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3歳女児が死亡 園バスの車内に置き去りか:なぜ事故は繰り返されるのか:ヒューマンエラーと私たちの責任

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(写真:イメージマート)

■園児送迎バスに置き去りか 3歳児死亡報道

また、痛ましい事故が起きてしまいました。

報道によると、9月5日午後、静岡県内の認定こども園で、3歳の女の子が園バスの中で亡くなっていました。

バスは園児を降ろして、屋外の駐車場に止められていましたが、警察は、女の子がバスから降ろされず置き去りにされたとみて、調べを進めています。

【速報】園児バスの車内に女児が5時間置き去りか…病院で死亡確認 熱中症の疑いー静岡・牧之原市:SBC>

同様の事故は、今回が初めてではありません。2021年7月にも、福岡の保育園で当時5歳の子供が、送迎バス内に取り残され熱中症で死亡しています。

自家用車の中に子供が取り残されて死亡するような事故は、毎年のように、日本でも世界でも起きています。

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。なぜ、園バスは昨年の事故の教訓を生かすことができなかたのでしょうか。

■人は間違いを犯す存在である

人は間違いを起こします。どんなに気をつけていても、失敗します。愛にあふれている有能な人でも、命に関わるような間違いをしてしまうのです。

そんなことは、絶対にないでしょうか。しかし、高度に訓練されたパイロットの単純なミスで、飛行機は墜落しています。自分も乗客も死亡します。

愛にあふれたベテランドライバーであるお父さんの運転ミスで、家族が亡くなるような事故も起きるでしょう。

「人は間違える」。人間の間違いを「ヒューマンエラー」と呼びますが、その前提に立って、事故防止を進めていかなくてはなりません。

■自己の教訓はなぜ生かされないか:ネット上の反応から

今回の報道へのヤフーコメントを見ると、たとえば現職の保育士さんが、「あの事件(昨年の福岡の件)から子ども置き去りに関して、前よりも心がけるようになりました。職場でも気を付けるようにとの指示もありました」と述べています。

おそらく、全国の園で同様の注意喚起がなされたことでしょう。それでも同様の事故は起きてしまいました。

こんな事故が報道されると、当事者を責める言葉も見られます。

「"子どもの生命を預かってはならない人がその職務に就いていた"と判断せざるを得ない」

「だらけていたのではないと思う」

「子どもに気付かないなんて、あり得ない」

たしかに、責めたくなるお気持ちもわかります。被害者のご冥福をお祈りしたいと思います。その上で、ヒューマンエラーの研究によれば、当事者を責めるだけでは事故は減りません。

■子供の車内置き去り、降ろし忘れ事故の対策は

ある保育士さんはコメントしています。

「点呼をきちんと行う、降車後の確認をきちんと行うこれで防げた事故です」。

その通りです。その通りなのですが、それでも事故は起きました。

ヤフーコメントには様々なアイデアも出ています。

「子供にクラクションの押し方を教えた」

「出席確認をするなどをきちんと全国の保育園で制度化するのでもいい」

「二重、三重の対策や対応を義務付ける必要がある。」

「バス到着時の確認として車内を見回れば済みます」

「ダブルチェック、トリプルチェックをするしかない」

ただ当事者を責めるだけではなく、様々な対策を考えることは有益です。しかし、それでも事故は起きます。

確認するだけ、二重三重のチェックするだけ。そうなっているはずの、飛行機や病院や原発でも、ヒューマンエラーは起きています。

単純な原因による事故なのですが、その事故を減らす方法を考えるのは、単純ではありません。

■事故対策のための綿密な調査を

これまでの大事故の例を見ると、チェックしているはずなのに、チェック漏れが起きています。警報が鳴るようになっていても、警報を切ってしまうことがあったり、警報が何の警報かわからなくなることもあります。

厳重すぎるチェック項目を増やしすぎると、逆にチェックがおろそかになることもあります。

飛行機事故の場合には、莫大な費用と労力をかけて、徹底した調査が行われます。

まずハード面(機械のトラブル)がなかったか、整備ミスではないか、それがないとしたら、ヒューマンエラーか、そのヒューマンエラーはなぜ生じたのか。疲労か、経験不足か、操縦室内の人間関係か、緊張かなれ合いか油断か、搭乗前の出来事か、マニュアルの問題か、パイロットの教育プログラムの問題か。

一つひとつの事故の原因を徹底的に追求し、事故のたびに具体的な問題を解決していったおかげで、飛行機事故は減っていきました。

子供の車内置き忘れ事故も、同様だと思います。ところが、日本では詳しい原因が報道されません。昨年の園バスの事故原因も、少なくとも庶民には詳細は伝わってきていません。

飛行機事故のような調査はできないとしても、それでももっと詳しく調べて、「気をつけましょう」といった精神論ではなく、もっと具体的な注意喚起や対策ができたはずです。

■事故を減らすための私たちの責任

子供の車内置き忘れ事故。国内外の例を見ると、私には国外の事故の方が詳細が報道されているように感じられます。踏み込んだ調査やインタビューがされているように思えます。

日本の組織の問題、マスコミの問題でしょうか。それもあるかもしれません。同時に、私たち市民の責任もあるように思えます。

不幸な事故が起きた。日本中が、その家族や園を責め立てる。ありえない事故だ、愛がない、注意力がない、親失格、保育者失格。ネット上では誹謗中傷、罵詈雑言が飛びかう。

こんなふうになってしまっては、組織による調査もマスコミによる調査報道も、とてもやりにくいと思います。法的な責任があるのなら、法的な責任追及があるでしょう。制裁も必要ですが、今後の事故防止はもっと必要です。

私達の悲しみや怒りを冷静さに変えましょう。そして、一つひとつの事故事例をきちんと調べ、具体的な対策につなげていきたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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