Yahoo!ニュース

CLでマドリーに「ほぼ完ぺきな勝利」、“王者キラー”のミランは「真の偉大なチーム」になれるか?

中村大晃カルチョ・ライター
11月5日、CLレアル・マドリー戦でゴールを喜ぶミラン選手(写真:ロイター/アフロ)

敵地で王者を沈めた勝利は驚きを誘った。

11月5日のチャンピオンズリーグ(CL)・リーグフェーズ第4節で、ミランはレアル・マドリーをサンティアゴ・ベルナベウで3-1と下した。

国内メディアにとっても想定外だった勝利は、ミランにとってターニングポイントとなるだろうか。

■下馬評覆す快勝

パウロ・フォンセカが就任した今季、ミランは厳しい船出となった。

セリエAでは開幕から3試合白星がなく、監督交代の可能性が騒がれた。テオ・エルナンデスやラファエウ・レオンといった主力の造反が疑われたラツィオ戦での「クーリングブレイク騒動」、フィオレンティーナ戦で指揮官の指示に一部が従わなかった「PKキッカー騒動」は記憶に新しい。

フォンセカとチームの関係や、リーダー不在を指摘する声もあった。CLでも開幕連敗スタートと出遅れ、セリエAでは11節を消化して7位。ベルナベウでマドリー相手に3得点をあげて勝つと予想した人は少なかっただろう。イタリア大手紙『La Gazzetta dello Sport』も、試合当日の記事で「ドローは敗北ではないだろう」と、負けなければ御の字という見解を示していた。

だからこそ、下馬評を覆す歴史的な勝利はカルチョ界を沸かせた。

『La Gazzetta dello Sport』紙のアンドレア・ディ・カーロ副編集長は、「試合前に求められていたのは、ユニフォームの名誉、クラブの歴史を守ることだった。つまりは信じるということだ。だが、我々も含め、このようなほぼ完ぺきに近いパフォーマンスを想像していた人は少なかった」と記している。

「多くの局面で支配的で、チームが常に集中して注意深く、だが何よりも勇敢で攻める意欲を持っていた。マドリーにプレーさせたら多くのカンピオーネ(最高級の選手)たちの個の質にやられるが、カルロ・アンチェロッティ監督がまだバランスを見いださなければいけないシーズンのこの段階では特に、攻めれば頻繁に苦しめられるということを承知していた」

ユヌス・ムサを右サイドバックとする5バックで臨んだことも含め、フォンセカの手腕は称賛に値する。ディ・カーロ副編集長も「多くの妥当な批判を浴びたフォンセカだが、リーグ戦のインテルとのダービーに加え、この歴史的な勝利で報われるのは当然だ」と賛辞を寄せた。

■エース復活の期待

そのフォンセカは、イタリア国内とCLにおける難しさの違いに言及している。マンツーマン戦術への対応などを理由に、決してビッグネームではないセリエAの“格下”との試合も、マドリー戦に劣らない難度だと強調した。

セリエAを戦うときと比べ、欧州の舞台ではスペースを生かしやすいとの見方は少なくない。ディ・カーロ副編集長も「スペースがあると質の高い選手は力を発揮する。そしてミランにはそういう選手たちがいる。筆頭がレオンだ」との見解を示している。

国内でベンチスタートが続き、監督との関係が騒がれるようになっていたレオンが、復活の兆しを見せたことは喜ばしい。『La Gazzetta dello Sport』紙のルイジ・ガルランド記者も、「ボールがなければがむしゃらになることがないレオンですら、汚れ仕事をいくつかこなした」と報じた。

ただ、レオンの最大の課題が持続性なのは周知の事実だ。

ディ・カーロ副編集長は「なまけぐせをなくし、このまま続けられれば、ミランは最高級のレベルの選手を手にすることになる」と続けた。

「カンピオーネの仲間入りを果たすか、才能ある未完成の選手にとどまるかは、レオン次第だ」

9月27日、セリエAレッチェ戦でのミランFWレオン
9月27日、セリエAレッチェ戦でのミランFWレオン写真:ロイター/アフロ

■浮上のきっかけとなるか

もちろん、安定感が必要なのは、レオンに限ったことではない。ミラン全体に言えることだ。

そもそも戦力は一定のレベルにある。ミランはセリエAでインテルも下した。アウェー扱いのダービーを制している。マドリーにも勝利したことで、今季は国内と欧州の前年度王者を“敵地”で沈めた「チャンピオンキラー」となったかたちだ。

ディ・カーロ副編集長は「イタリアと欧州の王者を倒したのには何かしら意味がある。つまり、ミランには否定できない価値があり、最大級のレベルで競わなければならないスカッドがあるということだ」と指摘した。

ガルランド記者は「フォンセカのアイディアとともに増していく自信、そしてマドリー戦で得た大きな自信のおかげで、ミランは次第に向上するだろう」と、今後に期待を寄せている。

「欧州王者を敵地で下したという新たな確信を励みに、リーグ戦で再出発だ。ルカ・ヨビッチ以上に信頼できるフォワードと、ユスフ・フォファナの控えとなる堅実な選手が加わるなら、冬の移籍市場もミランの競争力を磨いてくれるかもしれない」

「ミランはイタリア王者と欧州王者を倒した。醜態をさらすことを最も恐れたときにベストを尽くした。ここがステップアップすべきところだ。(中略)常に全力を尽くさなければいけない。プロヴィンチャでのランチタイムキックオフの試合でも、だ。真の偉大なチームはそうするものである。その意味で、日曜のカリアリ戦はマドリー戦に劣らない大事な試合だ」

CLのビッグマッチで見事に勝利し、週末のリーグ戦でつまずくという例は少なくない。ミランはマドリー戦の白星を躍進へのきっかけとできるのか。サルデーニャでの一戦に注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事