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坂田利夫さんが残したエピソードとエピソードが残した意味

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

12月29日、坂田利夫さんが老衰のため亡くなりました。

ここ数年は体調が万全ではなく、仕事をセーブされているとは聞いていました。年齢も82歳。何があってもおかしくはない。ただ、それでも、大きな衝撃を受けました。

一人の芸人さんという存在を超えて、もはや漫画のキャラクターのような域に達してらっしゃった。それが坂田さんだと思います。でも、事実として旅立たれました。

たまたま僕は坂田さんと家が近く、歩いて2~3分の距離でした。行きつけのお店もかぶっていたし、最寄りのスーパーも同じでした。

以前、たまたまスーパーでお見かけした際には、日用品売り場で“3枚790円”の真っ白なブリーフを手に取って、買うかどうか5分ほど逡巡し、結果、そっとそれを棚に戻してらっしゃいました。言いようのない寂寥感が漂う場面でもありましたが、それを上回るコミカルさと可愛げ。それが常にあふれている方でもありました。

あらゆる芸人さんからたくさんのエピソードも聞きました。

●独り身の寂しさからか、オリジナリティーあふれる防犯システムをとっている。自宅マンションに入る前に、自分の家ながら、インターフォンを鳴らす。そして、何分か待って、もし中に泥棒がいた時に、逃げるスキを与える。さらに念入りに、ドアを開けてからも「おい、中にいるのは分かっているぞ!」と部屋の中に叫ぶ。ここまでして逃げるスキを与えてから、家の中に入る。さらに、さらに、それでも泥棒と出くわしてしまった時のために、最後の手段として「分かった、お金を出すから」と泥棒をタンスの引き出しの前まで連れていき、引き出しの中に隠してあるメリケンサックで撃退するシナリオを描いている。

●何度もスケジューリングのミスを繰り返すマネージャーに対して、楽屋で言った一言。「いつまでも“ありがとさん”言うてると思うなよ」

●晩年は仲良しの大木ひびきさんや後輩のもりやすバンバンビガロさんらと近所の居酒屋さんで夕食をとることが多かったが、午後7時半集合で午後8時には食事が終わるので、呼んでもらうのはありがたいがひびきさんやバンバンさんは微妙な表情。

●素顔は二枚目でクール。街中でファンから「あ、アホの坂田や!」と声をかけられると「誰が、アホやねん!」と怒りをあらわにするが、サインを求められると、しっかり「アホの坂田」と書く。

こんな話はいくらでもあります。僕でもこんなエピソードをたくさん知っているということは、多くの芸人さんが坂田さんのエピソードを話しているということです。

エピソードの裏にあるのは濃厚な愛。エピソードの数は、坂田さんに向けられた愛の数です。

そこにいるだけで、みんなが幸せになる。そんな根っからの芸人さんがまた一人いなくなってしまいました。

ただ、芸人さんには肉体的な死と、その人とのことを知っている人が一人もいなくなった時に訪れる存在としての死。この二つの死があると言われます。

坂田さんの肉体は向こうの世界に行ってしまいましたが、存在としては、この先も元気いっぱい長生きされることと思います。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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