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がんの「ステージ4」とはどういう意味か? 元Jリーガー柳想鉄氏が膵臓がんを公表

山本健人消化器外科専門医
(写真:アフロ)

元Jリーガーの柳想鉄(ユ・サンチョル)氏が、ステージ4の膵臓がんを患っていることを公表した、との報道がありました。

ニュースのタイトルは、

「元横浜・柳想鉄氏、ステージ4のすい臓がん告白 03年完全優勝メンバー」

となっています。

一般的には、ステージ4の膵臓がんの場合は手術の適応外で、抗がん剤治療(化学療法)が主体となります(もちろん例外もありますが)。

ところで、「ステージ4」とはどういう意味でしょうか?

「ステージ4」という言葉に、「最も進行している」「治らない状態だ」といった漠然としたイメージを持つ方は多いのではないでしょうか?

「ステージ3の〇〇がん」

と書かれた場合と比較するとどうでしょう?

どんな風に印象が変わりますか?

私たち医師にとっては、単に「ステージ4」というだけでは、そのがんの状態についての情報はほとんど得られていないと言っても過言ではありません。

同じがんでも、「ステージ4」にはかなり大きな幅があるからです

しかし、著名人に関する報道があった際、「ステージ4」という状態を一つの固定されたイメージで捉え、詳細が分からないにもかかわらず憶測が飛び交うことはよくあります。

限られた情報から病状を「解釈」してしまい、不安になってしまう人もいるのです

ステージ4には幅がある

ステージ4の膵臓がんとは、「膵臓から離れた臓器に転移がある状態」のことを指します。

この転移の仕方を「遠隔転移」と呼びます。

この定義は、膵臓がんだけでなく消化器がん全般で同じですので、胃がんや大腸がん、食道がんや肝臓がんなどにも当てはまります(消化器以外のがんでも当てはまるものは多くあります)。

しかし、単に「ステージ4」といっても、非常に広い範囲の病状を含むことに注意が必要です。

例えば、膵臓がんが肝臓に転移し、肝臓に米粒ほどの転移が一箇所あっても「ステージ4」ですし、全身の臓器に数えきれないほどがんが広がっていても「ステージ4」です。

これだけ病状が異なると、当然ながら、対処法や生きられる期間は異なってきます。

では具体的に、どんな病状がステージ4に含まれるのでしょうか?

ステージ4に含まれるパターン

まず、がんが最初にできた部分を「原発巣(げんぱつそう)」、他の臓器に転移してできた病変を「転移巣(てんいそう)」と呼びます。

がんは、原発巣が大きくなって周囲の臓器に浸潤する(食い込んでいく)だけでなく、がん細胞が原発巣周囲の細い血管やリンパ管に入り込む形で進行します。

血管やリンパ管は全身に張り巡らされた線路のようなものです。

ここにがん細胞が入り込むとどうなるでしょうか?

血流やリンパ流に乗って他の臓器に行き着いてしまい、そこでがんが成長して転移巣を作ってしまう、というわけです。

膵臓がんは、血流の流れに乗って肝臓や肺に転移することが多いほか、リンパの流れに乗って大動脈(体の中心を通る最も太い動脈)周囲のリンパ節に転移することもあります。

また、原発巣が大きくなった結果、がん細胞が膵臓の表面からこぼれ落ち、お腹の中(腹腔内)に小さながんの粒が散らばってしまうパターンもあります。

これを「腹膜播種(はしゅ)」や「腹膜転移」と呼びます。

また、転移した先での病変の広がり方や、転移巣の個数もさまざまです。

同じ「遠隔転移」にも多種多様なパターンがあるのです。

がんの種類によっても異なる

同じ「ステージ4」でも、がん種によって治療は全く異なります

化学療法を行うとしても、その種類や選択肢の数は異なります。

またがん種によっては、手術を行うケースもあります。

例えば、肝臓に転移のあるステージ4の大腸がんでは、切除が可能な場合は手術を行うのが標準的な治療です(*1)。

つまり、原発巣も転移巣も、手術で取ってしまうということです。

これにより、手術後の5年生存率は35~58%と、比較的良い治療成績が報告されています(*1)。

また、胃がんの肝転移についても、まだ根拠は十分ではないものの、条件を満たせば原発巣と転移巣を切除する方法が有効である、とする報告が複数あります(*2,3)。(※相反する報告もあるため「根拠は十分ではない」と記載しています)

こうした治療成績の向上には、手術の技術の進歩だけでなく、化学療法の進歩も大きな役割を果たしています。

術前に化学療法を行うことで腫瘍を小さくしたり、目に見えないレベルで転移したがんをやっつけてしまえるようになったからこそ、手術の適応範囲が広がってきたと言えます。

以上のことから、「ステージ4」を一元的に捉えて治療法や予後を語るのは、適切ではありません。

やはり症例ごとに病状は多種多様である、ということは、ご理解いただきたいと思います。

注1)

ステージ4のがんで手術の適応外とされる例はまだ多くありますが、その理由については以下の記事をご参照ください。

「ステージ4の胃がんや大腸がんはなぜ手術できないのか?」

注2)

以前の我が国の規約では、膵臓がんに関しては遠隔転移のない症例でも一部ステージ4に含まれていました。過去にステージ4と診断されたことのある方は、現在とは違った病状であった可能性があります。膵臓がんに限らずステージ分類は時代とともに変化しますので、その点はご注意ください。

(*1)大腸癌治療ガイドライン2019年版

(*2) Br J Surg. 2015;102:102-7

(*3) Gastric Cancer. 2016;19:968-76

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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