宗教2世問題と、教団を批判する者への「お前殺す」などの誹謗中傷に同じ構図をみる 現在の対策では不十分
7月12日、立憲民主党を中心とする「統一教会」国対ヒアリングが行われて、エホバの証人の元2世のまっきーさん(仮名)、旧統一教会元2世の田村一朗さん(仮名)から話があり、深刻な状況にある宗教2世問題が取り上げられました。
119人へのアンケート調査
まっきーさんは、宗教2世バーという集まりを、安倍元首相が銃撃される事件前から開いています。今回、現役信者、元信者、信者を親族に持つ方119人に「事件から2年がたち、その前後で何か変わったか?」のアンケート調査を行いました。
「事件の影響で、教団からの寄付の圧力が弱くなったという話もありますが、水面下で未成年の2世への干渉が強くなったとの報告もありました。体感としてステルス性が強くなっている」として、今後「未成年者を追い詰めるような忌避」「医療行為を禁じる行為」「信仰を理由にした過度な体罰や断食」などが過激にならないかを、まっきーさんは心配しています。
「宗教2世への社会福祉のお願い」と題された要望書では、宗教の信仰等に関する児童虐待等への対応に関係するQ&Aのさらなる周知と「学校や病院等の身近な大人が(子どもの)異変に気づき、福祉に繋げる取り組み」や「多くの2世が大人になってもフラッシュバックが起こり、精神的な揺らぎを抱えている」として、カウンセリングにおける金銭的支援などを通じて、治療への第一歩が踏み出しやすくなる対策を望んでいます。
私自身も1世の元信者として何度か宗教2世バーに足を運んで皆さんの話を聞いていますが、心に大きな傷を抱いて信者である親との関係に悩んで、成人になっても心を痛め続けている方が多くいらっしゃいます。金銭面でのサポートは何よりも必要とされています。
親子の隙間に入り込んだ宗教による負の影響が、宗教2世問題
田村さんは、統一教会2世の立場で母親から育てられた山上徹也被告が「安倍元首相を殺してしまった事実に打ちのめされて、彼が本当に殺したかったのは自分のような教会で過ごしていた者だったのではないかという思いと罪悪感で精神的混乱に陥った」と話します。そこから脱した経験をもとに田村さんは次のように話します。
「宗教2世問題について、親子問題と同じようなことをいわれたりしますが、親子の隙間に入り込んだ宗教による負の影響こそが、宗教2世問題のポイントです」
それにもかかわらず「(旧統一教会側が)信教の自由や宗教弾圧の問題にすり替え、それらにかこつけて(2世への)抑圧や人権侵害が行われていることを正当化することは許されない」と指摘します。
また旧統一教会における2世問題の独特な深刻さについて「神の子は(自由恋愛などによる)性関係があってはいけないとか、合同結婚式に参加しなければダメという教えで、結局親がそれを子どもに守らせようとして、とんでもない圧がかかるわけです。人間の(心の)コアな部分にまで教えや戒律が入りこむことで『いのちの蹂躙』が起きている」と危機感を募らせます。
声を上げた被害者に対する誹謗中傷対策はどうなっているのか
田村さんら宗教2世は国に対して「旧統一教会問題の被害者等への支援策に関する提言」を出しており「支援にあたる専門職支援者の確保と養成」などの提言をしていますが、声を上げた被害者に対するSNSなどでの誹謗中傷による人権侵害への対策も強く訴えます。
ヒアリングの冒頭で立憲民主党の山井和則議員も「宗教2世や被害者の方々には、激烈な誹謗中傷、ひどい場合は『殺す』という電話もくるわけで、なかには宗教2世のプライバシー、名前、住所などをインターネットでさらして口封じをするようなこともありました。皆さん、激しい誹謗中傷で苦しんでおられます。身の危険を感じながらも発言してくださる、まっきーさんと田村さんには本当に感謝申し上げます」と述べていますが、多くの元信者である2世や被害者家族が様々な言葉の暴力にさらされています。
法務省の人権擁護局は、法務局の取り組みとして次のように話します。
「インターネット上の誹謗中傷を受けられた方について各法務局で人権相談を受付けておりますので、ご相談者の方の意向に応じて、プロバイダー等に削除を依頼する方法をお教えしたり、私どもの方で投稿が違法であるかを判断した上で、削除要請をしたり、投稿者がわかる場合には『やめてください』ということを伝えるなどの対応を行っています」
誹謗中傷の対策としては不十分
これを聞いて、私は誹謗中傷の対策としては不十分だと感じました。
