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“現代のスーパーファイト”は意外に静かな技術戦に? スペンス対クロフォード直前展望

杉浦大介スポーツライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

7月29日 ラスベガス T-モバイルアリーナ

世界ウェルター級4団体統一戦

WBAスーパー、WBC、IBF王者

エロール・スペンス Jr.(アメリカ/33歳/28-0, 22KOs)

12回戦

WBO王者

テレンス・クロフォード(アメリカ/35歳/39-0, 30KOs)

 今年度最大級の一戦のゴングが鳴ろうとしている。無敗の世界ウェルター級王者が激突するスペンス対クロフォードの4冠戦は、1981年に行われたシュガー・レイ・レナード(アメリカ)対トーマス・ハーンズ(アメリカ)戦に盛んに比較されているほどのスーパーファイトだ。

 この楽しみな一戦に関し、リングマガジンの元編集人(マネージング・エディター)であり、現在はスポーティングニュースで健筆を振るう英国人ライター、トム・グレイ氏に意見を求めた。

 アメリカ、英国でももちろん話題沸騰の強豪対決。リングマガジン、スポーティングニュースの両方でパウンド・フォー・パウンド・ランキング選定委員を務めるグレイ氏ももちろん今戦の実現にエキサイトしているが、その一方で、試合展開に関しては意外に冷静な見方をしているようである。

 (以下、グレイ記者の1人語り)

PFPトップ5選手同士が雌雄を決する

 スペンス対クロフォード戦が素晴らしいカードであることは言うまでもありません。クロフォードはライト級からウェルター級までの3階級を制覇し、スーパーライト級の4団体統一王者にもなった正真正銘の強豪です。スペンスはウェルター級で3人の強豪を下して統一王者になったエリート王者。欠点のない選手同士であり、パウンド・フォー・パウンドでもトップ5に入る強者の直接対決です。

 少々不満を言う部分があるとすれば、実現までに少し時間がかかりすぎたこと。スティーブン・フルトン(アメリカ)対井上尚弥(大橋)戦のように短期間でまとまるカードもあるのに対し、今戦の成立には時間がかかりました。両者が20代後半〜30代前半という年齢で、スペンスが交通事故を経験する以前の3〜4年前に挙行されていればもっとよかったのでしょう。

 ただ、“Better late than never(時間はかかってもやらないよりはいい)”という言葉があります。すべてのあとで、ここで世界ウェルター級の4つのタイトルが統一されることを私もボクシングに関わるものとして嬉しく思います。

リスクを避け合う戦いになる可能性も?

 スペンスは非常に基本がしっかりとしており、リング上では常に正しいことをやるボクサー。ウェルター級としては体格に恵まれ、馬力があります。そのサイズはクロフォード戦でもアドバンテージになり、ラウンドが進むにつれてよりパワフルになる印象もあるのも大きいのでしょう。

 一方、クロフォードより多彩なパンチが打て、カウンターの得意なスイッチヒッター。即興的な動きを得意とする万能派でもあります。もう35歳という年齢になりましたが、依然としてリング上で快適に動けています。

 この2人の対決はどんな展開になるか。様々な流れが考えられますが、私は判定決着を予想しています。最近のスペンスは判定までもつれ込む戦いが増えています。クロフォードは連続KOを続けていますが、その対戦相手の質はスペンスよりもかなり劣ります。この両者の激突は、実は戦前に期待されたほどには盛り上がらない技術戦になるのでは、と予期しているのです。

Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 両雄は飛び抜けた才能を持っているだけに、その長所を出させまいとして、リング上ではお見合いの時間が増えることは考えられます。どちらも隙を見せないことを心がけ、距離を取り合うでしょう。1つの大きなミスが命取りになるため、リスクを犯すことを嫌い合っても驚きません。

 接戦になるとは思いますが、フルトン対井上のような激しいフィニッシュを迎えるとは思いません。そして、決着がついた後も、実際にはどちらが上だったのかと話題になるような結末になるかもしれません。これほど注目される試合で、論議を呼ぶ判定が出たら最悪なので、終了後に勝敗よりもジャッジのことが話題になるような顛末にはならないことだけを心から願っています。

全世界注目のカードは興行成績にも注目

 これまで述べてきた私の見方は誤りであって欲しいですね。2人のエリート王者が互いに持ち味を出し合うバトルになり、印象的な形で決着をつけることを望んでいます。ただ、この試合はどちらかといえば、ボクシングを愛する人たちが静かに感心するような玄人好みの戦いになる気がしてならないのです。

 ここで勝敗予想をすると、私はクロフォードの判定勝ちだと見ています。シンプルに、クロフォードの方が多くの武器を持っており、より優れたボクサーだというのが私の意見。スペンスも最高級の選手であることは疑いもなく、その差はわずかではありますが、クロフォードの方が多才であり、その点が最終的に勝敗を分けると考えています。

 最後に興行面の話をしておくと、成功はするでしょうし、多額の利益を生み出すとは思います。それでも最高級の人気者対決だった4月のジャーボンテ・デービス(アメリカ)対ライアン・ガルシア(アメリカ)戦と比べると、興行成績はやや劣るでしょう。

Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 デービスは黒人層を中心に莫大な人気を集め、ガルシアはモデルのようなルックスのラテン系ボクサー。大きく異なるファン層を持つ2人の対戦は、世界的に話題を呼びました。一方、これまでに述べてきた通り、スペンス、クロフォードは特別なボクサーではありますが、どちらもまだフロイド・メイウェザー(アメリカ)のような“ブランド”ではありません。それゆえに、興行収入は記録的なものにはならないと思います。

 もっとも、この4団体統一戦が実現したことの価値はそれでも変わりません。スペンス対クロフォード戦は、私たちのようによりハードコアなボクシングファンのために用意された珠玉の一戦。直接対決は歴史的な戦いであり、そのゴングが鳴る瞬間を私も楽しみにしていますよ。 

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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