『堂々と誇りをもって』ノルウェー国会前で市民的不服従の練習をする若者と先住民サーミ人
非暴力で違反行為をする「市民的不服従」はノルウェーでは一般的な市民運動として浸透している。先日、首都オスロの国会前で「市民的不服従の練習をする若者たちと先住民サーミ人」という、日本ではまず見ないだろう不思議な光景を取材した。
「トレーニング」が行われていたのは、ノルウェー国会前で座り込み抗議を続けているサーミ人であるミフカル・ハエッタさん(Mihkkal Hætta・22歳)の移動用住居ラヴヴォ(lavvo)前だ。市民的不服従の経験が豊富なノルウェー最大規模の環境青年団体「自然と青年」(Natur og Ungdom)のリーダーであるギーナ・ギルヴェールさん(Gina Gylver・22歳)が、集まった若者たちに非暴力の市民運動とは何かを説明した。
「市民的不服従は警察がセットになるので、怖いというイメージがあるかもしれませんが、民主主義を脅かすものではなく、歴史を変えるために多くの団体がこれまで実行してきました。暴力ではなく『平和的』であることが大事で、私たちは抵抗をしない・『受動的』であることを見せる必要があります」
「罰金を支払う覚悟で参加して」
「座っていると、警察が来て移動するように注意され、警告を無視した場合は連行されます。罰金は8000~1万4000ノルウェークローネほどですが、2年間の分割払いが可能で、寄付を募ることもできます」。ギーナさんは過去に2回支払ったことがあるが、今年の石油省前を封鎖した抗議活動では、市民は連行されたが罰金は誰も請求されなかったそうだ。「理由はいくつか考えられますが、すでに最高裁が人権違反をしているのはノルウェー政府と判決をだしており、多くの若者と先住民の権利を守る闘いでもあり、応援する弁護士が多かったことなど、フォーセンの闘いはさまざまな観点で物議を呼んでいるからだと思われます」。
罰金を支払うという覚悟で参加すること、将来の就職活動には影響は出ないがもし最高裁判官になりたい場合は参加しないほうがいいこと、道徳的なジレンマが発生するために15歳未満は参加しないほうがいいこと、警察には「名前・生年月日・職業・住所」以外は聞かれても答える義務はないこと、警察に連行されたら米国に入国する場合は時間がかかると「言われている」が実際はそのような事例の報告はないことなどが伝えられた。
「先住民クヴェン人としてもサーミ人との連帯を示したかった」
ユーリさん(22) はノルウェーの極左政党「赤党」青年部の事務総長として働き、先住民クヴェン人でもある。「フォーセン地域における政府の対応を恥ずかしいと感じて、『これはダメだよ』と意思表示するために参加しにきました。市民的不服従をすることにはちょっと緊張しています。私はクヴェン人でもあるから、ソリダリティ (連帯・Solidarity)を示したいと思ったんです」と取材で語った。
「警察に運ばれて連行される練習」
国会前で行われた練習は主に「運ばれるテクニック」だ。「bæreteknikk(バーレ・テクニック)」という「運ばれる(警察に運ばれて連行される)テクニック」というノルウェー語があること事態が、筆者には軽いカルチャーショックだった。「緊張を解いて体から力を抜いたほうが、警察官にとって運ぶのに時間がかかる」と、「体に力を入れた・抜いた両方の状態」を全員が練習した。
市民的不服従では銀色の鎖で市民が身体をどこかに巻き付けた風景が定番だ。ギーナさんは「鎖」に関しては、どれほど丈夫でも「切断できない鎖は警察にはない」が、鎖は「シンボル」として重要な役割を担っていると説明する。
「警察に連行された後は、『サーミの家』(サーミ人が集まる文化的施設)に集合して、体験を話し合いましょう」「民主主義と権利の闘いなので、堂々と市民的不服従を実行して。顔も名前も隠さずに、誇りをもって参加してください」「それでは10月11日に!」と笑顔で解散した。
なぜ抗議活動をするのか?
約2週間後、ノルウェーでは市民による大きな抗議活動が起きる予定だ。ノルウェー政府による風力発電所があるフォーセン地域は、先住民サーミ人がトナカイ放牧をする土地でもある。ノルウェー最高裁判所は、フォーセン地域における政府の風力発電建設は「サーミの人権侵害」だと既に判決を下しているが、「風車をどうするべきか」までは進言しなかった。そのため、政府は「対話」で問題解決を試みるとしたが、実際は進展はない。「最高裁判所が判決を言い渡してから」、つまり「サーミの人権侵害がされて2年目」となるのが2023年10月11日だ。
これまでにもスウェーデンの活動家グレタ・トゥンベリさんも応援に駆けつけて、ノルウェーの石油・エネルギー省の前を封鎖するなどの抗議活動が行われているが、10月11日に予告されている抗議活動は同等かそれを上回る規模のものとなるとみられている。
Photo&Text: Asaki Abumi