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「わが町・府中に『統一教会』系カルト集団はいらない」怒りのパレード 自治体との温度差に危険性をみる

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

「わが町・府中に『統一教会』系カルト集団はいらない!」「教会の建設を直ちにやめろ!」シュプレヒコールが駅前に響き渡ります。

5月19日、旧統一教会より分派した「霊連世協会」が東京農工大学の近くに教会を建設していることに、住民らが反対の声をあげて府中市内を練り歩きました。

街頭で建設反対のチラシを受け取った方のなかにも、知らなかったという表情で立ち止まり、見入っている人の姿もありました。パレードは4回目になります。現在、教会の建設は基礎部分でストップをしていますが、住民らの反対の声が出ていても、いまだ教会建設をやめる気配はみられません。

なぜ反対するのか?

なぜ反対運動をしているかといえば、その理由の一つに教会が高校、大学などの教育施設が多くある場所に建てられようとしていることがあります。

旧統一教会の霊感商法、高額献金などの問題が起きた根本原因に「正体を隠した布教」がありますが、まさに学生が多く行きかうこの場所で、それが行われる可能性が懸念されています。

1980年代から2000年にかけて、教団は爆発的に信者数を増やして、甚大な被害を生み出しました。信者数がなぜこれだけ増えたのかといえば、教義を教え込むビデオセンターに旧統一教会であることを隠して誘い込み、統一原理を心に刷り込ませていたからです。しかも、この手法は全国で画一化された教化システムになっており、学生に対しては教団名を隠したサークルやイベントに誘うことから始めることが多くありました。

まさに私自身も1987年の大学四年生の時に、この手口にひっかかった一人です。旧統一教会の信者らで構成されていることを隠したバレーボールのイベントに誘われました。さらに、教義を教え込む場であるビデオセンターであることが伏せられたまま通うことになり、知らぬ間に教義を植え付けられて信者となったわけです。若者は社会経験も少なくガードも緩いために、そこが狙われます。

「霊連世協会」の会長は「文鮮明先生の愛の精神と教えと、その教えの根本に帰ろう」と教団の改革を求めましたが「10年前に旧統一教会から異端者として除名された」としていますので、統一原理をもとに信仰活動をしていることは間違いありませんし、もっといえば、それまで旧統一教会の信者として、霊感商法の被害を生み出してきた人たちです。それゆえに同じ手法を使うことは充分に考えられます。

多摩市と府中市の危機意識の違い

現在、隣接する多摩市にも、旧統一教会は研修施設の建設のための6300平方メートルにも及ぶ土地を購入しています。それに対して市民グループ「統一教会はNO!多摩市民連絡会」が立ち上がり反対運動を展開しました。やはりこの場所にも、国士舘大学や都立永山高校といった教育施設があり、そこに教団施設を建てようとしています。若者が勧誘被害に遭う可能性もあり、その危機感もあり、多摩市の阿部裕行市長は旧統一教会に建築行為等を行わないよう申し入れを行うなど、自治体と住民が一体となって、この問題に対処しています。

しかし、府中市はどうでしょうか。

旧統一教会問題に端を発した、分派の教団建設に対する自治体と反対する住民らとの温度差には大きな開きがあると感じています。これまで取材をし続けていますが、府中市長から反対の声に耳を傾けて、共に行動しようとする姿勢はみえていません。

確かに、教団本体と分派では土地の規模や信者数は違い、危機感を持っていないのかもしれませんが、被害を引き起こす可能性の深刻さは変わりありません。それどころか分派の方がより懸念があるといえます。

旧統一教会の解散命令は、分派には影響ほぼなし

多摩市の場合、旧統一教会への解散命令が司法から出されて確定すれば、建物がこの場所に建てられない可能性はありますが、この件は分派には、ほとんど関係なく影響はほぼないと思われます。

旧統一教会は、会見にて2009年のコンプライアンス宣言における「伝道活動において、勧誘する当初から教団名を明示する」ことを、信者に再徹底させるとしています。その実行性はブラックボックスですが、少なからず公言していますから、国民から厳しい目で見られています。

しかし府中市に教会を建てようとしているのは、分派団体です。彼らは旧統一教会が行ってきた「正体隠し」の布教手法が染みついた上に「正体隠しの伝道をしない」と公に発表していません。悩みを持った若者たちが同協会の信者と知らないままに相談をすれば、統一原理を教え込まれ知らぬ間に引き入れられてしまうことは充分に考えられることなのです。

同協会は、すでに府中市に教会と別にマンションを買い取って、ホーム(信者らの居住地)としています。

パレードの開始前に主催者の一人からは「自転車が毎日10台くらい置いてあって、若い人を含めて信者らしき人が府中市で活動しているということを報告しておきたい」という話もありました。「若者たち」というフレーズを耳にして、やはり正体隠しの勧誘が懸念されます。いや、もしかするとすでにそれが行われていて、知らぬ間に交流を持っている若者がいるかもしれません。

不作為が、旧統一教会問題の被害を大きくした

「市民の皆さん、若者や子どもたちを守るために教会建設反対の声をあげてください」「府中に、カルト集団はいらないと声を上げてください」パレード参加者らの声が駅前に響きます。

その声を聞きながら思うのは、旧統一教会における霊感商法の被害がなぜ広がったのかということです。それは国や社会が「何も行動しなかった」からです。信教の自由があったため、政治家と旧統一教会とのつながりゆえ、あるいは「触らぬ神にたたりなし」の心境だったのかはわかりませんが、いずれにしても、不作為が被害を広げる結果となりました。

私の専門とする詐欺や悪質商法の防犯対策でもそうですが、被害が起こる前に対策をして芽をつむことが、何より大事になります。もちろん、信教の自由は大事ですが、民事裁判の判決で違法性を指摘されている「正体隠し」の伝道などは、絶対にさせてはいけません。

教会建設を始める時も、霊連世協会は、旧統一教会の分派であることをはっきりと大学や近隣住民らに伝えていませんので、「正体隠し」を行う恐れは十分にあると考えています。まず多くの府中市民が関心を寄せて、反対の声に耳を傾けることから、被害を生み出さないための歩みはスタートします。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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