なでしこジャパン定着を目指す、FW籾木結花の成長
【創造力あふれるセットプレー】
なでしこジャパンは11月20日から26日までヨルダンに遠征し、24日には首都アンマンでヨルダン女子代表と親善試合を行うことになった。
ヨルダンは来年4月に開催されるAFC女子アジアカップ(兼2019年FIFA女子ワールドカップ・アジア予選)の開催地であり、今回の遠征は、移動距離や交通手段、宿泊地や治安等を確認し、スタジアムの雰囲気やピッチコンディションなどをシミュレーションできる格好の機会となる。
その後は、北朝鮮、韓国、中国の3ヶ国と対戦するEAFF(東アジアサッカー連盟)E-1フットボールチャンピオンシップ2017決勝大会が、12月8日からフクダ電子アリーナ(千葉)で開催される。
昨年6月に高倉麻子監督が就任して以降、日本は国際親善試合を14試合行い、対戦成績は5勝6敗3分けである。
内容は、ゴール数が「20」、失点数は「22」だが、得点の内訳は、流れの中から奪ったゴールが19点を占めるのに対し、セットプレーからのゴールはわずかに1点と、少ない。
国際大会では、セットプレーから生まれるゴールも多い。2011年FIFA女子ワールドカップで優勝した当時のなでしこジャパンは、その後、2012年のロンドンオリンピック(2位)、2015年FIFA女子ワールドカップ(2位)と3大会連続で決勝に進出し、全19試合を戦った。その19試合で決めたゴール数は合計32得点で、その約40%に当たる13得点がセットプレーから生まれている。
2019年FIFA女子ワールドカップで上位進出を目指す日本にとって、貴重な得点機会であるセットプレーからゴールを決めることは、課題の一つである。
10月22日(日)に長野Uスタジアムで行われた「MS&ADカップ2017」では、セットプレーからゴールこそ生まれなかったものの、多様な試みが見られた。たとえば、前半38分に籾木が蹴った右コーナーキックの場面だ。
籾木が助走に入った瞬間、ニアサイドにいたMF櫨(はじ)まどかが籾木に向かって走り、ショートコーナーの構えを見せた。しかし、ボールは櫨の左側をすり抜けるようにして、その後ろにいたMF長谷川唯の足下へ。櫨にパスが出ると思い、櫨をマークしていたスイスのディフェンダー2人が慌てて長谷川に寄せたが、その瞬間、長谷川はフリーになった櫨にワンタッチでパスを落とした。櫨が走りこんだタイミングがわずかに合わず、ゴールにはならなかったが、今後、ひとつの得点パターンになり得るプレーだった。
「コーナーキックのパターンをいくつか用意していたのですが、相手がゾーンで守備をしてきたので、あの場で話し合って、やってみました。櫨さんに(ボールを)出してショートコーナーをやっても良かったのですが、そこに相手(ディフェンダー)が付いてきたので、後ろから走ってくる(長谷川)唯が空いたんです。ゴールにはならなかったですけど・・・」(籾木)
籾木は得点できなかった悔しさをにじませつつ、相手の意表をつく作戦を試みたことに、「ふふ」と笑った。
【なでしこジャパン1年目の成果】
高倉ジャパンは、セットプレーのキッカーを限定していない。
MF中島依美、FW横山久美、MF隅田凜、そして籾木と、所属チームでキッカーを任されている選手が多く、現在は蹴るポイントや試合状況によって、柔軟にキッカーを替えている。
日本がこれまでの14試合で唯一、セットプレーから得点したのは、6月に行われた欧州遠征のベルギー戦(△1-1)。日本のフリーキックを相手がクリアミスし、詰めていたFW菅澤優衣香が押し込んだ。
この時も、キッカーは籾木だった。
籾木は21歳と若いが、ベレーザでは今シーズン、リーグ戦18試合で7ゴール5アシストを記録。チームのリーグ3連覇に大きく貢献し、2年連続のベストイレブンに輝いている。
左足キックの正確さや、FWとしての決定力の高さは、なでしこジャパンでも光る。
今年3月にポルトガルで行われたアルガルベカップのスペイン戦で初出場を飾った籾木は、これまで11試合で3ゴール2アシストの結果を残してきた。
