本田圭佑は東京五輪OA枠に選出されるか リオ五輪監督・手倉森氏の見解
「私はボタフォゴでプレーします」
1月31日の夜に自身のツイッターで、ブラジル1部のボタフォゴへの加入を発表したサッカー元日本代表の本田圭佑。日本サッカー界のカリスマが、目標とする東京五輪出場に向けて動き出した。
東京五輪は約5か月後に迫る。森保一監督率いるU-23日本代表のオーバーエイジ(OA)枠に、選出される可能性はあるのか――。
日本代表はアジア選手権で1勝もできずにグループリーグで敗退。五輪では18枠のうち3枠まで認められたOA枠が今の日本代表にとって必要な力であることは言うまでもない。
2016年リオ五輪で日本代表を率い、18年ロシア・ワールドカップ(W杯)の日本代表コーチも務めた手倉森誠氏(現V・ファーレン長崎監督)に聞いた。
「OA枠に本田、香川、岡崎が欲しい」とハリルに直談判
「実はリオの時、(本田)圭佑と香川(真司)と岡崎(慎司)をOA枠に入れたいと、当時の日本代表のハリルホジッチ監督にダメ元で直談判しにいきました。世界のビッグクラブでプレーする選手を入れたら、日本はリオ五輪でメダルを本気で取る気になっているというアピールにもなる。大きな話題にもなり、注目も集まります。もちろん結果はダメだったんですけどもね」
手倉森監督の口から飛び出した衝撃の告白に驚きつつ、裏話に耳を傾けた。
「世界のビッグクラブでプレーする選手たちは、海外でプレーしながら常に“日本人代表”と思ってやっている。国を背負うということは、国を代表して日本人が世界で活躍することなんです」
その考えは、リオ五輪のメンバー選考にも表れた。
「リオ五輪の日本代表選手たちに言ってきたのは、日本サッカー発展の責任をみんなで持とうということです。私はそれを“代表精神”と伝えていました。常に代表精神を持っている選手でなければいけない」
大前提として国際大会で戦う選手たちは、日本サッカー発展のために日の丸を背負っていることを自覚しなければならないと伝えていたという。
思いを巡らせていた手倉森監督が、おもむろにあの男のことを切り出した。
「OA枠で東京五輪に出ると言う(本田)圭佑は、長らく日本代表を引っ張ってきた者としての責任があると思っている。日本サッカー発展のために、東京五輪で俺がやってきた経験を落とし込みたいと思っているはずです」
日の丸を背負う覚悟が本田圭佑にはある――と手倉森監督は伝えたいのかもしれない。“テグさん”と“圭佑”との間には、これまで語られてこなかったエピソードがたくさんあった。
ロシアW杯で手倉森監督と本田とのエピソード
2018年ロシアW杯で日本代表コーチを務めていた手倉森監督は、本田とは腹を割ってさまざまなことを話したという。
こんなエピソードを一つ披露してくれた。
ロシアW杯の時、手倉森監督は本田に「代表に来たら代表のことだけ考えろ、サッカーのことだけ考えろ。ビジネスのことは考えるな」と言った。
すると本田からこんな返事が返ってきたという。
「テグさん、今の時代は違いますよ。サッカー選手だって、ある程度の給料をもらっているけれども、自分の体だけに投資したりする程度です。これからは社会貢献のために何か事業を始めたり、いろんなことができるんです。サッカーで稼いだお金を社会のために使う。ビジネスをして何が悪いのか。サッカーの練習以外で、ビジネス、社会貢献、世界平和のことを考えていれば、人間としてどれだけたくましくなれると思いますか。俺はそういう人間になって、もっとこういうことをするべきだということを訴えていきたい」
この言葉を聞いたあと、「さすがだな、お前は」と言葉を返した。
本田がこうした話をするのは、手倉森監督を信頼しているからだろう。そんな仲だからこそ聞いてみたかったのが、核心部分の本田のOA枠選出の可能性についてだ。
本田と森保監督も互いに東京五輪を意識しているが…
本田が突如、東京五輪出場を目指す考えを明らかにしたのは2018年の8月だった。
