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9度目の凱旋門賞騎乗を目前に控えた武豊騎手の、昨年誓った今年に懸ける想い

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
凱旋門賞へ向けて29日、東京を飛び立つ直前の武豊騎手

不運続きのここ2年

 9月29日。羽田発の全日空に乗り、武豊はフランス入りをした。

 もちろん、凱旋門賞(GⅠ、フランス・パリロンシャン競馬場、芝2400メートル)に騎乗するためである。

パリ、凱旋門前のシャンゼリゼ通りを歩く武豊騎手(コロナ禍前に撮影)
パリ、凱旋門前のシャンゼリゼ通りを歩く武豊騎手(コロナ禍前に撮影)

 「先週の競馬の、パドックから馬場へ向かう地下馬道で馬を曳く厩務員さん何人もに『凱旋門賞、頑張ってください』『応援しています』と声をかけていただきました」

 そう語る日本のトップジョッキーが第100回となる記念の凱旋門賞で騎乗を予定しているのはブルーム。アイルランドの伯楽A・オブライエン調教師が管理、キーファーズの松島正昭オーナーが共同馬主となっている5歳の牡馬だ。元来、一昨年にも同馬で世界最高峰の1戦に臨む予定だったが出走態勢が整わず回避。結果的に他の陣営から声がかかり騎乗したものの、同馬とは2年越しでのタッグとなる。

 また、昨年は同じくオブライエン厩舎で松島オーナーが共有しているジャパンに騎乗予定だったが直前で取り消し。こちらは“厩舎で使用していた飼い葉に禁止薬物が混入していた可能性がある”という思いもしないアクシデントが原因。レース前日に陽性反応が出て無念の取り消しとなった。

 「現地入りして、夜、打ち合わせをしているところで連絡が入りました。まさに“寝耳に水”という感じでした」

一昨年のインターナショナルS(GⅠ)を勝ったジャパン。鞍上はR・ムーア騎手
一昨年のインターナショナルS(GⅠ)を勝ったジャパン。鞍上はR・ムーア騎手

 だから、今年の騎乗に関しては次のように語る。

 「こと凱旋門賞に関してはこのところ不運続きだったので、今年に懸ける想いは例年とは少し違います」

 フランス入りする前にはアイルランドへ寄り、オブライエン厩舎がベースを置くバリードイルでブルームの背中を確かめるプランもあった。しかし、コロナ禍による移動制限で万が一の事があると困るので諦めた。

 それにしてもこのような計画が上がるだけでもいかにワールドワイドなジョッキーであるかが分かる。今回が9回目の凱旋門賞騎乗になるわけだが、思えばそのうち半分近い4回がヨーロッパの調教馬。それもP・チャプルハイアム、A・ファーブル、J・C・ルジェに今回のA・オブライエンといずれ劣らぬ名調教師の馬ばかり。自身最高成績の3着を叩き出したサガシティもフランスが誇る大調教師であるファーブルの管理馬だった。

 このように世界が認める日本のナンバー1ジョッキーだが、忘れられない凱旋門賞となると、やはりディープインパクトで挑んだ2006年のそれが思い出される。

 「実力を考えれば勝てておかしくない馬でした。競馬の怖さを改めて感じたし、あれから15年経った今でも思い出しては『何とかならなかったかな……』と考えてしまう事があります」

ディープインパクトで挑んだ2006年の凱旋門賞
ディープインパクトで挑んだ2006年の凱旋門賞

昨年、誓った想い

 「いつかディープインパクトの子供で雪辱を果たしたい」とも語っていたが、今年はなんとそのディープインパクト産駒や孫を相手に戦う事になりそうだ。

 「ディープ産駒のスノーフォールだけでなく、日本のクロノジェネシスと(ディープインパクト産駒の)キズナの仔のディープボンドも強いし、その他にも今年はハイレベルなメンバーが揃っていますね。でも負けないように精一杯の騎乗をします」

 そう言うと、長引くコロナ禍により、日本で体をみてもらっているトレーナーを連れて行く事も出来ないため「出国前に十二分にメンテナンスをしてから臨みます」と、例年との違いを続けて語った。また、コロナという意味では、帰国後の自主検疫もあり、そのための隔離で、すぐに競馬場に戻る事は出来ない。昨年もそれを承知して海を越えたが、先述した通りおよそ考えもしない方角から飛んで来た矢に、凱旋門賞制覇という大願は粉砕された。当時、天才ジョッキーは言っていた。

 「松島オーナーには『申し訳ない事をした』と謝られたけど、オーナーの責任ではありません。近い将来、この悔しさを喜びに変えましょうと語り合いました」

 今年、早くもその願いがかなうのか、はたまた来年以降に持ち越しになるのか。10月3日、日本時間23時5分、パリでそのゲートが開く。注目しよう。

現地時間29日夕方、フランスに到着した武豊騎手
現地時間29日夕方、フランスに到着した武豊騎手

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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