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53日で監督再解任のローマ、よみがえる20年前の恐怖 「呪われたシーズン」の悪夢を回避できるか

中村大晃カルチョ・ライター
10月24日、ELディナモ・キーウ戦でのローマのユリッチ前監督(写真:ロイター/アフロ)

混迷とはこのことだろう。

11月10日、ローマはイバン・ユリッチ監督の退陣を発表した。「解任」か「契約解消」か、声明には記されていない。だが、それは形式的なことに過ぎないだろう。事実上のクビであることは周知のことだ。就任からわずか53日のことだった。

ローマは同日のセリエA第12節でボローニャにホームで2-3と敗れた。リーグ戦ではここ5試合で4敗目となる黒星だ。試合後、クラブは早々にユリッチ退陣を公式発表。指揮官は公にコメントすることもなく、本拠地オリンピコを去っている。

これでローマは早くも今季2度目の監督解任だ。9月18日にダニエレ・デ・ロッシ前監督を解任してから、まだ2カ月も経っていない。セリエAで12位と低迷し、チームは暗闇をさまよっている。

■なぜローマはまた監督を解任した?

当然、その成績不振がユリッチ更迭の最大の理由であることは言うまでもない。

就任直後こそウディネーゼに3-0で快勝し、続くヴェネツィア戦で連勝を飾った。だが、“ブースト”はここまで。以降の6試合は1勝1分け4敗という低調ぶりだ。

ヨーロッパリーグ(EL)の結果も芳しくない。4試合で1勝2分け1敗と、プレーオフ圏にはとどまっている。だが、エルフスボリに敗れ、ディナモ・キーウとはウノゼロ(1-0)。ユニオン・サン=ジロワーズにも勝ちきれず、1-1と引き分けた。

ユリッチ体制のローマは公式戦12試合で4勝3分け5敗。『La Gazzetta dello Sport』紙によると、平均勝ち点1.25は過去20年のクラブワーストの数字という。

それだけではない。ユリッチはたびたびチームとの衝突が報じられてきた。フィオレンティーナに1-5と大敗した際は、前半途中でベンチに呼び戻したブライアン・クリスタンテや、ハーフタイムで交代させたジャンルカ・マンチーニとの不和が取りざたされている。

直近でも、パウロ・ディバラの出場をめぐる騒ぎがあった。ユリッチはボローニャ戦の前日会見で欠場を発表したが、選手はスタッフと協議したうえで出場を目指していたという。『La Gazzetta dello Sport』紙は、出場数次第で契約が延長されるディバラが、クラブに説明を求めるとも伝えた。

ローマ専門サイト『IlRomanista.eu』はユリッチ退陣について、「始まりから悪く、さらにひどくなって続いていった物語の終着点」と表現している。

■混乱で思い起こされる過去

迷走が続き、『La Gazzetta dello Sport』紙は20年前の悪夢を持ちだした。

2004-05シーズン開幕前にチェーザレ・プランデッリ監督が退任したローマは、クラブレジェンドのルディ・フェラーを招へいしたが、経験のない指揮官の下で苦戦。開幕戦こそ勝利したものの、その後3試合で白星なく、デ・ロッシと同じ開幕4試合で監督交代に踏み切った。

後任のルイジ・デルネーリ体制でも苦しみ、一時は浮上したものの、2月以降は再び勝利から遠ざかることに。結局、デルネーリは3連敗を喫した3月中旬に退陣した。最後の7試合で獲得した勝ち点は5ポイントにとどまっている。

最後にクラブが頼ったのは、レジェンドのブルーノ・コンティだ。バンディエーラ(旗頭)の下でもセリエB降格すらちらつくほど苦しみながら、最終的に8位フィニッシュ。11勝12分け15敗という成績でシーズンを終えた。

『La Gazzetta dello Sport』紙は、「残酷で破滅的な展開だった呪われたシーズン」と評している。

■見えない明日

ただ、当時は、少しでも病気の妻のそばにいたいというプランデッリのやむを得ない事情があった。現在の低迷は、クラブの選択の結果だ。そして、デ・ロッシ解任に動いたリナ・スルーク前CEOも結局は辞任することになった。このポジションは空白のままだ。

サポーターが不満を抱くのは当然だろう。

報道によれば、ボローニャ戦では試合前からスタジアムの外で抗議の横断幕が掲げられ、一部は0-1とビハインドを背負っていた前半終盤に席を立ったという。

ユリッチ解任が発表されてからも、ローマのウルトラスは「選手たち、キャプテン、重鎮たちは、クソったれの裏切り者」「会長と幹部はローマから去れ、無能で無価値」と怒りの横断幕を掲げた。

元会長のロゼッラ・センシも、SNSで「これから進もうとしている道と、ポスト・ユリッチに待つ未来を、オーナーが示すべきタイミングだと思う」と、オーナーのフリードキンファミリーに呼びかけている。

■後任人事でサプライズはあるのか?

その示すべき「道」はまず、後任監督の選択となる。

有力と言われるのは、サウジアラビア代表のベンチを去ったばかりのロベルト・マンチーニだ。マッシミリアーノ・アッレグリ、クラウディオ・ラニエリといったビッグネームの名前もあがっている。

一方で、フリードキンが相談するエージェントは外国人指揮官を推しているとも言われる。元ボルシア・ドルトムントのエディン・テルジッチや元チェルシーのフランク・ランパードも候補という。

ただ、パウロ・ソウザやグレアム・ポッター、ヴィンチェンツォ・モンテッラなど、うわさをあげればキリがないほどだ。

フリードキンはこれまで、ジョゼ・モウリーニョの招へいやディバラの獲得などで世間を驚かせてきた。新監督人事でも、再びサプライズがあるのか注目される。

今のローマに必要なのは、ショック療法よりも、平穏と安定的な回復かもしれないが…。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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