eスポーツの未来は実業団にある…!? 2020年の振り返りと2021年に望むもの
eスポーツ書籍、2020年の締めくくりに増刷
12月になり、自身の誕生日を迎え、またひとつ年を重ねました。ゲーム業界に身をおいて28年になろうとしています。
ふと周囲を見回すと、かつて一緒に働いていたメンバーの姿を徐々に見かけなくなりました。おそらく形は変われども、それぞれが自身の歴史のなかでゲームやエンタテインメントと向き合いながら生きていることに変わりはなく、私も意思と情熱が続く限り何らかの貢献をしたいと思っています。
さて、その誕生日に、昨年6月に出版した「eスポーツのすべてがわかる本 プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで」の増刷書籍が届きました。今回で3刷になり、知人の出版関係者からは「快挙」という有り難い言葉をいただきました。
内容面は取材に協力いただいた皆様のおかげに依るところが多いと思います。あとは基本的な執筆方針として当事者であっても、第三者的な視点を忘れずに取り組んだ内容が評価いただけたのかもしれません。ありがとうございます。
Jリーグの始まりとは?
私事の昔話になりますが…、私は90年代前半にギャガコミュニケーションズ(以下:ギャガ/現在のGAGA)に勤務していました。
1993年のことですが、ギャガから資本提携先の「TSUTAYA (CCCカルチュアコンビニエンスクラブ)」へ出向を命じられました。出向先は「TSUTAYA」の子会社でアメリカ発祥法人の「レントラックジャパン」でした。
「レントラックジャパン」は、ビデオのペイ・パー・トランザクション(Pay Per Transaction)、つまり、視聴した回数だけレンタル料金を支払うという斬新なシステムを導入している会社で、当時はなかなか受け入れられるシステムではありませんでしたが、現在のデマンド配信のコンセプトに近く、時代を先取りした展開を行っていました。
ただし一般的なハリウッド大作や邦画は、そのようなシステムでの流通を拒否したため、オリジナルの商材を探していたところ、94年にできたばかりの「Jリーグ」の試合結果を、試合後1週間で店頭に映像化してレンタルビデオを作ることになりました。
試合後1週間でパッケージを店頭に置くというタイトなスケジュールでしたが、店頭でのレンタルビデオの回転率も良く、お客様から好評を博しました。
…その時に思ったのは、「Jリーグ」ってなんだろう?…ということです。
Jリーグのルーツと発足後の環境変化
「Jリーグ」の正式名称は、日本プロサッカーリーグ(Japan Professional Football League)で、1993年に10クラブチームで開幕し、1998年には最大で18クラブチームが運営されていました。各チームのイメージキャラクターを作成し、応援団をサポーターと呼ぶ…など、よい意味でイメージ戦略が成功しました。また三浦カズ(知良)選手を筆頭に、スター選手がスタジアムで試合を盛り上げました。
しかし、元々は企業のクラブチーム、いわば実業団がルーツにあり、それぞれのチームがJリーグ発足以前のアマチュアの頃から切磋琢磨してきたものが、正式にプロ化したもので、現在では地上波のスポーツニュースではプロ野球と同じく、試合結果はもちろんのこと、海外試合や選手の移籍までもがメディアに取り上げられるのは至極当然というステイタスを得ました。
同時に選手にも実力主義のピラミッド的構造はあれども、成功した選手は富と名声を得ることができました。また付帯するビジネスとしては「スポーツくじ」BIGとtotoも一般化し、そこから派生するキャッシュも大きなものになっています。
近年、同じような動きはバスケットボールでもあります。リーグの統一化、さらにはイメージ戦略、オリンピックへの正式参加という目標、そして将来的にはスポーツくじの導入も見据えてのこと、Jリーグと同様に考えていることでしょう。
eスポーツも実業団発展モデル「eリーグ」を目指すべき
上記に挙げたJリーグ、Bリーグと同様に、eスポーツに関しても、おそらく同じようなビジネス構造と拡張構想はゲームパブリッシャーやJeSU(日本eスポーツ連合)の目論見にあると思います。
つまり「eリーグ」構想です。
2018年2月1日、JeSU が発足したのは、単にオリンピック競技へのeスポーツの採用のみならずビデオゲーム(広義のeスポーツ)のさらなる振興と発展のためのビジネス化の一歩であり、そのためにはスポーツくじと同等のスポーツベッティング(賭けスポーツ)の実現が最終的な目標にあると思います。
eスポーツをはじめとした競技の根源的なものには「オレが絶対的に強い(速い、巧い)」というものがあると思います。そうでなければプロを目指さないと思いますし、その「個」が集まったものがeスポーツ・チームでありプロゲーマーだと思います。
しかし、前章に挙げたJリーグのルーツに準えれば、彼らはクラブチーム(実業団)としてテクニックのみならず社会人としてのあるべきルールやマナーを備えたなかで対戦を繰り広げキャリアを築いてきました。もちろんJリーグの選手すべてが清廉潔白か?という問いにはノーです。なかには暴力沙汰や事故や事件を引き起こしたものもいます。
…とはいえ、2020年、eスポーツに関わる問題事象が多かったとも感じています。
それらの内容のレベルは非常に低く、社会人としての良識や常識を疑うものも多くありました。おそらくそれらは個々人の資質によるものだとは考えますが、私は2021年を迎えるにあたって、eスポーツ・チームを実業団レベルからスタートすべきだ・・・という暴論を振りかざすつもりは毛頭ありませんが。コロナ禍のなかで実業団を維持することは企業にとっても大きなチャレンジになるため推奨したところで実現する可能性はまだまだ低いと思います。
ただし、それらが実現しなくとも、チームをマネジメントする側と、プロゲーマーとしてチームと契約する側の両方に高いモラルを求めないといけない時期に来ています。
決められた給与(報酬)、契約内容、双方の合意と高い目標が必要です。そして、実業団を目標にするくらいの高いモラルやビジョンも必要です。Jリーグが成功したもの、そのようなマネジメント側とプレイヤーの双方の相互理解と協力、そしてそれを受け入れたサポーターたちの支援があってこそ、現在のステイタスと評価を得たのではないでしょうか。
2021年以降は、名乗れば誰でもYouTuber、プロゲーマーとして通用する時代を過去のものにしないといけない時期に来ています。
2021年は、eスポーツをさらなるライブエンタテインメント、ビデオゲームカルチャーのネクストレベルとして昇華するタイミングになるための応援をしていきたいと思います。
読者の皆様、御高覧ありがとうございました。よい年末年始をお過ごしください。
※)9日16時誤字修正しました。
【追記】
黒川塾 96チャンネル にても今回の解説動画をアップしました。よろしければ、こちらもご覧ください。