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臨時国会閉幕 どんな法案が成立した?生活と関心の高そうなテーマを中心に解説

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
何が決まったのか(写真:つのだよしお/アフロ)

 臨時国会が今日閉幕します。約13兆円という巨額な補正予算は物価高に苦しむ国民を救うという触れ込みだったのがフタを開けてみれば万博関連が800億円以上計上されるなど疑問符もつく内容でした。

 他に「生活と関心の高いテーマ」といえば旧統一教会の被害者救済特例法や俗称「首相や閣僚らの給与アップ法」、大麻の「使用」も禁止する法改正あたり。関心の高さでは疑問符も付く改正国立大学法人法も合わせてテンポよく略述してみました。

ガソリン+電気+ガス補助と7万円の給付金などを合わせても2兆円規模

 臨時国会最大の目玉が13.2兆円と巨額な補正予算の成立。生活に関わりそうなものを抜き出してみます。

 開会に先立って首相は物価高に苦しむ国民が納めた税収の上振れ分を「還元する」などの経済対策をまとめて予算化したのです。

 まずは原油価格高騰と円安が相まって上昇していたガソリン補助金制度の延長。22年1月から始まり今年9月で終了予定であったのを末期に縮小したら再上昇。補正で翌年4月まで延長する予算措置を講じました。

 同じく今年1月スタートの電気代と都市ガス代の補助も4月まで延長。ガソリン+電気+ガスの合計で約8000億円を盛り込んだのです。

 お金を国民に「還元」する政策だと住民税非課税1世帯あたり7万円の給付金が配られる運びとなりました。規模は1兆592億円

 すったもんだした所得税を1人4万円下げる定額減税は法改正もともなうなどの理由で今国会では扱わず。来年の通常国会で通して6月にも実施予定です。

 その他「年収の壁」対応経費、介護職員の処遇改善などもろもろ加えて物価高対策といえそうなのは計2兆円規模。つまり13分の2強しかない。となると残り13分の11弱は何に支出するのか気になります。

半導体と国土強靱化が緊要な支出か

 もっとも大きいのは「基金」への拠出4.3兆円。多くを占めるのが経済産業省所管の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発基金」「特定半導体基金」「安定供給確保支援基金」。何だかわかりますか? 基本的に半導体の生産や開発を支援する組織です。

 半導体は産業のコメと呼ばれ、挽回をはかりたい心意気はわかるとはいえ、補正予算は財政法で「特に緊要となつた経費の支出」と定められています。本来は当初予算で検討すべき事項でしょう。

 「防災・減災、国土強靱化対策」のための公共事業費約2.2兆円も同じ。そりゃあまあ明日にでも巨大地震が起きかねないから緊要だと言わば言えようも国民は納得していますかね。

万博関連予算809億円は2350億円と別枠で全額国民負担

 大阪・関西万博の関連予算809億円計上も「生活に影響しない」側で要注目。このお金は例の「当初から約2倍に膨れ上がった」と非難ごうごうであった建設費2350億円とは別枠。しかも国家予算だから全額国民負担です。

 他にもリスキリングを通じたキャリアアップ支援97億円とか子どもの芸術鑑賞体験支援10億円とか。原資は我々が納める税金か将来返済しなければならない国債(借金)。その意味では十分、生活に影響するといえます。

旧統一教会の財産保全議論

 関心の高さで多分もっとも大きいのが旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の被害者救済特例法ではないでしょうか。

 国は教団の解散命令を東京地方裁判所へ請求しました。司法で確定すると裁判所が選んだ「清算人」(主に弁護士)が法人財産の管理や弁済を担うのです。既に民事訴訟で損害賠償責任を認めた判決も多く下っているなか、被害者などは請求から確定までの間に教団が資産をどこかへ移したり隠す恐れがあると心配して、防ぐために裁判所などに財産保全を命じる権限を与える法律が必要と訴えてきました。

自公の姿勢が消極的なのか信教の自由へ抵触するのか

 成立した法律は、この点(財産保全)において「3年後をめどにあり方を含めて検討する」という付則への明記に止まりました。

 この法案は議員立法で与党(自公)中心でまとめ、財産保全は立憲民主党と日本維新の会が要求。修正してこの形でまとまったのです。

 消極的ともいえる自公の姿勢に「自民と教団がまだ関係を持っている証左だ」「公明の最大支持母体である宗教法人創価学会への配慮だ」という批判も。対して提出側は保全を入れると憲法が保障する信教の自由へ抵触する恐れがあると説明しています。

