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長身王者エスピノサと“電車”ラミレスの勝者はどれだけ井上尚弥戦に近づくのか

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
1年前の第1戦(写真:Mikey Williams / Top Rank)

12月7日フェニックス

 WBO世界フェザー級王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)vs.挑戦者ロベイシー・ラミレス(キューバ)の再戦が12月7日、米国アリゾナ州フェニックスのフットプリント・センターで開催される。両者は昨年12月9日、米国フロリダ州で対戦。チャンピオンだったラミレスが5回に右で痛烈なノックダウンを奪ったが、挽回したエスピノサが最終12回に倒し返して2-0判定勝ち。ベルトをメキシコへ持ち帰った。

 身長185センチと歴代世界フェザー級王者の中ではもっとも長身のエスピノサは地元グアダラハラのプライベートジムで、王座奪回を目指す“エル・トレン”(電車)ラミレスはラスベガスのサラス・ボクシング・アカデミーでキャンプを行い、対戦に備えている。同日はWBO世界スーパーフェザー級王者エマヌエル・ナバレッテが元王者オスカル・バルデスと防衛戦が組まれている。このメキシカン対決も昨年8月の第1戦に続くリマッチとなる。

 1年ぶりの顔合わせとなるエスピノサとラミレスは今年6月にそれぞれリングに上がり、エスピノサはセルヒオ・チリノ(メキシコ)を3度キャンバスに送って4回TKO勝ちする圧勝で初防衛に成功。ラミレスも1週間後、ランカーのブランドン・ベニテス(メキシコ)を一撃でフィニッシュするスペクタクルな結末で復帰を果たしている。

 初戦のダウン応酬のスリリングな激闘、前哨戦ともいえる6月の試合内容から今回の再戦がますます興味深くなる。そして勝者が来年、フェザー級タイトル挑戦が有力なスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)のターゲットの一人になるだけに日本のファンにとっても見逃せないカードだ。

レジェンドから助言を受けるエスピノサ

 この試合をプロモートする米国大手のプロモーション、トップランクは井上の共同プロモーターでもある。勝者をモンスターに当てる動きを取ることは間違いない。初防衛戦で日本のリングに登場し、五輪銅メダリストの清水聡(大橋)を前半でストップしたラミレスは当時、長期王座に君臨する期待が高く、いずれは井上の挑戦を受けるのではと予測された。しかしそこに立ちはだかったのがエスピノサだった。

 エスピノサ(25勝21KO無敗=30歳)はグアダラハラに居を構える元3階級制覇王者マルコ・アントニオ・バレラ(メキシコ)からもアドバイスを受けているという。「私はこのリマッチを望んでいた。回避することもできたし、引き延ばすことも可能だったけど、真の強豪と呼ばれるチャンピオンになるために必要な試合だ」と抱負を口にする。

 同時にバレラを含めたメキシコの先達、レジェンドたちをリスペクトするものの、彼らのすべてを受け入れることはないとアピール。「これからは私の時代。自分の長所を伸ばしていきたい」と独自のカラーを出したいとインタビューで語る。メキシカンの特長であるアグレッシブさを強調しつつ、状況に応じた対応をしたいと心境を明かす。

 キャンプにはWBC世界バンタム級王者中谷潤人(M.T)がロサンゼルス合宿で拠点にする「ノックアウトジム」を切り盛りするマニー・ロブレス・トレーナー、帝拳ジムの田中繊大トレーナーが同行。万全のコンディションに仕上げて返り討ちを目指す。「チリノ戦で実力アップを誇示した。それをラミレスに対しても証明したい。1秒でも集中力を失ってはダメだ。初戦ではそれが私に代償をもたらした。再戦を制するキーとなるだろう」と気を引き締める。

地元グアダラハラで鍛えるエスピノサ(写真:Top Rank)
地元グアダラハラで鍛えるエスピノサ(写真:Top Rank)

オッズはラミレス有利だが……

 対するラミレス(14勝9KO2敗=30歳)はこちらも名将イスマエル・サラス・トレーナーの指導でリベンジを誓う。初戦で遠回りを強いられただけに並々ならぬ意気込みで汗をかく。

 「私はキューバのボクシングスクールの出身だけど、リング中央で打ち合うメキシカンの肝っ玉も兼備している。勝利は私の現在位置を証明する。クラス(フェザー級)のベストを決める戦いになる」

 トップランクのプレスリリースでラミレスはこう話す。また「初戦はベストな状態ではなかった。それでもあれだけの試合ができた。今回はベターなコンディションなので違った結果が待っている」と王座復帰に自信を隠せない。

 オッズをチェックすると3-2ほどで挑戦者ラミレス有利と出ている。初戦の前は5-1でラミレスだったから差は縮まったものの、今回もキューバ人が支持されている。

ラスベガスのサラス・ジムで調整するラミレス(写真:Top Rank)
ラスベガスのサラス・ジムで調整するラミレス(写真:Top Rank)

 フェザー級はWBA王者がニック・ボール(英)、WBCがブランドン・フィゲロア(米)、IBFがアンジェロ・レオ(米)が占める。いずれも井上の転級にウェルカムの姿勢を示す。ボールは殿堂入りプロモーターのフランク・ウォーレン氏、フィゲロアはPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)傘下におり、レオは新入りのProBox TVがプロモーター。ただしレオが戴冠したルイス・アルベルト・ロペス戦はトップランクが主催。エスピノサvs.ラミレスの勝者とレオが2団体統一戦で雌雄を決するシナリオも考えられる。

 同時にトップランクのボス、ボブ・アラム氏と交流があるウォーレン氏はボールとエスピノサvs.ラミレスの勝者の対決に興味を示す。レオとボール2人に統一戦の道が拓かれる今回の再戦は、モンスター争奪戦の重要なパートを占めることになりそう。主役の一人ラミレスはキャンプ中にキューバから父の病状が悪化との知らせが届き、精神的に影響を受けたという。それが災いするか、逆にラミレスが奮起してベルトを奪回するか。私はオッズに反してエスピノサ有利とみるが、果たして?

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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