ノルウェーで注目の新しい音楽アワード「P3 Gull」、新人賞は期待のSigrid
ノルウェーで最も有名な権威ある音楽賞といえば、ノルウェーのグラミー賞ともいえる1973年から続く「スペッレマン」(Spellemann)。
一方で、最近はこの賞はクオリティよりも商業的な成績重視になっているという批判がある。
筆者も会場で取材したことがある。目玉アーティストたちは国外公演を優先して会場に姿を現さないなど、物足りなくなってきていると批判を受けるのは仕方がないかも、という側面があった。
ノルウェーの新しい音楽賞として注目できそうなのが、国営放送局NRKによる音楽チャンネルP3が授与するP3アワード「P3 Gull」(ペートレ・グル)だ。
2013年から始まり、ポップなどを中心に若者に人気の「今」ホットなノルウェー音楽を祝う。
ノルウェーのヘッレラン文化大臣は、2016年にP3アワードの取り組みを絶賛。「とてもクール!多様性に溢れていて、今のノルウェー音楽のクオリティの高さを上手に見せている」と話した。
今年で5回目を迎えるアワードは25日に開催された。
最も注目を浴びていたのは、「新人賞」を獲得したSigrid。
フィヨルドの観光窓口として有名な都市オーレスン出身の彼女は、「Don't Kill My Vibe」や「Plot Twist」など、国内外でヒットを飛ばす期待の新人だ。
筆者が「今一番おすすめのノルウェー人アーティストは誰か」と聞かれれば、恐らく彼女の名前を挙げる。
「今年の曲」に選ばれたのはCezinandoの「Haaper du har plass」。
「あなたに居場所がありますように」という意味のこの曲は、恐らく多くのノルウェー人が耳にした曲だろう。
テレビ界にイノベーションを起こしたという高校生ドラマ『SKAM』シーズン4で、主人公のサラが友人たちと仲直りした感動のシーンで流れた曲だ。SKAMファンにとっては、とても思い入れのある曲として語り継がれるだろう。
人口が520万人の国ノルウェーでは市場規模が限られているため、アーティストは国際的な市場をターゲットに英語歌詞で歌うことが多い。この曲はノルウェー語で歌われており、「ノルウェー語でも国内外でヒットした」ということは評価したい。
「今年のライブアーティスト」に選ばれたのはKarpe Diem。
派手ですごいコンサート演出に加えて、政治的な言動もいとわない姿勢が人気がある。与党で右翼ポピュリスト政党である進歩党を嫌っており、ミュージックビデオや歌詞で大臣らを批判する勇気がある。進歩党の政治家に「あんなのは音楽じゃない」と言われても、音楽界やファンは彼らの音楽を高く評価している。
今年のP3賞を獲得したのはラッパーのOnklPだった。他にも、Astrid Sが会場の屋根の上から登場して現場を盛り上げる。 ラッパーであるArifは曲「Alene」を会場で披露したのだが、ダンスを含めた演出に思わず見惚れてしまった。
ちなみ、最近の記事で紹介した「ポルノではない普通のセックスをノルウェー国営放送局が放送」の番組司会者リーネさんも会場にいた。Arifの曲に興奮して、突然、服を抜いで自分の胸を生披露するというサプライズもあった。番組のお陰か、気になっていたという自分のぽっちゃりした身体を好きになれたのかもしれない。
北欧音楽で、ノルウェーで今ホットなアーティストは誰?と気になったら、P3アワードでノミネートされている人たちをチェックすると、最新トレンドが把握できるだろう。
Text: Asaki Abumi