PS5の予想価格がメッチャ高かったのはなぜ 399ドルは「安すぎる」か「妥当」か
ソニーの新型ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」の価格が399ドルと発表されましたが、日本での価格も4万円を切ることから、ネットでは「安すぎる」という声が続出しました。改めてこれまでネットで飛び交った価格のうわさ・予想を振り返りながら、考えてみます。
◇PS5の価格 当初は10万円超の見立ても
PS5は、8Kの美しい映像が売りで、コントローラーの振動で多彩な触感表現を再現、ロード時間を飛躍的に短縮した新型ゲーム機で、現行機のPS4用ソフトもほぼ遊べます。ディスクドライブありの通常版は4万9980円、ディスクドライブがない「デジタル・エディション」は3万9980円で、11月12日から発売されます。ただし、現状では人気がありすぎて予約も困難な状況です。
2019年4月に米メディア「WIRED」がPS5の存在を明確に報じ、同年10月に発売時期が「2020年の年末商戦期」とアナウンスされました。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が断片的に情報を出すたびに、ゲームファンの価格予想は盛り上がりました。関係者は「PS5は、いつも何かしらのうわさが飛んでいますから……」と苦笑いする状況でした。
そして2019年12月、ツイッターで「PS5の発売日」がトレンド入りしました。あるサイトが、PS5の発売日と価格が決まった……と報じたからです。そのときの価格は、何と約7万円と約11万円の2種類で、見た目に記事の体裁を取っていたこともあり、少なくない数の人が信じたり、話題にしました。ちなみに商品画像も掲載していましたが、そちらもフェイクでした。
【参考】PS5発売日&価格決定のフェイクニュース 対応難しいネットの悪意
次の“お祭り”は半年後の2020年6月で、PS5のデザインが公開されたタイミングでした。公開直後からネット販売サイトなどにPS5の価格は4万~8万円などの書き込みがあり、一部のニュースサイトやまとめサイトが取り上げ、やはり話題になりました。
【参考】「PS5」の飛び交う“価格”が話題に 垣間見えるユーザーの本音
しかしうわさは面白いもので、最初は10万円を超えるものが多かったものの、5~7万円になり、最後には4万円台に落ち着くような流れでした。そして実際の価格は、3万円台に突入したわけです。そう考えるとPS5の価格発表時にネットで飛び交った「安すぎる」というのは、ネットの多くの人の本音なのでしょう。
◇399ドルの価格 的中させたメディアも
それにしてもネットのうわさは、本物の価格よりも高い傾向にありました。400ドルや4万円を切る、大胆な低価格の予想がもっとあっても良さそうなものですが……。理由は、ネットで情報を発信するゲームファンが、モノを知りすぎているからで、PS5の価格を判断するのに、PCの部品価格などから逆算する傾向にあるからです。
高橋名人も今年の6月にブログで、PS5の価格を直感的に予想していますが、やはり部品を理由に6~8万円というラインで見ています。PS5の価格発表後、多くのゲーム系メディアが「PS5の価格が安い」と言及するのも、知っているからこそです。
話を戻しますが、新型ゲーム機の価格が、ゲームファンの予想通りで、驚きがないようでは困ります。熱烈なファン、新商品好きは黙って買ってくれるでしょうが、割高感はゲーム機の普及の阻害要因になります。今回の「安すぎる」という声は、ソニーからすれば「してやったり」でしょう。
一方で、PS5の価格を399ドルと予想し、正解を当てた記事もあります。
【参考】PS5、狙うは399ドル? 光ディスク非搭載モデルの意味(日経ビジネス)
なぜ正解を割り出せたかと言えば、過去の価格帯、部品、ソニーの戦略、現在の経済状況を総合的に考えて、ビジネス目線で見ているからです。過去のソニーの据え置き型ゲーム機の価格を見れば399ドルが重要なのは一目瞭然で、この事実を無視するわけにはいきません。熱烈なゲームファンのPS5に対する評価を、ソニーが気にしているのはその通りですが、それ以上に気にしているのは、ゲームが好きなサイレント・マジョリティの動きです。ソニーからすれば、多くのユーザーに普及させて、「PS4並み、それ以上に売りたい」と考えて戦略を練るのは当然ですから、それも織り込めば、価格が的中しやすくなるのです。
要するにPS5の399ドルは、普及させるために必須の価格であり、予想の範囲内ですから「妥当」となります。高コストも承知の上で「安すぎる」とはならないわけです。ドライな話になりますが、コストは作り手(メーカー)側の事情であり、消費者にはどんなサービスが提供されるかが大事だからです。
つまり、PS5の部品に精通するほど、「399ドルにするのは無理」と考えてしまう難しさがあるのですね。そして市場の部品を見てPS5本体のコストを割り出し、価格を見積もるのも限界があります。年間で数千万台レベルを売る可能性のある商品の量産効果はすさまじいでしょうし、製造コストを落とすための方法はいろいろあります。さらにビジネスモデルの組み立て次第で、カバーすることもできます。そもそも世界規模のビジネスになれば、失敗は許されませんから、ありとあらゆる手を打ちます。
ちなみに、生産コストが販売価格を上回る「逆ザヤ」ですが、ソニーの常務も兼任するSIEのジム・ライアン社長に取材で尋ねたところ、明確な回答がありませんでした。
このあたりは、極めて微妙なラインなのでしょう。仮に「逆ザヤ」だとしても、ソニーのゲーム事業が赤字予想かといえば、そうなっていません。8月に発表された、ソニーの2020年度決算(4月~2021年3月)の通期予想で、ゲーム事業の売上高は2兆5000億円、営業利益は2400億円で、しっかり黒字になっています。
ただし前年度比で、売上高はPS5の販売もあって5000億円以上伸びますが、一方で営業利益は伸びないのですね。これも決算で説明がありますが「PS5導入にかかる販売費及び一般管理費の増加」と「ハードウェアの売上原価率上昇」が挙げられています。そして来年の1月末から2月に発表される2020年10~12月(第3四半期)決算を見れば、PS5の最初の成績が明らかになります。
PS5本体の高性能に注目が集まりますが、ビジネスの要は4000万人以上の会員を抱え、年間3000億円を稼ぎ出す定額の有料ネットワークサービス「プレイステーションプラス」でしょう。同サービスがPS5に引き継がれることこそ、ビジネスのキーです。PS5の本体を購入し、「プレイステーションプラス」に加入すれば、さまざまな有力ソフトが遊べる仕掛けになっています。そのあたりは抜かりがありません。
ヒットをすればすさまじい売上高と利益を稼ぎ出すゲーム機のビジネスですが、新型機の乗り換えタイミングでは、相当の覚悟が必要であることを数字は物語っているのです。