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トランプ氏は総合格闘技UFCと親密なのになぜボクシングに冷たくなったのか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
若き日のトランプ氏(左端)タイソンーホームズの会見から(写真:WBC)

元ボクシング・プロモーターの顔

 ニューヨークのマジソンスクエアガーデン(MSG)で現地時間16日に開催された総合格闘技UFC「UFC309」に超VIPが降臨した。ドナルド・トランプ次期米大統領が交流が深い実業家イーロン・マスク氏とダナ・ホワイトUFC代表とともに来場。突然のサプライズにマンハッタンにある格闘技の殿堂MSGは大興奮に包まれた。

 以前からホワイト氏と親密な関係にあるトランプ氏はこれまでもUFC((アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ))をリングサイドで観戦する姿が見られた。米国メディアによるとUFCの広報だったスティーブン・チャン氏を陣営に加入させ、大統領選挙に当選後、政権の広報部長に任命したという。UFC、ホワイト氏とのつながりを象徴する話だ。

 今でこそUFCにゾッコンなトランプ氏だが、もともとは列記としたプロボクシングの著名プロモーターだった。1980年代から90年代初めのことで場所は「東海岸のラスベガス」と呼ばれた米ニュージャージー州アトランティックシティ。不動産ビジネスで地位を築いたトランプ氏は自身の名前を冠した「トランプ・プラザ・ホテル&カジノ」、「コンベンションホール」などでボクシングイベントを定期的に開催。88年1月のマイク・タイソンvs.ラリー・ホームズ、同年6月に行われたタイソンvs.マイケル・スピンクス、91年4月のイバンダー・ホリフィールドvs.ジョージ・フォアマン、これらの世界ヘビー級タイトルマッチも同氏が手がけたイベントだった。

世界戦15回戦制復活を提唱

 一時期ボクシング界を牛耳ったトランプ氏は昔の誼みでボクシング界と旧交を暖めると思いきや、実際は違った。同じ格闘技でも米国で台頭著しいUFCに力添えする立場に回っている。それはどうしてなのか?

 大統領選挙で民主党のカマラ・ハリス氏を破って当選する前の10月下旬、トランプ氏は米国のポッドキャストの人気司会者で総合格闘技の解説者ジョー・ローガン氏の番組に出演。さまざまなテーマに触れる中、スポーツに関しても言及。造詣が深い格闘技とボクシングに自論を展開した。それはボクシング関係者にとって耳が痛いものだった。

 「現在、UFCと比べてボクシングの重要性は相当、低下している」

 ボクシングとUFCは地位が逆転し、その差は開く一方だと言いたげだ。そしてボクシングは現在の世界タイトルマッチ12回戦制から以前の15回戦制に戻すべきだと提唱している。

 ラウンド数が短くなったのは1982年にラスベガスで行われたWBA世界ライト級タイトルマッチで王者レイ・マンシーニ(米)に14ラウンドKO負けした挑戦者の金得九(韓国)がリング禍で死亡したことがきっかけとなった。まずWBCが12回戦に短縮し、その後WBA、IBFが追従した。これは医学的な観点から試合終盤になると疲労やダメージが影響しボクサーの抵抗力が弱まると分析されたためだった。

 トランプ氏は「私はボクサーではないが、15ラウンド制こそボクシングのエンターテインメント性が味わえると思う。歴史的に見ても終盤に見どころがあったことで好ファイト、激闘になった試合が多い。あの時代はすごかった」と主張する。

 世界戦が12回戦に移行して40年以上経過し、安全性の問題からも再び15回戦制が復活するとは考えられないが、同氏はボクシングの醍醐味を追求するならば、12回戦では物足りないと思っているらしい。

UFCの方が安全

 さらにトランプ氏は「コンバット・スポーツ(格闘技)として見逃せない事実がある」と前置きして安全性の具体例を説明する。

 「一見、UFCの方がボクシングよりもずっと暴力的だと思われるけど、これまでUFCには死亡した選手がいない。反対にボクシングは多くの選手が犠牲になっている。ダナ・ホワイトは私に『(ボクシングは)顔面にパンチをたくさん浴びるせいだ』と言っている」

 このコメントは15回戦制を懐古する意見と矛盾するものだが、トランプ氏が指摘するように、よりバイオレンスの匂いが感じられるUFCよりも歴史が長いボクシングの方が過酷なスポーツであるというのは核心をついていると思う。

UFC代表ダナ・ホワイト氏と(写真:Marca.com)
UFC代表ダナ・ホワイト氏と(写真:Marca.com)

 大統領として16年から20年までに続き2期目となるトランプ氏は根っからの商売人、ビジネスマンの素顔を持つ。今のボクシングを冷遇するのは、おそらく興行的に儲かる、儲からないが判断基準になっているのだろう。自身が関わりを持ったタイソンのようなカリスマが不在の現状を嘆いているようにも想像できる。もちろん大統領に就いた人物がもう一度ボクシング興行に携わることはない。それでもトランプ氏がUFCに肩入れする姿を見ると、過去を知る者として一抹の寂しさを禁じ得ない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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