「東京五輪にOA枠で出場することを目標に現役を続けて、あと2年、ガッツリと自分を鍛えあげようと思っています。タイミングよく自国開催の五輪が来てくれることを個人的には運命に感じていて、これは目指さないといけないと、勝手に意気込んでいます」
そうした声を意識してか、森保監督が公式の場でOA枠について言及したのは昨年末のこと。
「本田については出場している試合は全てチェックしています。東京五輪を目指していれば全ての選手は選考の対象だと考えています」
選択肢の1人であることは明確になった。本田の声は森保監督に届いていたのだ。
本田は2010年南アフリカ、14年ブラジル、18年のロシアと3大会連続でW杯に出場し、すべての大会でゴールとアシストを決めており実績は十分。
昨年11月に加入したばかりのオランダ1部フィテッセを電撃的に退団し、長らく所属チームがない状態だったが、ようやくブラジル1部のボタフォゴに移籍が決まった。
それでも途中加入で出場機会を得られるのか、結果を残せるのかは未知数だ。
「アドバイザーとしての役割もあり得る」
本田の苦境を踏まえた上で、手倉森監督に直球で聞いた。
「本田選手を東京五輪のOA枠で選びますか?」
1月16日に取材に行ったときには、こうした見解を述べていた。
「所属チームがなく、プレーしていない状態だったら選びません。もしチームが決まれば、どれくらい活躍しているのかは見ます。今プレーしているチームがなければ難しい。それでも(五輪に出ると)言い切る圭佑は圭佑らしいですよね」
辛口に聞こえるかもしれないが、プレーする場所がない現役のサッカー選手をプレーヤーとして代表に呼べないのは、至極当然だろう。
ただ、ブラジルのボタフォゴでプレーすることが決まった。チームで結果を残せば東京五輪出場の可能性はあるが、険しい道に変わりはない。
「そういう意味ではアドバイザーとしての役割もあると思います。自国開催の五輪は、他とは違うと思うんです。日本で開催するからこそ、国民の期待に押しつぶされるというものを、彼はたぶん予測しているのだと思います。『いろんなプレッシャーに打ち勝ってきた俺が必要だろう』というアピールですよ。日本代表の情けないニュースしかないときに、圭佑が違うところから話題を持ってきて、『逆に批判は歓迎だ』ということまでニュースになる。これができるのはサッカー界に圭佑しかいません」
本田は東京五輪でボランチ希望?
手倉森監督によれば、今後はOA枠以外の選手のポジションや森保監督との関係性も重要になってくるという。
「(五輪代表選出は)ベースとなる23人の選手たちがどのポジションの選手がいるかも関係してくる。たぶん圭佑が五輪で描いているのは、ボランチだと思います。チームの状況を中盤の底で見られるのがいいのかもしれません。圭佑の他に誰を選ぶか? 名指しは難しいけれど、“五輪経験者”がいいでしょう。圭佑はカンボジアでも監督をやっているから、自分だったらコーチに入れるのも面白いかな。あとは圭佑が入った場合で、サブのときに森保監督をしっかりと立てられるのかどうかも考えます。これからは圭佑と森保監督の関係性も重要になってくると思います。彼のメッセージを森保監督が受け止めてあげられるかです」
“人間・本田圭佑”の成長に期待
手倉森監督は最後に本田へエールを送った。
「圭佑は誰かに媚びて、踊らされてやる男じゃない。自分の中で考えて、俺はこう思っているということを宣言する。そういう部分は私と一緒で『俺と圭佑はよく似ている』と言うと、負けじと『俺は有言実行ですからね』と言うんです(笑)。“人間・本田圭佑”というのは、これからも必ず進化し続けるでしょう。今は“サッカー界の本田圭佑”として、日本サッカー界や東京五輪を盛り上げるつもりで、OA枠の話をしていると思います。もし森保監督が選べば、圭佑はプレーヤーとしての力が必要になってきますし、選ばれなくても、これまでの経験を東京五輪のメンバーたちにメッセージを送ってほしい」
メンバー発表の日まで本田がOA枠で代表入りするかは分からないが、“有言実行”の男は目標達成に向けて虎視眈々と牙を研いでいることだろう。
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