 ただ立維は当初、措置法案で保全の道を開こうとしました。措置法はある程度範囲を絞った処分的法律にもなり、それなりに説得力のある方法であったのです。「3年後」というあいまい決着が悪用されないよう監視が必要となります。

国民感情とのずれを露呈した「首相や閣僚らの給与アップ法」

 俗称「首相や閣僚らの給与アップ法」も成立。首相の年収46万円増、国務大臣が同じく32万円増。立維のほか日本共産党やれいわ新選組などが「このご時世にとんでもない」と反対した法案です。

 少々ややこしい背景があるので説明します。首相や大臣は国家公務員特別職「○○省」などで働く役人などが一般職。公務員は労働三権の一部ないし全部が認められません。その代わりに国家公務員一般職に関しては人事院という役所が給与アップなどを内閣に勧告する仕組みとなっています。内閣が受け入れたら国会に「一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法案」を提出して諾否を求めるのです。今国会でも出されて成立しました。

 今まで慣例として一般職が上がれば特別職も準じていたから「特別職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律案」も提出されて可決したというのが「給与アップ法」。なお特別職の大半を占める自衛隊の給与は別の法律で定められていて関係しません。また国会議員の給与(歳費)も別です。

 首相としてはいつも通りの話なのに……というのが本心でしょう。国民感情とのずれを露呈した出来事ともいえます。

大麻の使用禁止は医薬品使用解禁に合わせた措置

 自分には関係ないけど関心は大いにわきそうなのが大麻の「使用」も禁止する法成立。これまで禁止であった「所持」および「栽培」に「使用」も加わったのです。

 ただ今国会の大麻取締法等改正法の主旨は大麻から作られた医薬品の使用を認めようというもの。そのために栽培者免許の範囲を「医療」にまで広げました。

 「使用」禁止は、この緩和策で不安視される乱用の拡大を抑えるために発想されたのです。

 折も折、日本大学アメリカンフットボール部員数人が大麻を所持した疑いなどで摘発されて大きな話題となりました。こうした若者の乱用が近年つとに目立っていて「吸うだけでもアウト」となれば一定の抑止効果が期待できるかもしれない法改正です。

「運営方針会議」を置く改正国立大学法人法

 改正国立大学法人法は、大規模な国立大学(東京大学、京都大学、東北大学、大阪大学、東海国立大学機構<名古屋大学と岐阜大学>の5法人を想定)に「運営方針会議」を置くというもの。

 国立大学の大半のトップは「学長」。大学の経営と労働(教育や研究)双方を束ねています。私立大学が経営トップに学校法人理事長を置いて分離しているのと大きく異なる形態です。

 「運営方針会議」はいわば国立大学版の理事会で経営にあたる計画や予算などを決めて、沿っていないとなれば学長へ改善を要求したり、場合によっては学長の任免にも発言権を得る組織といえます。

 強い反発が起きている理由は「運営方針会議」のメンバーに国(文部科学大臣)が承認する学外有識者が入るという点。国の意向に左右されて学問の自由や大学の自治が侵されると主に教職員が批判の声をあげているのです。

 確かにド素人の外部者が口を挟んで研究に支障を来したり、文科省回りの新たな天下りの巣窟になったりしたら国益を害します。

ヨソ者は来るな、身内で固めたいでは……

 でも今回の「生活と関心の高いテーマ」かというと疑問。この仕組みの背景は約10兆円の「大学ファンド」を用意して世界レベルの研究を促進しようという「国際卓越研究大学」制度です。認定要件に重要な決定機関を学外者を多数とする合議体設置が決められていて、今回の5法人は皆申請しています。

 減少傾向とはいえ国立大学は私立にはない巨額の運営費交付金が投じられていて、さらに自ら10兆円の運用益を狙いにいくのであれば約束通りの合議体を法的に位置づけられても仕方ないのではないかと。申請を引っ込めればいいだけとも。

 現状の国立大学の統治システムがいいとも思えません。トップの学長を決める選考会議委員を実質的に学長が選んでいるというからです。ヨソ者は来るな、身内で固めたいというのを「学問の自由」とは呼びますまい。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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