バルサがネイマールという「欠落」を埋めるために。コウチーニョとデンベレ、そして新たな解決策。
スタープレーヤーを失う危機感に苛まれた昨年夏とは、明らかに違った。
エルネスト・バルベルデ監督が就任2年目を迎えたバルセロナだが、今年は静かな夏を過ごした。「ネイマール」の文字がメディアに踊った騒々しさを思えば、マルコムをめぐってのローマとのひと悶着も、ジェリー・ミナの移籍騒動も、大したものではなかったと言えるだろう。
■ネイマールという欠落
フガ・デ・ネイマール(ネイマールの放出)ーー。これはクラブにとって、バルベルデ監督にとって、喫緊の解決事項となった。
契約解除金2億2200万ユーロ(約286億円)を準備したパリ・サンジェルマンに抗う術はなく、バルセロナは土台から崩れる危機に晒された。リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの「MSN」は唐突に解散の日を迎え、やって来たばかりの指揮官にはシステムと戦術の変更が求められた。
2014-15シーズンから3トップを組んだ「MSN」が挙げた364得点中、メッシとスアレスが記録したのは274得点だった。ネイマールの得点数(90得点)を見れば、フィニッシュに関しては彼への依存度は高くなかった。
ルイス・エンリケ前監督が買っていたのはネイマールのスピードと突破力だ。自ずとバルセロナの攻撃はカウンターへの傾倒を見せた。バルセロニスタが、ルチョの講じたスタイルに納得していたとは言い難い。シャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタの存在は軽視され、ポゼッションの価値が薄まっていったためだ。
ルチョはペップ・チームの幻影と戦っていた。その解決策がネイマールであり、「MSN」だった。しかし、今度はバルベルデ監督がネイマールの亡霊と格闘することになった。
■膨れ上がった移籍金
ネイマール退団の損失はスポーツ的側面にとどまらない。そもそも、彼の獲得に際しては問題が生じていたのだ。
ネイマールの獲得に熱心だったのは、サンドロ・ロセイ前会長だ。だが、当時5700万ユーロ(約74億円)とされた移籍金は、総額で1億ユーロ(約130億円)以上になったといわれている。バルセロナとサントスの諍いは裁判沙汰となり、ロセイ氏、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長、そして両クラブに出廷が求められた。
それほどのリスクを冒してネイマールを獲得したバルセロナだが、昨年夏にパリ・サンジェルマンが「金にモノを言わせる」格好で獲得を決めた。2億2200万ユーロという契約解除金を用意するとは、バルセロナの関係者は誰一人として考えていなかったようだ。
ウスマン・デンベレやフィリペ・コウチ-ニョを獲得するために費やした資金を見れば、バルセロナの慌てぶりが分かる。その額、実に2億2500万ユーロ(移籍金固定額/約292億円)である。
ロセイ氏がネイマール獲得以前にトラブルを抱えていなかったわけではない。2003年、クラブは故ヨハン・クライフを喜ばせるために、ロベルト・アジャラ、ダビド・アルベルダ、パブロ・アイマールの獲得を目指した。だが当時幹部の一人だったロセイ氏はデコとロナウジーニョの獲得を決めた。両者の間で緊張感が高まり、結局この一件に不満を抱いたクライフはバルセロナを後にした。
■4-3-3への回帰
ネイマールが抜けて、2シーズン目を迎えた。地元のメディアやファンの間では、4-3-3への回帰を求める声が高まっている。
昨今、潤沢な資金力を武器にトップクラスの選手を手に入れるのは、さほど難しくなくなった。だが最も重要なのは、そういった選手たちが特徴を見せられるプレースタイルを確立することである。
バルセロニスタが期待するのはGKテア・シュテーゲン、最終ラインにジョルディ・アルバ、ジェラール・ピケ、サミュエル・ユムティティ、セルジ・ロベルト、中盤にセルジ・ブスケッツ、イバン・ラキティッチ、コウチーニョ、前線にメッシ、スアレス、デンベレを据えた布陣だろう。
しかし、現時点ではまだチームの機能性は示されていない。プレースタイルと帰属意識を植え付けなければならない。
デンベレがネイマールとの違いをつくるのであれば、得点力を示す必要がある。そして、彼には両足を扱えるという利点がある。それを生かせれば、十分にバルベルデ監督の代替案となり得る。
コウチーニョに求められるのは、インサイドハーフでのプレーだ。長年、イニエスタが務めていたポジションだ。だがイニエスタの代わりを務められる選手は存在しない。コウチーニョは彼を真似るのではなく、バルセロナのメカニズムを理解する必要がある。
昨季序盤戦は、ネイマールがいなくなった喪失感に襲われ、内容を追求するどころではなかった。極端に言えば、勝てば良かった。だが今季はそうではない。目の肥えたバルセロニスタに確かな満足感を与えながら、勝利を収める。新たな挑戦は、幕を開けたばかりだ。