて始動することになった。アントニオ・コンテ新監督の初会見を前に、せめてクラブの立場を明確にしておこうと考えたのかもしれない。

『スカイ・スポーツ』のインタビューで、インテルのジュゼッペ・マロッタCEOは、マウロ・イカルディとラジャ・ナインゴランが新シーズンの構想外であることを明言したのだ。

◆落胆の昨季

エース兼主将として長年インテルを支えてきたイカルディは、昨季途中にキャプテンマークをはく奪された。契約延長を巡るクラブとの亀裂や、議論を呼ぶSNS活動、代理人でもある妻でタレントのワンダ・ナラによるテレビ番組でのチームメート批判などが原因とされる。

ルチアーノ・スパレッティ前監督が熱望して加入したナインゴランは、度重なる負傷でパフォーマンスが安定せず、さらには遅刻をはじめとする規律問題が取りざたされた。浮き沈みのあったシーズンは、3800万ユーロ(約46億3000万円)とされる移籍金に見合ったとは言えない。

◆擁護の声も…

ともに株を下げたかたちの昨季だったが、実績十分の選手たちであることは変わらない。特にイカルディは、現代サッカー界では希少な存在のゴールハンターだ。

元オーナーのマッシモ・モラッティは、コンテ新監督が望むロメル・ルカク(マンチェスター・ユナイテッド)やエディン・ジェコ(ローマ)よりも、イカルディのほうが強いと発言。SNS活動にも「興味ない。私はいつも練習や試合での振る舞いで選手を評価してきた」と話している。

だが、才能ある選手を溺愛し、時に甘やかすこともあった元オーナーと違い、マロッタCEOとコンテ監督はユヴェントス時代から厳しい規律を求めてきた。それだけに、チームが団結する妨げとなり得る問題児を外す可能性は以前から噂されていた。

◆戦略ミスとの指摘

とはいえ、マロッタ発言が驚きを誘ったのも事実だ。公に構想外を認めたことで、今後売却する際に交渉相手が値下げを求めるのは想像に難くない

イカルディは売れば高額収入が見込めていた選手で、1年前に高値で獲得したナインゴランは、安価で手放せば“大赤字物件”となる。にもかかわらず、市場価値暴落を覚悟で、インテルは公開戦力外通告に踏み切ったのだ。

実際、『コッリエレ・デッロ・スポルト』紙のイヴァン・ザッザローニ記者によると、マロッタCEOの発言が出回った時、カルチョ界のある関係者は次のように漏らしたという。

「インテルは1億2000万~1億3000万ユーロ(約146億~158億円)をゴミ箱に捨てると決めた」

ジャンカルロ・パドヴァン記者は、『Calciomercato.com』で「ほかの戦略を取ることもできたのではないだろうか」とコメント。公開戦力外通告をすべきでなかったとし、特にイカルディに関しては、少なくとも再生を目指してみるべきだったと記している。

「ユーヴェ時代にミルコ・ヴチニッチとアレッサンドロ・マトリの攻撃陣でスクデットを獲得したコンテのような指揮官にとって、(イカルディ再生への挑戦は)刺激的になったのではないだろうか。腕章を失ったとはいえ、イカルディはまだインテルと結ばれており、常に残留希望を表明してきた。しかも、ルカクと同等か、それ以上に違いをつくることができるカンピオーネだ」

◆法廷闘争を危惧する声も

一方で、そもそも契約を軽んじているとの見解を示したのが、『レプッブリカ』のファブリツィオ・ボッカ記者だ。インテルのやり方はイカルディとナインゴランの態度を硬化させるとし、「裁判官かリーグの委員会行きになると確信する」と、“法廷闘争”に至る可能性もあると指摘した。

公開戦力外通告を「自傷行為」と表現したボッカ記者は、「インテルがやっていることはシンプルに正しくない」と批判している。

「ショックなのは、サッカーの支配者たちが、自分たちのことを、自分たちの好きなようにすべての人の運命を管理し、コントロールできるほどの支配者と感じているからだ」

◆売るならナポリとも言われたが…

だが、キャンプ序盤でも戦術練習から両選手を外したことが報じられるなど、インテルの姿勢は明白だ。ナインゴランも、中国移籍に扉を開けたとの一部報道がある。

一方で、残留希望を強調するイカルディ夫妻は、移籍することになっても、イタリアから離れるつもりがないと言われる。そこで取りざたされてきたのが、以前から関心を寄せるユヴェントスと、以前獲得に動いたナポリだ。

アルベルト・チェルッティ記者は、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のコラムで、イカルディはナポリへの売却が妥当と主張した。それが「全員にとって好都合」という。

まずインテルは、ナポリ移籍なら宿敵ユーヴェの強化を避けることができる。そしてナポリは、アルカディウシュ・ミリク以外のゴールゲッターを「ターンオーバーのマエストロ」に託すことができる。最後に、イカルディ自身も「トリノより情熱的なナポリのほうが力を高めてくれる」からだ。

「C・ロナウドの陰に隠れる恐れがなく、むしろディエゴ・マラドーナ、ゴンサロ・イグアインに続く3人目の偉大なアルゼンチン人選手としてチームの新たなスターになり得る」

ただ、7月11日付『コッリエレ・デッロ・スポルト』紙のインタビューで、ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長は、現チームにイカルディは不要と獲得を否定した。

いずれにしても、この一件は先行き不透明だ。確かなのは、このまま9月2日のメルカート期限を迎えたくないということ。インテルは、ゴタゴタを抱えたまま開幕を迎えることを避けられるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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