旧統一教会に反対するものは、教義上サタン(悪魔)と教えられています。それゆえに、信者からは、相手をサタンとみたような人格を否定するような言葉が次々に浴びせかけられます。
2世への宗教的児童虐待は、単なる親子関係からくるものではなく、親の背後には宗教教義があり、それによって引き起こされる問題です。誹謗中傷も同じで、信者やシンパらが発する背後には、宗教教義があります。つまり個人である被害者に対して、教団という組織側から束になって攻撃が行われていることに等しいことになります。
もし一人一人に誹謗中傷の書き込みを削除させていっても、それが教義に基づいた行動である限り、次々に新たな誹謗中傷が別の人物から出てきて、永遠になくなることはありません。もっと根本から解決できる道をしっかりと示す必要性があります。
あえて宗教2世という言葉を使わない理由
ジャーナリストの鈴木エイト氏は事件前から、宗教2世問題のイベントを通じて、直接にその声を聞いてきています。
一昨年、「宗教2世」が流行語大賞でトップ10入りしましたが、5年前からあえてこの言葉を使っていないといいます。
「なぜかというと、宗教に限った問題なのではないところがあります。最近では、(反ワクチンなどの)陰謀論などのカテゴリーで、人権侵害を起こしている2世の問題もある。宗教2世の周知が進んだ一方で、逆にカテゴライズされてしまって、宗教団体の問題だけと思ってしまい、自分とは関係ないとの理解になってしまう」ことを危惧しています。
「山上徹也被告自身は自分を宗教2世とは見ていないんです。『宗教2世は気楽でいいな。お前らが親を殺したら評価してやるよ』みたいなことを事前にツイートをしているんです。そうなると、彼自身が、今いわれている宗教2世からは外れてしまうことになる。でも、そういう存在がこれだけの社会を震撼させるような事件を起こしてしまっている」と今後の課題を語ります。
自立支援への対策と子どもへの気づきのアプローチの必要性
久保内浩嗣弁護士は、2世からの相談は30代~50代が多いといいます。
「成人した2世に関して言えば、自立支援が必要です。自立したい意向はあるけれども、2世として育ったことで精神的な問題が出て引きこもりになったり、就職をするけれども、人間関係がうまく構築できずにやめてしまう。その繰り返しで自立できない問題があります。お金の面も大きく、カウンセリングを受けたりしますが治療費の財源もなく、カウンセリングに効果を感じつつもやめてしまうこともある」として、自立支援への対策を取ってほしいと訴えます。
同弁護士は、小学生、中学生の2世が自分から声を上げることは、なかなかできない状況も指摘します。
「自分が置かれている問題を認識できていませんので(他人と)ちょっと違うんじゃないかという疑問に気づかせ、自ら声を上げられる環境を整えることが必要です。大事なのは学校で、教員の方が気づける機会が多い」としています。
「とはいえ、子どもから何のサインも出ていなければ(教員も)気づけませんので、サインを出してもらうためにも、宗教2世に特化したDVDなどを作成してほしい」と提案しています。
学校現場での積極的な通報の必要性
過去に教員として勤めていた経験のある議員から、学校側の対応について次のような質問がありました。
「クリスマス会に参加できなかったり、土日に宗教勧誘のため親と一緒にずっと歩いている子たちを思い出しました。学校の教員には虐待などをみた時には通報義務があります。しかし私たち(教員)がもう一歩踏み込めなかったのは、ご家族に話してしまった時に、その後、もっとひどい虐待が行われてしまうのではないかという心配です。もしアドバイスがあればお願いします」
まっきーさんは「親からの鞭打ちがひどくなるかもしれないということだと思いますが、まず子どもを保護していただきたい」と話します。
「勇気を持って親にいって良いということですよね」と議員から尋ねられて「はい」と答えます。
久保内弁護士は「統一教会2世の方が弁護士に相談にこられて、児童相談所につないで一時保護になったケースがあります。一時保護をしたことで、その後親子が話し合い、親も自分たちの考え方を改めて子どもの意見を尊重する話になって家庭に戻ったケースがありました。一時保護することで、親も少し頭を冷やして考えを改めることもあります」と、学校側が宗教2世問題の深刻さを知って、子どもたちの保護を優先する対応を取ることの大事さを語ります。