ギラヴァンツ北九州:新スタ初ゴールは花井聖! 約1万5千人が声援。新生ギラ、初陣はドロー
明治安田生命J3リーグが開幕し、ギラヴァンツ北九州は新スタジアム「ミクニワールドスタジアム北九州」で初戦を迎えた。
明治安田生命J3リーグ第1節◇北九州1-1秋田【得点者】前半30分=花井聖(北九州)、同44分=久富賢(秋田)【入場者数】1万4935人【会場】ミクニワールドスタジアム北九州
戦力は十分。ピッチ環境も良好
昨シーズンのJ2を最下位で終え、J3に降格して再スタートするギラヴァンツ。風間宏希や原一樹など主力の一部は流出したものの、原田武男新監督を迎え、ベテランGKで背番号1を付ける山岸範宏、ガンバ大阪やアビスパ福岡でプレーしてきたストライカー・平井将生らを獲得。個人の力だけで見れば十分にJ2時代に匹敵するほどの顔ぶれを揃えて再昇格を目指す。
開幕戦は北九州市小倉北区の海沿いに完成したミクニワールドスタジアム北九州(ミクスタ)で行われた。これまで本拠としてきた本城陸上競技場では得られなかったJ1クラブライセンスの要件を満たすスタジアムだ。ただ、本城からの伝統がぷっつりと切れてしまったのではなく、三浦泰年監督時代(10年と11年)に劇的に改善し、のちにベストピッチ賞を受賞するに至った芝へのこだわりは受け継がれている。現在の芝は熊本県内で育ったもの。熊本地震の影響で納入が遅れたものの、ていねいな作業で開幕戦には十分に根付いた全面良芝のピッチができあがっていた。
このピッチを取り囲むスタンドは満員に。開幕戦にはクラブ史上最多で、J3リーグでも最多となる1万4935人が訪れた。
先制は花井。新スタに名を刻む一撃
ゲームはミクスタに迎えたブラウブリッツ秋田が高い位置からプレスを掛け、主導権はどちらかといえば秋田にある状態で進む。ギラヴァンツはFW小松塁とFW水永翔馬を前に置くものの、自陣からなかなかボールを出せない。もどかしい時間帯が続くが、ボランチから転向してセンターバックでプレーする加藤弘堅と本職のDF西嶋弘之を軸とした最終ラインが踏ん張ると、少ないチャンスをしっかりとモノにする。
ギラヴァンツは前半30分、前線で展開してMF神崎大輔がミドルシュートを放つ。これは弾道としては枠を捉えなかったが、「神崎さんがシュートを打ったときに、僕のところに来たら入らないと思ったのでコースを変えようと意識した」と話すMF花井聖が足を入れてゴール方向に振り、先制のネットを揺らした。「うまく体が反応した」と花井。昨シーズンは満足に試合に出られず復活を期すボランチが、一瞬の判断を研ぎ澄ませ、今季初ゴール。もちろんこれがミクニワールドスタジアム北九州の初ゴールとなり、歴史に名を刻む一撃になった。
ところが先制しても波には乗れず、雰囲気に飲み込まれてしまったり、「相手の圧力に対して受けてしまって、ラインが低くなった」(原田武男監督)ということも改善できず、ずるずると押し下げられてしまう。前半終了間際には秋田が同点ゴール。秋田は田中智大のシュートのこぼれ球から再構築すると、青島拓馬のクロスに久富賢が合わせてゴールに押し込んだ。「このチームの課題だった時間で失点した」と原田監督。指揮官やメンバーが大きく変ったとはいえ、修正の急がれる時間帯での失点となった。
後半は上向くも、ゴールは生まれず
落ち着きを取り戻したのは後半に入ってから。後半9分には加藤弘堅の縦パスに反応した水永翔馬がゴールに接近、同10分には石神直哉のコーナーキックに花井が合わせてゴールに迫る。いずれのチャンスも得点には結びつかなかったものの、前半よりはライン設定が高くなったほか、後半26分には内藤洋平を投入するとボール回しにも本来の持ち味が出るようになる。
