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猫の爪とぎを処分したいけど… ちょっと待って!ブランケット症候群を知っていますか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

コロナ禍で、家にいる時間が増えて断捨離をしている人が多いとか。それで、猫のものをこの機会に捨てようか、と思っていませんか? 実は、安易に処分すると、猫が病気になることもあります。今日は、「ブランケット症候群」視点から、猫の病気を考えましょう。

「ブランケット症候群」とは?

スヌーピーでおなじみの漫画「ピーナッツ」に出てくるライナスというキャラクターをご存じでしょうか。いつも青い毛布を肌身離さず持っていて、毛布がないとパニックになってしまうという男の子です。スヌーピーの漫画をよく見ていると、いつも手に毛布を持っている子がいますよね。「ライナスの毛布(ライナス症候群)」「安心毛布」ともいわれています。

ブランケット症候群の症状とは

常に特定の愛着があるものを持っていないとパニックを引き起こすある種の依存症ともいえます。それにいつも触れている、持っているとことで精神が安定し、不安を回避できるのです。

「抱っこちゃん」ともいわれて、母親がいなくてもそれがあれば、安心して寝てくれたりもします。小さな子どもは、外で緊張したとき、母親のおっぱいに触れると落ち着くとか、お気に入りのぬいぐるみがあると、泣き止むとかありますね。それがあることで、安心感を得ているのでしょう。

猫の場合のブランケット症候群とは

実話です。

猫が、食欲がなく何か元気がないという理由で、来院されました。ペットたちは、何か元気がないといわれることは、多いのです。「何か元気がない」といわれると、私たちはやはり血液検査をします。白血球の数値が上がれば、何かばい菌が入っているということがわかりますし、ヘマトクリット値が、低いと貧血を起こしているとわかります。そして、炎症マーカを調べると炎症の有無もわかります。

その猫は、血液検査をしてもどこが悪いということは、ありませんでした。それでも、食べないし、何か落ち着かない様子でした。獣医師は、ものを言ってくれない相手を診察していますが、精神的なことを診断することは、難しく、その場合は、飼い主に私生活について突っ込んだ問診をすることになるのです。

この子の原因は、爪とぎ

撮影筆者の知人 猫の爪どぎのあと
撮影筆者の知人 猫の爪どぎのあと

飼い主に以下のことを尋ねました。

・家の中で喧嘩をしていないか?

・仕事が忙しくて猫と触れあう時間が減っていないか?

・留守番の時間が長くなっていないか?

・来客が多くないか?(祖父母宅で、お孫さんが帰った後に、調子が悪くなる猫が多い。)

・フードを変えていないか?

などは全部ないということでした。

最近、猫の身に起こった変化を聞いていくと、「そう言えば、この猫の好きな爪とぎが、もうだいぶん汚くなったので処分した」ということでした。どうも原因がそれにあるようなので同じものがなかったため、似たようなものを購入してもらうと、猫は、みるみるうちに元気になりました。まさにライナスの毛布のように、その爪とぎがその子の安定剤だったのです。

ブランケット症候群の猫の場合の問題点

人のように猫は、社会に出て働くことはないので、お気に入りのものを持っていることは、問題ではないです。それを持っていることで、安心であれば、それでいいのです。ただ、爪とぎやオモチャは、使い続けると不衛生になっていきますね。

愛着のあるものを持っている猫の場合

撮影筆者の知人 お気に入りのオモチャ
撮影筆者の知人 お気に入りのオモチャ

ライナスの毛布のように、好きなものがある猫の場合は、同じものをもうひとつ買っておくことが大切です。ない場合は、同じようなものを探しておきましょう。

猫を飼っている飼い主へ

コロナ禍のいま、家の中を断捨離して清潔にしておくことは大切ですね。

猫の中には、自分の気に入ったものに愛着を持つ子もいます。それがないと不安になる子もいることを知っておいてください。飼い主から見れば、使いふるしたオモチャや爪とぎに見えるかもしれません。ただ、それが安定剤になっている子もいるので、猫のものを処分する場合は、注意してくださいね。もちろん、獣医師は精神的なサプリメントや薬も処方しますが、なるべく使わない方がいいので。猫を観察して、これは、もしかして、ライナスの毛布でないか? と考えてあげましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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