鹿児島市の桜島噴火と上空の風向等の気象情報
鹿児島市の桜島で、2月5日18時56分にマグマ噴火と見られる爆発的噴火がありました。気象庁では、噴火の3分後に噴火速報を発表し、19時13分に5段階ある警戒レベルを「2(火口周辺規制)」から「3(入山規制)」に引き上げています。
噴火速報は、平成26年9月10日の御嶽山の噴火被害(死者・行方不明者57名と戦後最悪の被害)をきっかっけに、登山者等に噴火の発生を迅速(5分以内に)、端的かつ的確に伝え、命を守るための行動がとれるように発表している情報で、運用開始は昨年の8月4日からです。
火山から4キロメートルに市街地
鹿児島のシンボルである桜島は、有史以来でも多くの噴火が記録に残されており、特に、文明3年(1471年)、安永8年(1779年)、大正3年(1914年)の3回は大噴火でした。
平成18年には昭和火口と呼ばれる火口が約60年ぶりに活動を活発化させ、平成25年8月18日に大規模な噴火が発生し、噴煙は5000メートルの高さに達し、鹿児島市内には大量の火山灰が降り注ぎました。
鹿児島市の市街地は、錦江湾を挟んで桜島とわずか4キロメートルの距離あり、世界でも希な火山間近の大都市です。
そして、今回の噴火です。
火山灰と共存
火山噴火の影響は、噴火口周辺だけにとどまらず、火山灰などの噴出物は上空の風によって広範囲に広がり、さまざまな影響を与え、火山周辺の住民はその中で生活をしています。
桜島近くの住民にとって風向きの情報は重要で、昭和58年(1983年)9月1日から、電話による天気予報(177)で桜島上空の風向きに関する情報提供がはじまりました。
その後、鹿児島県内のテレビ・ラジオ放送の天気予報においても桜島上空(1500メートル)の風向きの情報が流されるようになりました。
現在では、具体的な降灰予報もあわせて放送されています。
また、スマートフォン向けの「桜島降灰速報メール」などのサービスもあります。
鹿児島県民はこの風向き等の情報を見て、洗濯物を屋内に干したり、マスクを用意して外出したりする(外出を控える)などの対策をとって生活しています。
克灰袋
桜島の上空の風は西風が多いので、一般的には、桜島の西側にある鹿児島市の市街地より東側の大隅半島のほうが降灰量が多いといえますが、桜島の周囲はとこでも風向きによって降灰があります。
鹿児島市民は、降灰があったときは、各家庭に常備してある竹ほうきと角シャベルを使って砂を集め、克灰袋(ない場合はレジ袋を二重にして使用)に12キログラム程度詰め込んで、宅地内降灰指定置場(鹿児島市内の指定置場は約6200箇所)に運んでいます。克灰袋には、20キログラム程度まで灰が入るのですが、これだけ入れると、指定置場まで運ぶのがたいへんだからです。集められた火山灰は、最終的には廃棄物処理場などで埋め立てられています。
鹿児島市では、平成3年から降灰袋を、「克灰袋」と名称変更していますが、その理由は、受身的な印象を感じさせる「降灰袋」から、降灰に強い快適な都市を目指し、積極的に降灰を克服しようという意欲を示すためとのことです。
飛行機のための火山灰情報
空中に浮遊する火山灰の中を飛行機が通過すると、機体にさまざまな損傷が生じて、事故の危険性があります。
このため,世界の9か所に航空路火山灰情報センター(VAAC)が設けられています。
カムチャツカ半島から東南アジアにかけての地域は、日本の気象庁が担当し、平成9年3月3日から,航空路火山灰情報を発表しています。この予報は、火山の場所が決まっており、火山観測から排出量が推定できるので、精度の高い情報です。
航空機は、航空路火山灰情報センターの情報をもとに、迂回するために必要な燃料を余分に積んだり、あるいは安全のために欠航したりします。また、噴火の可能性がある火山近くの空港に着陸を予定している場合は、万一に備え、風上側にある空港に緊急着陸、あるいは出発空港に引き返すために必要な燃料を余分に積んで出発しています。
平成26年の御嶽山が噴火したとき、東京航空路火山灰情報センターでは、航空機に対して9月27日11時56分に御嶽山の噴煙情報を発信しています。これを受けて航空機は安全を見込んで、飛行経路を変更しています。例えば、釧路空港から羽田空港に向かう飛行機は、普段は仙台上空から房総半島上空まで南下し、羽田空港に到着していますが、このコースは東側に流れている御嶽山の火山灰の延長線上にあります。このため、噴火後は、佐渡島上空、福井県上空を通って御嶽山の西側を回り込み、静岡県沖を通って羽田空港に着陸するという大回りの経路をとっています。
火山灰と共に生きている桜島周辺の住民は、建物や行動に工夫がありますが、何より、迅速で細かな観測情報を確認することで、柔軟な対応をし、生活への降灰影響を少なくしています。
また、航空機は火山灰の影響を少しでも受けないよう、最新の情報を入手し、対策をとっています。
火山が噴火した場合、火山に関する情報だけでなく、気象に関する情報も重要なのです。これは、火山も地震も気象も海洋も、自然現象をすべて気象庁という一つの官庁で扱っている、日本の強みです。
写真の出典:饒村曜(2015)、火山 噴火のしくみ・災害・身の守り方、成山堂書店