"NBAを変える男"はどこまで成長するのか 仏人記者がウェンバンヤマの2年目を分析
近未来のスーパースター候補、ビクター・ウェンバンヤマがNBAで2年目を迎えている。
2023年のドラフト1巡目全体1位指名でサンアントニオ・スパーズに入団した怪物は、1年目から平均21.4得点、10.6リバウンド、3.6ブロックと活躍して新人王とブロック王をダブル受賞。身長221cm、ウィングスパン245cmという恵まれた体躯に加え、スキル、シュート力、敏捷性、ボールハンドリングも備えた通称“ウェンビー”は期待通りの能力を誇示した。
2024~25シーズンの開幕直後はやや不安定ではあったが、すぐにペースアップ。11月9日のユタ・ジャズ戦では24得点、16リバウンド、7ブロック、同11日のサクラメント・キングス戦では34得点、14リバウンド、3ブロック、同13日のワシントン・ウィザーズ戦では50得点をマークするなど、スケールアップした姿を印象付けている。
“NBA史上最高の素材”と称される20歳はこのままどこまで伸びていくのか。フランスの老舗レキップ紙の記者として、ウェンバンヤマとスパーズを取材するマキシム・アウビン氏に意見を求めた。2017年以降、アメリカで暮らすアウビン記者は現在サンアントニオ在住。スター候補と日常的に言葉もかわすフランス人ライターの目にも、今季の成長ぶりは頼もしく映っているようだ。
以下、アウビン記者の1人語り。
よりたくましくなった怪童
ロサンゼルス・レイカーズと対戦した15日のゲームで右膝を痛め、以降は欠場しているが、その直前のビクターは爆発的な数字を残していた。ようやくリズムを掴み、9日〜15日の4試合では平均34.0得点、12.5リバウンド、3.75ブロック。数字がいいというだけではなく、プレー内容も向上していたように思う。
個人的に気に入っているのは、昨季よりも明らかに身体が強くなったこと。体重はこの1年で10パウンドも増え、それはすべて筋肉だろう。「ポストアップの練習に励んでいる」といった話もしてくれた。
NBAでも2年目ゆえに警戒され、ディフェンスもハードに当たってくるようになった。だからまだゴールから遠くでプレーすることが多く、3Pの数が目立っているが、身体が強くなるに越したことはない。
フィジカルを本格的に鍛えるようになった背景として、やはり昨夏のパリ五輪の経験が大きかったのは間違いない。緊張感に溢れ、当たりが激しいFIBAゲームでプレーし、ビクター自身も「もっと力強くならなければいけないとそこで知った」と話していた。以降はジムでのトレーニングをより一生懸命にやるようになり、今ではコンディションが整ってきた。より力強いプレーができるようになったことは、攻守両面に好影響を及ぼしていると思う。
シュートに関しては、昨季はプルアップのジャンパーは得意だったが、キャッチ&シュートはまだ苦手にしていた。それが今ではキャッチ&シュートをよく決めているし、ショットセレクションもよくなった。3Pの精度が上がれば、ゴール前でのプレーの際により大きなスペースが開ける。それを可能にするオールラウンドなプレーヤーになっているのはいい兆候に違いない。
開幕前のメディアデイの日、ビクターは私に「今年の目標はオールスターに選ばれることだ」と話してくれた。その目標が果たされるかどうか、今後のプレーを見ていかなければいけない。昨季と比べ、クリス・ポール、ハリソン・バーンズといったベテランを加えたスパーズはチームとしても向上しており、それゆえにチャンスが開ける可能性はあると思う。
外から打ち続けるスケールの大きな理由とは
ビクターはあれだけサイズに恵まれているのだから、もっとバスケットに近づいてプレーすべきだと声が出ているのは知っている。ポジション的にはセンターなのだから、ゴール周辺からの方がシュートの成功率が上がるというのも理解できる。
ただ、ビクター本人が聞いたら、「私はそんなふうにプレーするつもりはない」と言うだろう。バスケットボールを始めた5歳の頃から、彼は典型的なセンターという枠内だけではなく、自分にはそれ以上のプレーができると心に決めてやってきた。実際にそれだけの能力を示してきたし、私も彼が目指すスタイルを尊重している。グレッグ・ポポビッチHCも「ビクターはゆくゆくはセンターよりもペリミターでプレーする選手になっていくのではないか」と話していたくらいだから、自分の望む場所からシュートを打ち続ければいいと思う。
もちろん今後、より精度の高いショットを手に取るという努力は必要だろう。ショットセレクションはよくなっているという話はしたが、依然として課題の1つだとは思うし、3Pはもう少し少なめでもいいのかもしれない。
まだ痩せているから、身体を強くし続けることも必須だ。先ほども話した通り、ペリミターとゴール周辺でどちらもスペースを開き、バランスよくプレーできるようになったとき、ビクターはもっとすごい選手になれるはずだ。
バスケ一筋の若者 聡明さも魅力
ビクターの未来は明るいと思える理由の1つはその真面目さにある。夜9時にはベッドに向かい、サンアントニオでも街に繰り出そうともしない。バスケットボールに集中していて、プロフェッショナル。私たちメディアも含め、周囲の人間にもいつでもプロらしくあることを望む。あまりジョークなどは言わず、“友人を作るためにここにいるわけではない”と考えているようだ。
取材をしていて感じるのは、物静かだが、とても頭がいいということ。何かの質問に対し、かなり長い時間、真剣に考え、自分が言うべきことを探すことがある。まだ20歳というのはクレイジーであり、40、50歳の成熟した人間と話しているように感じることすらある。
英会話もとても上手で、地元記者との質疑応答をスムーズにこなしている。どうやって勉強したのかと聞くと、「英語は子供の頃から寝ながら学んできた」と答えたのが印象深い。英語の音楽を聴いたり、TVショウのビデオを見たりしたのだと言う。おかげで発音も素晴らしい。もともとNBAプレイヤーになりたくて、いずれ英語を話さなければいけないとわかっていたのだろう。
シーズン中はアメリカ人記者と話している時に知らない単語が出てくると、その意味を自ら尋ねて、覚えようとしている。だからどんどん上達している。
言葉の問題はなくとも、1年目はレフェリーとはほとんど話さず、微妙なファウルに関しても何かを言うことはなかった。ただ、今季はクリス・ポールとチームメイトになり、「ポールはレフェリーとの話し方に関してもプロフェッショナルだ」と話していたことがある。もちろんフロップをするわけではないが、昨季より賢明になり、ディフェンダーに倒された時、以前は取れなかったファウルを取れるようになってきていると思う。
ビクターは才能、サイズ、ハートの強さ、飲み込みの早さを備えており、最終的にはNBAの歴代でもトップ3、トップ5の選手になれる素材だと思っている。プレイヤーとしてどう完成されていくのかは私にもわからない。完成型が予想できないことが魅力でもあるのだろう。
これから身体ができてくれば、ボディタイプはヤニス・アデトクンボに似てくるかもしれない。ペリミターでのプレーはケビン・デュラントに共通点があるのだろうし、ビクター本人は「ニコラ・ヨキッチのようなプレイメイカーになっていきたい」とも話していた。目指すべきは、得点が取れ、パサー、リバウンダー、ブロッカーとしても優れたオールラウンダー。ヤニス、デュラント、ヨキッチが1つの身体に入ったような選手?そう、そんなふうにすべての面で支配的な新しいプレイヤー像を描いていってほしいと願っている。