「スゴい昆虫」に出会う夏
4億8000万年前まで祖先をたどることのできる昆虫は、地球上の生物種のうち半数以上を占める。大型のものから微小なもの、美しいものから地味で目立たないものまで、昆虫の種類は100万種ともいわれ、小さな身体に秘められた能力や生態に興味は尽きない。
多様性が魅力の昆虫
夏は昆虫たちの天下だ。カブトムシ、クワガタ、セミ、トンボ、ホタルなどなど、いっせいに飛び出してきて我が世を謳歌している。
そんな昆虫の夏を満喫するため、上野の国立科学博物館で開催中の特別展「昆虫」へ行ってきた。
昆虫の着ぐるみで登場し、テレビ(Eテレ)の快演ぶりが話題の俳優・香川照之がオフィシャル・サポーターをし、子どもも大人も昆虫好きにはたまらない内容で、夏休みの課題のヒントにするのもよし酒席での話題にするのもよしという刺激的なイベントになっている。
この特別展「昆虫」で監修を務め、著書『昆虫はすごい』(光文社新書)などがある丸山宗利・九州大学総合研究博物館助教に話をうかがった。
──子どもには夏休みの課題のヒントになるのでは。
丸山「そうですね、昆虫は多様性に富んだ生きものなので、興味の入り口もたくさんあります。大型でかっこいい昆虫、美しい昆虫も目立ちますが、100万種といわれる昆虫の中で5mm以下のものが90%以上を占めるので、そうした小さな昆虫に目を向けてみるのもおもしろいかもしれません」
──特別展「昆虫」の体験はどう生きるか。
丸山「昆虫に興味をもってもらえたら、実際に自分で昆虫を観察したり、採集して飼育したり、昆虫標本を作ってみてもいいでしょう。最近の子どもは昆虫の標本を作らないといわれていますが、今回の特別展では採集や標本作りの方法なども解説しているので参考にしてもらえたらうれしいです」
20年ほど前に考案された「ノムラホイホイ」という昆虫トラップ。どんな昆虫がかかっているか楽しみになる仕掛けだ。写真:撮影筆者
ゴキブリも進化する
──昆虫といえば、ゴキブリを嫌う人も多いが。
丸山「確かにゴキブリは嫌われ者で、ゴキブリ用の殺虫剤や駆除用品も多く出ています。しかし、ごきぶりホイホイなどの誘引剤に引っかからないゴキブリも出現しているように、ゴキブリのほうも進化し、やられっ放しではないのです」
──そのゴキブリのコーナーもある。
丸山「ゴキブリというのは興味深い昆虫で、日本の固有種であるオオゴキブリとモリチャバネゴキブリは森林に生息し、家の中へ入ってくることはめったにありません。我々の住居で共生しているゴキブリは、クロゴキブリにせよチャバネゴキブリにせよ、中国南部やアフリカなどからやってきた外来種なんです。なぜ、そうした生態になっているのか、興味を持ってゴキブリを観察するとおもしろいことがわかってくるかもしれません」
ベネズエラにいるヒカリモンゴキブリ。生きている。写真:撮影筆者
この特別展の見どころは、入ってすぐに驚かされる高さ2メートルの巨大模型や、数万点の標本がズラりと並ぶ「昆虫回廊」、日本で初公開となる絶滅目(もく)の昆虫、昆虫採集と標本作りの極意、1種に1点しか存在しないホロタイプ標本、CGを使った微小昆虫の3D展示や体感型展示、そしてマダガスカル島で発見された新種となるかもしれないハチ(セイボウ、青蜂)などだ。
「モスラかよ」と思うような巨大なチョウの展示。ほかにセミ、カなどの巨大模型が出迎える。写真:撮影筆者
そして、昆虫好き俳優として有名な香川照之がオフィシャル・サポーター「昆活マイスター」(音声ガイド)として熱く盛り上げる。身近なゴキブリから奇妙な姿形、匂い、人類との関係、圧巻の昆虫標本など、昆虫好きはもちろん、そうではない人も楽しめる充実の内容だ。
10万点を超えるチョウの標本で有名な五十嵐邁(すぐる、1924〜2008)コレクションの一部。写真:撮影筆者
上野へ足を向け、昆虫の魅力や謎から疑問を抱き、自分なりの問題としていろいろな角度から昆虫を考えてみるのも楽しいだろう。リサーチ・クエスチョンから仮説を立て、それを証明するための方法を考えて実行するというのは、人文科学や自然科学を問わず、基本的なアプローチだ。
先日、長崎県立長崎西高の生物部の女生徒らが、新種のアメンボを発見して話題になったが、彼女たちは従来の常識を疑い、それをどうやったら証明できるか工夫と努力を重ね、観察と研究の結果、大発見に結びついた。この「昆虫」展を体験した子どもから、次世代の昆虫博士が生まれるかもしれない。