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鎌田大地退団のラツィオは好発進 「素晴らしい調和」でクラブ記録、「セリエAのうれしい驚き」に

中村大晃カルチョ・ライター
9月25日、ELディナモ・キーウ戦でのラツィオのバローニ監督(写真:ロイター/アフロ)

2024-25シーズンに向け、雰囲気は決して良くなかった。だが、開幕から3カ月が経とうするなか、ラツィオは順調なすべり出しを見せている。

鎌田大地と契約延長に至らず、編成をめぐって衝突したイゴール・トゥードル前監督にも去られた。前年のセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチに続き、チーロ・インモービレ、ルイス・アルベルト、フェリペ・アンデルソンといった長年の主力選手たちも移籍していった。

一方で、ビッグネームの補強はなし。ブライエ・ディア、ルム・チャルナ、ティジャニ・ノスリン、フィサヨ・デレ=バシルといった新戦力は、サポーターを熱狂させるとは言いがたかった。新監督も同様だ。新体制を託されたマルコ・バローニは、強豪を率いた経験がない指揮官だ。

サポーターからは不満やあきらめの声も寄せられていた。だが、11試合を消化したセリエAで、ラツィオは5位につけている。ヨーロッパリーグでは3試合を戦って首位タイだ。大きな方針転換に踏み切ったクラブにとって、これ以上ない船出と言えるだろう。

■新監督の株急騰

公式戦14試合で10勝はクラブレコードの数字という。セリエAが1リーグ制になった1929年以降のラツィオで最高の成績だ。バローニはズデネク・ゼーマン、スベン・ゴラン・エリクソン、ヴラディミル・ペトコビッチといった過去の指揮官たちを上回った。

セリエAでの24得点は、アタランタ、インテルに続くリーグ3位。タティ・カステジャノスは5得点と昨季の4得点を早くも上回った。さらにディアが4得点、ペドロとマッティア・ザッカーニが3得点ずつと、多くの選手がネットを揺らしている。ヌーノ・タバレスは8アシストでリーグトップの数字だ。

10月のリーグ戦はユヴェントスにこそ敗れたが、5試合で4勝をあげた。バローニは月間最優秀監督賞を受賞している。

『La Gazzetta dello Sport』紙は、「無関心と懐疑の目で迎えられたが、わずか3カ月ですでにその名前はトンマーゾ・マエストレッリに並べられている」と、1973-74シーズンにラツィオを初のスクデット獲得(優勝)に導いた名将と比較されるほどだと伝えた。

「バローニはサプライズなラツィオの大きなサプライズだ」

「キャンプ初日からグループ内で素晴らしい共感をうまくつくり出した。短期間でチームにスペクタクルで効果的なプレーを与えたのも優れている。ラツィオは結果を残しているだけでなく、好かれているのだ。勇気をもって、非常に勇敢な配置で可能となっている攻撃的なプレーで試合に臨んでいるからである。14試合で33得点(平均2.35)は偶然ではない。また、最初の9試合で12失点(同1.33)だったが、今は守備面も改善された。ここ5試合は3失点(同0.6)だ」

当初から「チーム一丸」を重視してきたバローニの姿勢にも賛辞が寄せられている。

「様々な選手の出場時間を分析すると、本当に誰がレギュラーで誰が控えか分からない。まさにこれがラツィオの秘訣のひとつ、おそらくは最も重要な秘訣だ。継続的に変更があるおかげで、チームは肉体的にいつもキレを保つことができている。そして全員が絡んでいるからこそ、練習場で不満を抱える選手がいない。結果、誰も次の市場での移籍を考えず、グループ内では素晴らしいハーモニーで仕事ができている」

■酷評された名物会長だが…

しかし、そのバローニを選んだのがクラブであることも忘れてはいけない。クラウディオ・ロティート会長と、その右腕であるアンジェロ・ファビアーニSDのことである。

鎌田退団時のいきさつから、日本でも揶揄する声は少なくなかった。だが、ロティートは長年にわたってラツィオを一定レベルのクラブにしてきた会長だ。浮き沈みはあっても、困難をその都度乗り越え、コッパ・イタリアなどのタイトルももたらしてきた手腕は確かだ。

『La Gazzetta dello Sport』紙は、「イタリアと欧州でうれしいサプライズとなっているチームをつくったのは彼らだ」と称賛した。

「まず何より重要な功績は、ミリンコビッチ=サビッチ、ルイス・アルベルト、インモービレのサイクルが終わり、ドラスティックにページをめくる必要があると理解したことだ。こうして大きな放出に至り、まったく異なる選手たちをあてにすることを決めた。若くてハングリーな選手たちだ。監督の選択にもこの論理が使われた。バローニは若くない。だが、ハングリーだ」

「監督と選手の選択のうまさ以上にロティートとファビアーニの大きな功績となっているのが、批判や抗議を気にせずに突き進んだことだ。結果は彼らが正しかったと大きく示している」

■真価が問われる中盤戦へ

もちろん、シーズンはこれからだ。バローニ率いるラツィオが本当に飛躍できるのか、現時点で見極めることはできないだろう。サッカーでは一瞬で地獄から天国、天国から地獄に変わり得る。

実際、ラツィオは上位勢との対戦で勝ち点をあまり稼げていない。ミランと引き分け、フィオレンティーナとユヴェントスには敗れた。その他の試合で勝利を積み重ねていることは見事だが、本格的な浮上には直接対決での結果も求められるだろう。

例えば、『La Gazzetta dello Sport』紙は、「かなり完成されたスカッドではあるが、小さな欠点もある」と、中盤のさらなる強化が必要と指摘した。年内の出来やそのときの状況次第で、ロティートらが冬にどのような補強に踏み切るのかも注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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