「中学生の時になでしこジャパンがワールドカップで優勝(2011年)して、『自分もワールドカップで優勝したい』という目標を持ちました。今、その代表に呼ばれているのは嬉しいことですが、選ばれることを目標にするだけではなくて、世界と戦っていくことを常に意識してトレーニングしています」(籾木/2017年10月9日、なでしこリーグ表彰式)
ベレーザや年代別の日本代表で積み重ねた経験が、試合中の的確な判断や、大舞台のプレッシャーに動じないメンタルに繋がっている。
しかし、年齢制限のないA代表では、戦術的にもフィジカル的にも高いレベルで競い合う中で新たな壁に直面した。
アメリカやフランス、オーストラリアなどの強豪国には、日本の強みであるテクニックや組織力だけではカバーしきれない、高いフィジカル能力を持った選手が多い。
そんな中で、小柄な選手が多い日本の攻撃陣の中でも特に小柄(153cm)な籾木は、自主的にフィジカルトレーニングを続けてきた。
「今までは、ドリブルをするときに減速すると、次へのパワーが出にくかったんですが、今年のリーグ戦で、ドリブルをしていた時に一度、減速してからまた加速して相手を抜いた場面があったんです。その時に、続けてきたトレーニングが試合で活きていると実感できました」(籾木)
しかし、そのように成果を実感できる場面はまだ少なく、「繰り返し、トレーニングを続けていくしかないと思っています」と、表情を引き締める。
【チームの完成度は?】
メンバーを大会(試合)ギリギリまで固定せず、選手の配置や組み合わせを対戦相手によって変化させながら、交代選手も含めて誰が出ても遜色ないチーム作りを進めていくーー。年代別代表チームで、15歳から高倉麻子監督の指導を受けてきた籾木は、監督の哲学やサッカー観を最もよく知る選手の一人である。
フランスワールドカップ予選を兼ねたアジアカップまであと半年と迫った今、籾木の目に、現在のチームの完成度はどのように映っているのだろう。籾木は現状を冷静に分析し、次のように話してくれた。
「(7月の)アメリカ遠征で対戦したオーストラリアみたいに、長年、同じメンバーでやってきたようなチームに勝てるほどではないですが、7〜8割で、どの選手が出ても(連携)できるようになってきたと思います。たとえば、サイドハーフのポジションで出た時は、サイドバックの選手が変わっても、守備の追い方などでうまく連携できるようになってきました。(中略) もっとゆっくりパスを回せる時もあるし、逆に、速くしたい時に緩(ゆる)いボールになってしまうこともあり、まだ、試合状況を読んだスピードにはなっていないと思います」(籾木)
厳しいポジション争いの中で自分をアピールすることに腐心するよりは、日本がチームとして完成度を高めていく中で、いかに自分の特徴を活かせるか、ということを、籾木は真剣に考えているようだった。
スイス戦で、籾木は冒頭のコーナーキック以外にもいくつかの見せ場を作ったが、いずれも日本のゴールには繋がらず、前半の45分でピッチを後にしている。それでも、2-0で勝利した試合翌日、籾木の表情は晴れやかだった。
「もちろん、90分間(試合に)出たい気持ちは山々です。でも、自分がピッチを出た後の変化を見ることも大事なことだと思っていました」(籾木)
セットプレーのキッカーが決まっていないということは、裏を返せばレギュラーを保証された選手がいない、ということでもある。高倉監督はスイス戦に向けた代表合宿中、選手に必要な資質について、こんな風に話している。
「競争の中で、選手は試合で使われたり使われなかったり、ということがありますが、それでメンタル的に落ちてきたり、自信をなくすと競争には勝てません。(中略)いつも強い自分で、どういう時間帯でも、どういう使われ方でも自分の力を発揮できる選手を信用していきたいと思います」(高倉監督)
どんな使われ方でも最善を尽くす。高倉監督の「イズム」を実践しながら、籾木は自身の課題と真摯に向き合い続ける。