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天才・藤井聡太二冠(19)鬼軍曹・永瀬拓矢王座(28)の築きし大防壁を抜いて竜王挑戦まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月12日。東京・将棋会館において第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局▲永瀬拓矢王座(28歳)-△藤井聡太二冠(19歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は23時36分に終局。結果は184手で藤井二冠の勝ちとなりました。

 藤井二冠はこれで豊島将之竜王(31歳)への挑戦権獲得まであと1勝と迫りました。

 挑決三番勝負第2局は8月30日におこなわれます。

 永瀬王座と藤井二冠の対戦成績は、これで永瀬1勝、藤井5勝となりました。

 藤井二冠の今年度成績は20勝4敗となりました。

藤井二冠、相穴熊の大熱戦を制す

 先手番を得た永瀬王座。作戦選択は、まさかの三間飛車でした。永瀬王座がかつて振り飛車党だったことはよく知られていますが、現在は居飛車党。この大一番で、永瀬王座が先手で飛車を振ると予想された方は、おおいに自慢されてよさそうです。

 昼食休憩後の29手目。永瀬王座は端1筋の香を一つ上がります。穴熊宣言です。対して藤井二冠もまた同様に香を上がり、戦型は相穴熊に進みました。

 まだ序盤の駒組の途中ともいえる40手目。藤井二冠は飛車先の歩を突き、さらには角筋を通して動いていきます。うまく戦機をとらえたようにも見えましたが、永瀬王座もうまくバランスを取り、息の長い中盤戦が続きました。

 永瀬王座は穴熊の桂まで跳ね、藤井二冠の飛車を圧迫しながら、じりじりと歩を押し上げていきます。永瀬王座の強さは、一朝一夕にできあがったものではありません。同世代の黒沢怜生六段は次のように語っていました。

黒沢「私の世代では永瀬さん以上に努力した人はいないですね。関西はちょっとわからないですけど、関東はいないと思います。いるわけないですよ」

 87手目。永瀬王座が3筋で相手の歩を取りながら自分の歩を進めます。気づいてみると「永瀬線」とでも呼びたくなるような、五段目に歩が6枚並ぶ一大バリケード群が築かれていました。相手の動きを封じ込め、じりじりと押しつぶしていく進行は、かつての永瀬将棋によく見られた勝ちパターンです。

 じっとしていては押しつぶされる藤井二冠。天才軍師さながらに、難攻不落にも見える大防壁の中央に突破点を見出します。藤井二冠は角金交換の駒損をいとわず攻め駒をさばき、壁を越えて手駒を打ち込める展開に持ち込みました。

 藤井二冠が抜け出したかに見えた終盤戦。永瀬王座は穴熊を崩されながらも、千日手模様でがんばります。苦しくなってからの粘りが永瀬王座の真骨頂です。

 同一局面が2回現れたあと、藤井二冠は手を変え、千日手を打開しました。形勢は藤井優勢です。

 22時50分頃。永瀬王座は持ち時間5時間を使い切って、136手目以降は一手60秒未満で指す「一分将棋」に入りました。また138手目からは藤井二冠も一分将棋です。

 金1枚、銀2枚の穴熊が健在の藤井陣。藤井二冠はさらに銀を1枚投入し、長いながらも着実な勝ちへの道を選びます。

 最終防衛ラインで、必死に防戦をはかる永瀬王座。藤井二冠が一手でも間違えれば途端に大逆転となります。しかし藤井二冠の寄せに誤りはありません。いつもながらに、驚くばかりの正確な終盤でした。

 184手目。藤井二冠は金を打って王手をかけます。永瀬王座は一礼し、静かに投了を告げました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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