なぜ日本国内では新型コロナmRNAワクチン接種後のアナフィラキシーが多いのか?
2021年2月17日から日本でもまずは医療従事者を対象に新型コロナウイルスワクチンの接種が始まりました。現時点で海外よりもアナフィラキシーの報告数が多いようですが、その原因は何でしょうか?
3月11日までに37件のアナフィラキシーの報告
3月12日に「第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」が開催され資料が公開されています。
これによりますと、副反応疑い報告制度において3月11日までに37件の「アナフィラキシー」の報告があったとのことです。
これは、同期間の接種10万人当たりでみますと20.4人に相当するものです。
10万人当たり20人のアナフィラキシーが発生したとすると、およそ5000人に1人が新型コロナワクチン接種後にアナフィラキシーを起こした計算になります。
これまでの海外の報告では、
となっており、日本の比率をそのまま当てはめると204件/100万回接種となり、アメリカやイギリスと比べて10〜20倍以上アナフィラキシーが多いことになります。
なぜ日本ではこんなにアナフィラキシーの報告が多いのでしょうか?
海外の報告とアナフィラキシーの基準が異なる
CDCは新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーの基準として、ブライトン分類やというものが用いられています(他にもNIAID/FAAN基準という基準を使っている報告もあります)。
CDCではこのブライトン分類のうち、1〜3に該当するものがアナフィラキシーとして報告されています。
パット見ても分かりにくいのですが、簡単に言いますと、ワクチン接種後に、
・皮膚症状(蕁麻疹などの発疹)
・循環器症状(血圧低下、意識障害、頻脈など)
・呼吸器症状(気道閉塞、頻呼吸など)
・消化器症状(下痢、嘔吐など)
の症状が2つ以上の臓器にまたがってみられた場合にアナフィラキシーの定義を満たす可能性が高くなります。
では日本のアナフィラキシーの報告はどうかといいますと、こうした定義を満たしているかどうかについては問われておらず、予防接種法及び医薬品医療機器等法に基づき「新型コロナワクチン接種に関連したアナフィラキシー」と判断された事例について医療機関が「副反応疑い報告」として報告を上げています。
その報告に基づいて、専門家がブライトン分類のどれに当てはまるかの判断を行っており、その結果が公開されています。
これによりますと、3月9日までに報告された17 事例を対象に、専門家が評価を実施しており、
【3月9日までに報告された17 事例の内訳】
ブライトン分類 1:2件
ブライトン分類 2:4件
ブライトン分類 3:1件
ブライトン分類 4:9件
ブライトン分類 5:1件
と判定されています。
つまり、CDCのアナフィラキシーの基準に当てはまるのは7/17件(41%)ということで、単純にアメリカやイギリスの報告と比べられるものではないことが分かります。
しかしそれを差し引いてもまだ日本でのアナフィラキシーの報告数は多いと言えます。
医療従事者ではアナフィラキシーが多い可能性
アメリカから、Mass General BrighamというNPO法人の医療従事者を対象に新型コロナワクチン接種を行った際のアナフィラキシー件数について報告されています。
これによりますと、64 900人が新型コロナワクチンを接種しており、このうち40%の人がファイザー社のワクチンを接種しています。
このうち、2%の人が何らかのアレルギー症状が出現し、また0.027%の人にアナフィラキシーがみられたとのことです。
これを100万回接種に換算すると270件となり、日本の現在の報告頻度よりも高くなります。
他にも、
などのニュースも報道されており、原因はまだ不明ですが医療従事者はそれ以外の方と比べてアナフィラキシーの頻度が高い可能性があります。
ファイザー社の新型コロナワクチンはmRNAワクチンですが、このワクチンにはPEG(ポリエチレングリコール)という成分が含まれており、このPEGがmRNAワクチンのアナフィラキシーの原因の一つと考えられています。
新型コロナのmRNAワクチンに対してアナフィラキシーを起こすのは、なぜかこれまでのところ圧倒的に女性が多いことが知られていますが、その理由としてPEGが界面活性剤、乳化剤、保湿剤などとして化粧品に含まれることが可能性として挙げられています。
PEGは下剤や整腸剤の有効成分であるほか、錠剤の表面コーティング、潤滑剤、超音波ジェル、軟膏、座薬、デポ剤、骨セメント、臓器保存剤などの安定剤としても使用されていることから、医療従事者ではよりPEGに感作されている人の割合が高い可能性はあるかもしれません。
件数だけでなく中身も吟味する必要がある
日本人では新型コロナワクチン接種後にアナフィラキシーが起こる頻度が高いのか、についてはまだ結論は出ていません。
・アナフィラキシーとして報告があがっている件数のうち、半分程度は真のアナフィラキシーではない可能性がある
・医療従事者ではアナフィラキシーの頻度が高い可能性がある
なども加味して数字を評価する必要があります。
過去にアレルギーを指摘されている人や、過去にアナフィラキシーを起こしたことがある人は特にリスクが高いことが知られており、接種に当たってはかかりつけ医などに相談することが推奨されます。
また、大事なことは、これらのアナフィラキシーと報告された方々が全員回復しているということです。
アナフィラキシーは適切に対応することで対処可能な病態ですので、その点も含めて接種するかどうか検討するようにしましょう。
参考:第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和2年度第13回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料