名店「鳥よし」の味を継ぐ正統派。粋な大人が集まる街・荒木町にて【多喜/東京】
今回、冒険するのは東京都新宿区荒木町の「多喜」。最寄りは四谷三丁目駅。店があるのは、落ち着いた大人のための飲み屋街・荒木町の外れで、多に喜と書いて「たき」と読む。いかにも縁起のよさそうな屋号だ。ここはなんと名店「鳥よし」出身。知らずに訪れて串を食べたなら「鳥よし」そのものだと錯覚するかもしれない。それほど、串の一本一本にその血を色濃く感じるんだ。
本家と同じく伊達鶏をおまかせで
車力門通り沿いの雑居ビル2階。階段を上がり暖簾をくぐれば、たっぷりと余裕のあるL字カウンターが目に入る。その奥で焼き場に立つのは「鳥よし」で研鑽を積んだというベテラン。もちろん、扱うのは本家と同じく、福島県の銘柄鳥「伊達鶏」だ。まずは定番のお通し、ぬか漬けから。串を待つ間、これとビールでしっぽりとやるのもまた定番。
1本目はシャクシャクの砂肝
「多喜」の焼鳥はテンポがいい。早速差し出された1本目はシャクッと歯切れよい砂肝。砂肝は鶏の胃にあたる部位。牛や豚には見られないこともあって、焼鳥屋に来たことを強く実感するネタでもある。もしおまかせで出されなければ必ず追加するくらいに、焼鳥には欠かせない。
続く2本目は銀杏。これも焼鳥屋ではおなじみのネタ。噛めばプヌッとやわらかく、心地よい苦み、甘みが広がっていくよう……。銀杏を使った料理といえば煎り銀杏や茶碗蒸もあるものの、やっぱり焼鳥屋で食べるのが一番うまいなぁ。シンプルがゆえに。
早くもメインディッシュがお目見え
本家「鳥よし」の焼鳥で思い浮かぶのが、つくねとかしわだ。どちらのネタも1本目に出されることはよくある。ここ「多喜」でも見事、その味を継承している。強火でバッと焼き上げて、中はプリッとみずみずしさを残すように。仕上げに甘辛いタレをまとわせれば、まさに主役を張るうまさ。うーん。序盤にしてクライマックスを迎えた気分。
アッツアツの厚揚げがうまい
ここで、厚揚げ。銀杏やうずらはいろんな焼鳥屋で味わえるけれど、串に打たれた厚揚げを見かけることはどんどん減ってきているように感じる。確かに串に打たなくても鉄網で焼くこともできる。でも、こうしてわざわざ串にまとめていることにグッとくるんだ。それが、焼鳥。
アッツアツを定番の生姜醤油で。火傷は承知の上でハフつけば、香ばしさがふわり。うーん、最高。先の銀杏もそうだけど、厚揚げも焼鳥屋で食べるのが一番うまい。
鶏だけでなく味の濃い合鴨も
さぁ、10品も越えて終盤。そろそろ合鴨が食べたいと思っていたら、これが絶妙なタイミングで差し出された。噛めば鶏にはない濃いうまみと、独特な甘い香りが広がっていく。「多喜」にかぎらず、合鴨を扱う焼鳥屋は少なくない。鶏と野菜のネタのなかに生まれる緩急。焼鳥だからこそ、この1本があるだけで奥行きがぐんと増すように思う。
〆は定番の手羽。大げさに言えば、骨付きの手羽は自分が動物であることを自覚するネタ。大ぶりな伊達鶏の手羽の骨をひねるように抜いて、骨に肉に夢中でむしゃぶり付く。……いやぁ、もう満腹。前半のハイライトがつくねとかしわなら、後半は間違いなく合鴨と手羽だ。これらは食べてないと帰るに帰れないというもの。きじ丼も食べたかったけれど、うん、それはまた今度。
「多喜」はおまかせで焼き手にネタをゆだねるのもよし、アラカルトで好きなように食べるもよし。まさに「鳥よし」仕込み、使い勝手のいい焼鳥。それが中目黒や麻布、銀座ではなく新宿の外れでも味わえるというのは〝知っておいて損なし〟だ。
▼冒険のおさらい
①名店「鳥よし」の味を継承
②つくねとかしわは大定番
③おまかせでもアラカルトでも
店舗情報
【店名】多喜
【最寄り駅】四谷三丁目駅
【住所】東京都新宿区荒木町9-22
【予約】03-3353-5415
【定休日】日曜、祝日、第2・第4土曜
【串のアラカルト】あり
【コース・セット】おまかせストップ
【鶏メモ】伊達鶏