とはいえ、陣形をコンパクトに保ち攻守にわたって連動するというスタイルは見せ続けられなかった。終盤にはFW池元友樹とFW平井将生がピッチに入り、攻撃に人数を割く。小松塁と池元の連係からシュートが生まれるなど、攻撃回数は増えるものの最後までゴールを奪うことはできなかった。
開幕戦は1-1の引き分けで勝ち点1。スタジアムがある小倉北区出身の池元は「最高の雰囲気で何としても勝たないといけないと全員が思っていた」と話し、「チームとして硬さがあった。立ち上がりや前半最後の失点がゲームを難しくし、チームとしてやろうとしたことは出せなかった」と悔やんだ。
ホーム開幕戦のドロー発進は「吉兆」
ギラヴァンツが1万人超をホームスタジアムに集めたのはこれが初めて。1万人に迫る記録として前身・ニューウェーブ北九州時代の09年、JFL開幕戦で9856人を集客しているが、実はこのときも猛攻実らずジェフリザーブズに0-0で引き分けている。ただ、このシーズンでJ2昇格を果たしており、満員かつ引き分けスタートは吉兆と捉え下を向かずに前に進みたいところ。
もちろん出てきた課題には取り組まなければならない。雰囲気に飲まれて硬くなったことやハイプレスに対してポジティブな対応ができなかったこと、それに悪い時間帯での失点癖を減らすことも喫緊の課題だ。
また、J2以上のカテゴリーで再び戦うための地力を養わなければならないが、一方でJ3の戦い方にも慣れる必要がある。
例えば高い位置でボールを失ったとき、カテゴリーを問わずファールを覚悟の上で体を寄せてカウンターを阻止することが多い。実際にギラヴァンツの選手もそういうトライをしたが、カウンターの鋭さはJ2に比べれば劣る。ファールをしてまで止めるよりも、自陣に残ったメンバーで陣形を整えたり、帰陣を急ぐ方が効果的な場面はあった。むろんJ3のプレースピードに慣れきってしまうと昇格したときに苦しい戦いになってしまうので、慣れにも限度はあるが、J3を賢く勝ち抜けるポイントを早く見極めたい。
応援の輪をどう増やすか。次戦が試金石
もう一つの課題は固定客を増やすこと。開幕戦の入場者数は上述のとおり1万4935人。昨シーズン、年間を通して試合に訪れた「固定客」が2千~3千人くらいだったことを考えると、1万人ほどのライトサポーターや初観戦者がスタジアムでゲームを見守ったことになる。こうした客層をどう今後の試合動員に繋げていくか。
市街地に近いスタジアムとして、直接消費(九州経済調査協会が12年にまとめた試算で年間10.5億円=市の資料による)のほかに、地域への波及効果も期待されているだけに、入場者数という結果も求められている。
リピーターを増やす最も重要な手段は、見ていて楽しいゲームをすること。しかし、どんなにいいゲームをしていても、ちょっとしたことが印象を下げてしまうこともある。この日、スタジアムとイベントエリアの間にある陸橋で来場者の声を聞くと、イベントやスタジアムグルメには満足していた一方、「入口かと思ったら再入場口だった」「横断歩道が遠い」など、動線の分かりにくさを指摘する声が聞こえた。案内図はあったが1万人超の来場者全ての目には入っていなかったようだ。
運営側も初開催ゆえに不慣れなところがあっても仕方のないこと。これ以外にも出てきただろう小さな不満を少しずつ解消し、いいゲームと良好な観戦環境をさらに整えたい。当然ながらクラブ任せにせず、既存のサポーターや関係者、行政などもそれぞれの立場から前向きに意見を出し合って改善を進めることが重要だ。
ギラヴァンツは来週は試合がなく、次戦は再びミクニワールドスタジアム北九州で開催。3月26日午後3時からセレッソ大阪U-23と対戦する。チームには今節の課題を踏まえた好ゲームを、運営側には魅力ある観戦環境作りを、いっそう期待したい。