「終わらない残業」に苦しむ人たちの知られざる苦悩とは?
■ 残業は文化である
2019年も残すところ、あとわずかとなった。来年4月から大企業のみならず、中小企業もすべて残業上限規制の新ルールが適用(原則として月45時間・年360時間)される。そんなご時世なのに、今年1年も「終わらない残業」に苦しんだビジネスパーソンは多かったのではないか。
私は残業を、野球でいうところの「延長戦」だと捉えている。したがって毎日残業している人は、毎日「延長戦」をやっているようなものと受け止めてほしい。労働条件の悪い「ブラック企業」とレッテルを貼られる前に、不毛な残業は一掃したい。
それにしても、なぜ残業はなくならないのか?
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。「絶対達成」がスローガンだから、現場に入ったら本気で残業を減らしてもらう。だが実際のところ、簡単に残業は減らない。なぜなら、残業は「組織の文化」だからだ。
■ 残業しても許される「空気」
残業は、組織の文化だ。
・残業したほうが頑張っていると評価される「空気」
・残業するのが「あたりまえ」だと信じて疑わない「空気」
このような空気が組織にある限り、「終わらない残業」は減らない。残業ゼロにしたい、休日出勤を減らしたいとは口にしていても、実際にはその空気が許さないからだ。
これがいわゆる「同調圧力」である。どんなに業務の棚卸をして「ムリ・ムダ・ムラ」分析をし、個人個人に働きかけても、残業がなくならないのはそのせいだ。
■ 不人気なレストラン
「終わらない残業」を社員にさせている企業は、組織文化そのものを変えない限り、未来はないだろう。そのような組織文化の企業に、優秀な人財が入社するとは思えないからだ。いっぽうで、いつも「終わらない残業」をさせられている人は、自覚したほうがいい。知らぬ間にマーケットバリューが落ちていることを。
先述したように、「終わらない残業」をさせるような企業に優秀な人財は来ない。
そのような組織にいて、「終わらない残業」をさせられつづけたら「思考停止」になってしまう。この会社を変えようという改善意欲も出てこないし、転職するために自己研鑽する気にもならない。
ずっと「不人気なレストラン」へ通い続ける客と同じ状態になっているのだ。他にもたくさん、良心的な値段で、美味しい料理を出す、しかも笑顔のステキな店員がいるレストランがあるというのに。
だから、あまりに思考停止だと、転職という選択肢も思い浮かばないことが多いのだ。
企業の再生支援をしている際、
「なぜこのような、優秀な社員がこの会社にいるのか」
と驚くときがある。本人に聞いても、ハッキリした理由はない。会社に恩義があるわけでもないし、世話になっているお客様がいるわけでもないと言うのだから。
■ 考える力を養え
それでは、なぜ思考停止になってしまうのか? 理由は単純だ。脳に空白がないからだ。毎日余裕がないから、脳に空白を作る暇がない。そして空白がないから、その空白を埋めようと思わなくなる。
では、空白を作るにはどうすればいいか?
簡単だ。切り口の鋭い質問をすればいい。一度立ち止まり、冷静になれる時間を見つけて、自分に対し、質問してみるのだ。
たとえば、以下のように。
・実際に、「終わらない残業」って何だろう?
・誰が、「終わらない残業」を自分にさせているのだろう?
・「終わらない残業」って、本当に終わらないのだろうか?
・本当はもっと早く終わるのに、自分自身で「終わらない残業」にしていないだろうか?
・「終わらない残業」を終わらせるのに、自分は何をすればいいのだろうか?
・「終わらない残業」をやらないと、どうなるのだろうか?
・「終わらない残業」をやりつづけると、どうなるのだろうか?
このように、いろいろな質問を自分にぶつけてみよう。あらゆる角度で自問自答してみるのだ。それだけでいい。
答えがわからなくても、一つでなくても、かまわない。質問をすることで脳に空白ができる。その空白を頭に残しながら日々過ごすのだ。そうすることで、少しずつ頭がまわりはじめる。
思考停止状態から抜け出せるのだ。
「終わらない残業」を終わらせるために、まず考える力を養うことをめざそう。