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フルトンにフェザー級制覇のチャンス到来。しかしフィゲロアとの再戦は危険がいっぱい

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上尚弥vs.スティーブン・フルトン(写真:松尾/アフロスポーツ)

3年ぶりのリマッチ

 WBCは最新ランキングでフェザー級暫定王者だったブランドン・フィゲロア(米)を正規王者に昇格させ、正規王者だったレイ・バルガス(メキシコ)を休養王者へシフトした。元WBCスーパーバンタム級王者のバルガス(33歳)はフェザー級王座獲得後、不活動期間が長く、今年3月に行った現WBAフェザー級王者ニック・ボール(英)との防衛戦では2度ダウンを奪われたのにもかかわらず幸運なドローでベルトを死守と、周囲から「王者に君臨するのが不思議」と思われていた。だから今回のWBCの処置はファンやメディアから好意的に受け取られているようだ。

 さて、そのフィゲロア(25勝19KO1敗1分=27歳)は次戦で元WBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者スティーブン・フルトン(米)と対戦する。スケジュールは12月14日、米テキサス州ヒューストンのトヨタ・センター。当初はフィゲロアの暫定王座が争われる運びだったが、彼が正規王者に格上げされたことで試合のステータスが一気に上がった。昨年7月、井上尚弥(大橋)に8回TKO負けで上記2団体の世界王座を失ったフルトン(22勝8KO1敗=30歳)に2階級制覇のチャンスが訪れた。

 フィゲロアとフルトンは2021年11月ラスベガスで対戦。フィゲロア(WBC)、フルトン(WBO)のスーパーバンタム級2団体統一戦として行われた。試合は年間最高試合候補に挙がるほどの激闘になり、フルトンが116-112×2、114-114の2-0判定勝ちで2本のベルトを巻いた。しかし終始アグレッシブな戦法で対処し、手数とクリーンヒットでも勝ったのはフィゲロアに見えた。試合後フィゲロアは断固、勝ちを主張。その後、体重維持の問題もあってフェザー級進出を決意したフィゲロアは翌22年7月、スーパーバンタム級ランカーだったカルロス・カストロ(米)に6回TKO勝ち。23年3月にはバルガスに王座を明け渡したマーク・マグサヨ(フィリピン)とWBCフェザー級暫定王座を争い3-0判定勝ち。そして今年5月、元WBOスーパーバンタム級王者ジェシー・マグダレノ(米)に9回KO勝ちで防衛を果たした。

フルトンvs.フィゲロア第1戦

フルトンは打たれ弱くなった

 痩身のスイッチヒッター、フィゲロアのキャリアはフルトン戦後「年一」(1年で1試合)となり、停滞気味。だがこれは本人の責任ではなくプロモーターが思惑通りに試合を提供できなかったせいだと思われる。特筆すべきはフルトンが9月、井上戦から14ヵ月ぶりに復帰し、ダウンを喫したものの最後は2-1判定勝ちで寄り切った相手カストロをフィゲロアがストップしていることだ。アグレッシブさに加えてパワーもフィゲロアは持ち合わせている。

 一部でフルトンは井上にTKO負けしたことで打たれ弱くなったと指摘される。それがカストロ戦のダウンを誘発したとも推測される。負けたカストロ(すでにフェザー級でWBC5位を占めていた)がソーシャルメディアで不満をブチまけたように、フルトンの勝利は薄氷を踏むものだった。そのカストロを倒しているフィゲロアは正規王者に就いたこともあり、モチベーションは自ずと高揚している。さらに年齢、勢いはフィゲロアに分がある。フルトンが井上戦から復帰2戦目で対戦するにはリスクが大きすぎる気がする。

フルトンvs.カストロ

俺は初戦の時より強い

 他方でWBAフェザー級2位にランクされるフルトンは同級王者ボール挑戦の可能性もある。今月5日に地元リバプールで初防衛に成功したばかりのボールだけに即挑戦は難しいだろうが1試合はさんで英国人王者に挑んでもいいのではないか。わざわざ難敵フィゲロアに今、挑戦しなくてもいいのではないかともいわれる。しかしそれは自信家のフルトンのプライドが許さないのだろう。米国の映像メディア「FightHype.com」のインタビューで再戦のベストパフォーマンスを約束している。

 「第1戦で行ったことよりもベターなことができると私は確信している。122ポンド(スーパーバンタム級)でリングに上がるには私は大きくなり過ぎた。第1戦の時もウエートはきつかったけど私は(スーパーバンタム級に)とどまり、彼を負かした。今、126ポンド(フェザー級)で彼とまた戦う。2階級制覇のチャンスだ。次に3階級制覇も狙いたい」

 久しぶりに威勢のいい発言が飛び出したフルトンは「彼は(第1戦で)勝ったと思っている。彼のファミリーもそう言っている。それはそれで構わない。よりクリーンなパンチを決めたのは私の方だ。我々はまた対戦する。それ以外のことは聞きたくない」と続ける。

 フィゲロア戦はPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)のイベントとしてプライムビデオが米国にPPV配信する。井上戦でベルトを失ったものの高額ファイトマネーを得たフルトン。その額は約3億円に達したとも噂される。今回それを上回る金額が提示されたとは思えないが、彼のモチベーションをかき立てる額であることは確かだろう。軽量級の選手には比較的冷淡な米国業界でPBCとプライムビデオがフルトンを厚遇しているのは間違いない。その期待に応えようと“クールボーイ・ステフ”は今、懸命にジムワークに励む。

負ければキャリア終焉の危機

 カストロ戦の内容から「フルトンはフェザー級では通用しないのではないか」という意見も聞かれる。12月、もしフィゲロアに惨敗するような結果になれば、キャリアを閉じる危機に直面するかもしれない。それでも覚醒した元2団体統一王者がフィゲロアのリベンジを阻止して2階級制覇を達成する結末も想像できる。それだけのポテンシャルを持っている選手であることを証明してもらいたい。

 なお、フィゲロアvs.フルトンのメインイベントではWBA世界ライト級王者“タンク”ことジェルボンテ・デイビス(米)がWBAスーパーフェザー級王者ラモント・ローチ(米)の挑戦を受ける。以前の記事で、このイベントは12月21日、ワシントンDCで開催されると記したが1週間早まり、場所もヒューストンになったことを訂正しておく。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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