昔の野球ゲームにあった三つの「あるある」
テレビゲームを世界的に広めた任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター」の登場以前から存在した野球ゲーム。それだけ野球が人気で愛されてきた証(あかし)でもあります。そこで野球ゲームを次々と手に取って遊び倒した視点から、昔の野球ゲームにあった三つの悩み、「あるある」を挙げます。
◇外野の広さと塁間のバランス
歴代の野球ゲームが最も苦しんだのは、塁間と外野の広さ、送球スピードのバランスでしょう。実際のスタジアムに行くと、外野はかなり広いのですね。ところが、そのままゲームに反映させると外野が広すぎてしまうので、塩梅が難しいのです。
それが如実に分かるのが、ランナー二塁のときに、シングルヒットでランナーがホームに戻れるかです。この条件を満たす野球ゲームは、今でこそ当たり前ですが、なかなか出てきませんでした。
それ以前に、ライトゴロになるケースが続出したぐらいです。子供の野球であれば大飛球が飛ばないため、外野は前に守りますからライトゴロは出て当然ですが、プロ野球でライトゴロが続出すると「違う」となりますよね。外野を広くしすぎると守りづらくなりますし、広さに対応するため守備側のスピードを上げると、長打が出づらくなります。
もっと言えば、打ってから一塁に到達するまでの到達時間、打者の走力と塁間の距離も重要です。内野安打が連発すると興ざめしますし、かといって内野ゴロが簡単にアウトになるようだとそれも困ります。
単純に見えて、本物の野球に近づけるための、ゲーム内の調整は相当に苦労したと思うのです。
◇ゲーム向きの選手
野球ゲームに選手のデータが入るようになり、面白さは倍増しました。一方で矛盾も生じました。ゲーム向きの選手がいたためです。現実で活躍したスター選手が、ゲーム内ではイマイチ……ということも起こりました。逆にコントロールに難のある投手、横の変化球が得意な投手、守備に難があっても強打の打者が活躍できたのです。
実際の野球で、投手にまず求められるのは、コントロールです。ストライクが入らず、四球を連発したら塁がどんどん埋まるからです。特にプロのストライクゾーンは狭く、ボール1個外れてもダメという厳しさがあります。ところが昔の野球ゲームは、コントロールはプレーヤーの技術でカバーできるので、制球力のない投手が(なぜか)コースいっぱいに投げ分けられ、活躍できたのです。
打者も同じです。現実の野球では、強打の選手であっても、守備が下手だと起用法に限界があり、レギュラーとして活躍できないケースもあります。ですが昔の野球ゲームだと、守備力のデータがなかったので、本来守れないポジションに配置したり、守備のデータがあってもリスクが低く、打力徹底重視で問題がなかったのです。
今の野球ゲームは、肩や捕球能力もデータになり、守れるポジションも決められていて、緻密(ちみつ)です。守備に難のある選手を起用すると、きっちり足を引っ張ってくれます(笑い)。逆に守備の得意な選手は守備範囲が広く、実に頼れます。
投手も同じですね。コントロールが悪いと思ったところに投げられないようになっています。カウントを苦しくして、甘く入った球を打たれてしまいます。
逆にコントロールが良い投手は、際どいコースに投げやすいわけです。ただし投手としての武器がないと、打たれやすいのは言うまでもありません。
◇選手データがすぐ古くなる
昔の野球ゲームは、ネットのない時代は、バージョンアップなんて存在しません。選手データがすぐ古くなるのです。
昔の野球ゲームは、実際のペナントレースが終わると、それをゲーム内のデータに反映させて、年末商戦に合わせて売り出していました。ところがシーズンオフに超大型トレードがあったり、期待のゴールデンルーキーが入団しても、ゲームには登場しません。プロ野球で選手の入れ替えは宿命ですが、ゲームがついていけなかったのです。
もちろん、選手データを改変したり、新規作成できるゲームもあることはありました。しかし、それは圧倒的少数派でしたし、できても何かの制限がかかってました。
選手データを自由に変えられると、「新作ゲームを買ってもらえなくなる」という可能性があるのも確かです。その危機感は理解できますが、顧客(ユーザー)の希望に応えたとは、言い難いところです。
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ゲームの進化を考えるとき、野球などのスポーツゲームは、そのものが見本になるため比較がしやすい面があります。ゲームだと見た目(グラフィック)ばかりに目がいきがちですが、ゲームとしての質も驚くほどアップしたと思うのです。今の野球ゲームは、実際の野球との齟齬(そご)や矛盾を指摘するほうが難しいかもしれません。その結果、日本野球機構(NPB)が共催したeスポーツの大会が開かれているとも言えます。