対立国キューバの果ての小さなアメリカ「グアンタナモ収容所」 今も続く9.11の爪痕(1)
筆者が2008年に初めて訪れたカリブ海の島国キューバで見たもの、それは「世界のどこを訪れても見たことがない。だけど懐かしい」そんな原風景だった。以降キューバに魅せられ2019年、取材で再訪した。
そして今年、3度目のキューバ訪問のチャンスがやってきた。だがこの旅は事情が大きく異なった。
島の南東部にある小さなアメリカ「グアンタナモ米軍基地」で見たものは?
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【現地ルポ】1. ビザ不要...だけど最強パスポートを持つ日本人でも簡単には行けない? キューバの果ての小さなアメリカ「グアンタナモ」への道
今も続く9.11米同時多発テロの審問
3月某日、筆者は米東海岸のワシントンD.C.近郊にいた。ここアンドリュース空軍基地から、キューバ南東部のグアンタナモ湾に向け出発する。これから始まる1週間の旅は特別な体験になりそうだ。
キューバと言えば近隣の大国アメリカが経済制裁を加える国の一つで、2021年アメリカから「テロ支援国家」として再指定されている。日本人にも影響が及び、キューバ渡航歴がある人は渡米の際にESTA(ビザ免除プログラム)が利用できなくなった。そんな“不仲”な二国間の移動となる。
グアンタナモに行く目的は、9.11米同時多発事件のテロリストの審問を目撃するためだ。あれから20年以上経った今も、この事件は尾を引いているというのだ。
厳重な書類審査を経て訪問できる小さなアメリカ
これから向かうのはキューバ国内であることは間違いないのだが、実質的には米軍基地間移動となるのでビザは不要。ただし厳重な書類審査があり、過去5年の訪問国、職歴、居住地から両親の情報に至るまで申告し、バックグラウンドを徹底的に調べられる。それにパスした後もグアンタナモ上陸に際して、アメリカ人含む全員にパスポートと米国防長官府補佐官室発行の書類提示が求められる。
気が遠くなるような幾重にも重なるスクリーニングを経て、やっとここまで到達した。
筆者が搭乗したのは、米軍が手配した週に1度しか就航しない特別チャーター便。左右2席ずつ&真ん中3席の200人乗りボーイング機(767-200)で、チャーター機にしてはずいぶん大きい。搭乗客は米本土から向かう検察官、弁護団、遺族、米軍関係者と家族などごく限られた人たちで、機内はコロナ禍を彷彿とさせるほどガラガラだ。
CAにこの日の搭乗人数を聞くとわずか57人とのこと。ただ時期によって異なり、1週間後に始まるラマダン期間中は審問が中断となるため、次週のフライト(筆者が本土に戻る便)は満席の予定だという。
昼間でもダウンジャケットが必要な土地から摂氏31度の常夏の国へ3時間で到着。飛行機のタラップを降りると太陽の照り返しで全身の毛穴がブワッと開きそうな感覚を覚えた。
ガタイの良い米軍兵士が真っ黒なサングラス越しに、到着した我々乗客に睨みを利かせ、ピリリとした緊張感が走る。この島内(厳密に島ではないがここの関係者はグアンタナモ湾を孤立したテリトリー的な意味合いでアイランド(島)と呼んでいた)はキューバ国内でありながらもはやキューバではないことを直感で感じた。あの国特有の陽気な音楽、レトロで退廃的な懐かしさや美しさはここにはなさそうだ。
(つづく:対立国キューバの果ての小さなアメリカ「グアンタナモ収容所」 今も続く9.11の爪痕(2): 「グアンタナモ」とは?)
(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止