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女子アイホの南北合同チーム美女監督、選手ボイコットでその座を追われていた!!

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

古今東西、代表監督というポジションは難しい。勝てば大喝采を浴びるが、逆に結果を残せなければ非難の矢面に立たれる。賞賛と非難が隣り合わせの毎日を過ごさねばならず、特に韓国の場合は私生活だけではなく、最近は代表監督の権限であるべきはずの選手選考過程にも何かと横やりが入る。

最近ではインドネシアで行なわれたジャカルタ・アジア大会で野球韓国代表を率いたソン・ドンヨル監督が厳しい立場に立たされている。

アジア大会では金メダルを獲得したが、メンバー選考において、兵役免除の恩恵を受けるための「不正請託」の疑惑をかけられ、あろうことか国会に召集されて、“国政監査”を受けたのだ。

(参考記事:野球韓国代表の“裏取引”疑惑にレベルの低すぎる質問…宣銅烈(ソン・ドンヨル)監督はつらいよ)

“国政監査”とは国会議員たちが問題の当事者たちにさまざまな質問を浴びせる“糾弾会議”のようなものだが、かつて中日ドラゴンズでも活躍し、現役時代は“野球国宝”ともされたスーパースターに対しても容赦しないのだから、韓国で代表監督を務めるのは簡単ではない。

そんな中、先週は衝撃の事実が明るみになっている。

8カ月前の平昌五輪で結成された女子アイスホッケー南北合同チームを指揮したセラ・マリー監督に対して、韓国選手たちが反発し、“内部分裂”が起こっていたことが明らかになったのだ。

25歳の若さで女子アイスホッケー韓国代表監督に就任したセラ・マリー監督は、南北合同チーム結成で一躍脚光を浴びたので、日本でも記憶している方々も多いことだろう。

(参考記事:アイスホッケー南北合同チームの美女監督セラ・マリーは何者? 29歳の外国人指揮官の正体

急きょ結成された南北合同チームで臨んだ平昌五輪では5戦全敗を喫したが、「南北の選手たちが一つのチームとなって戦えたのは、政治的な決定にも揺らがなかったマリー監督の指導があったからだ」と評価されていた。

筆者も当時、1次リーグ最終戦の日本戦などを現地で取材したが、マリー監督が南北選手たちに分け隔てなく指示を送る姿が強く印象に残っている。北朝鮮コーチングスタッフとの関係も良好のようで、即席の南北合同チームが一定の成果を収めることができたのも、マリー監督のパ―ソナリティによるところも大きかったとされた。

しかし、その裏では韓国人選手たちはマリー監督に対して強く反発していたという。

平昌五輪当時は南北融和の象徴として取り上げられ、カナダから帰化したキャロライン・パクら美女選手も話題になるなど、大きな関心を集めた女子アイスホッケー韓国代表だが、その裏で起こっていた事態には、「女子アイスホッケー集団抗命…マリー監督を追い出した」(『国際新聞』)など、韓国メディアもショックを隠せない様子だ。

韓国メディアの報道によれば、韓国代表選手たちはマリー監督の指導と選手起用に不満を抱いており、平昌五輪を控えた練習中にも、「あいつ(マリー監督)は何がしたいんだ?」と漏らす選手もいたというだから驚きだ。

そして、その不満が今年4月の世界選手権を控えて爆発。選手たちは練習をボイコットし、韓国アイスホッケー協会に対し、監督交代を求める嘆願書を突きつけたという。平昌五輪に出場した選手23人のうち21人が、この署名にサインしたらしい。

韓国アイスホッケー協会は、監督交代を要求した選手たちに対し、6カ月間の代表資格停止処分を下したが、結果的にマリー監督は韓国代表指揮官の座を降りることになった。

今年4月に契約満了を迎え、協会側は再契約を望んだが、マリー監督はこれを拒否しアメリカへ帰国。現在はアメリカの高校で監督を務めているという。

平昌五輪から8カ月。かつて熱気に包まれた会場も変わり果てた“祭りのあと”になっているようだが、“南北融和”の象徴だったはずの女子アイスホッケーの現状も空しい。

(参考記事:【画像あり】祭りの後~平昌五輪から半年。既に撤去されたオリンピックスタジアム)

女子アイスホッケー韓国代表の内部分裂劇は、4月から空席となっていた指揮官の座に京畿(キョンギ)高校などを指導したキム・サンジュン監督が10月16日に就任したことで、明らかになったわけだが、代表選手たちが監督に背き、協会に指揮官交代まで訴えたるのは韓国スポーツ界でも異例中の異例のことだ。

かれこれ20年以上韓国スポーツを追ってきたが、同じような事例は筆者の記憶にもほとんどない。

かなり古い話になってしまうが、1996年のサッカー・アジアカップで韓国がイランに2-6の大逆転負けを喫したのは、チームを率いたパク・ジョンファン監督への反発から一部選手たちが怠慢プレーに終始したためで、監督の座から引きずり下ろすためだったという“怠業論乱”説があるが、今回のように代表選手が目に見える形で監督の退陣要求をするケースは珍しいと言えるだろう。

いずれにしても、韓国で代表監督であり続けることは簡単ではない。

最近も、アジア大会で銅メダルに輝きながらふたりの息子をチームに加えたことで“血縁特恵”疑惑を指摘さたれ男子バスケットボール韓国代表のホ・ジェ監督が辞任しているし、今年2月に女子バレーボール韓国代表の指揮官に就任したチャ・ヘウォン監督も、世界バレー惨敗の責任を取ってわずか7カ月で辞任することになった。

韓国サッカー界では代表監督の座を“毒の入った聖杯”と皮肉るが、それはあらゆる種目で通用するアイロニーなのかもしれない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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